岩波新書〈シリーズ 日本近現代史〉

満州事変から日中戦争へ

「満蒙の沃野を頂戴せよ」――背景に何があったのか.長期持久戦に突入していくまでの戦争の論理の諸相.

満州事変から日中戦争へ
著者 加藤 陽子
通し番号 新赤版 1046
ジャンル 書籍 > 岩波新書 > 日本史
シリーズ 岩波新書〈シリーズ 日本近現代史〉
刊行日 2007/06/20
ISBN 9784004310464
Cコード 0221
体裁 新書 ・ 並製 ・ カバー ・ 268頁
定価 990円
在庫 在庫あり
1931年の鉄道爆破作戦は,政党内閣の崩壊,国際連盟脱退,2.26事件などへ連なり,中国との長期持久戦体制へと拡大していく.内憂外患を抱え,孤立化する日本.「満蒙の沃野を頂戴せよ」──勇ましいことばの背景に何があったのか.満州とはいったい何だったのか.交錯する思惑を腑分けし,戦争の論理を精緻にたどる.


■著者からのメッセージ
 戦争とは、近親者と別れて戦場に赴くとか、原子爆弾で人間が一時に…死ぬとかいうことではない。……日中戦争は不思議な戦争だった。日中双方ともに宣戦布告を行わないまま戦闘が続けられるいっぽう、裏面では、太平洋戦争末期にいたるまで、種々の対中和平工作が執拗に続けられていた。日本人はあれを戦争だと思っていたのだろうか。…双方が相手国に対し、国際不法行為を行ったと主張し、自らのとった強力措置は…違法ではないと論戦し合う二国、それこそが1930年代の日本と中国の姿であった。


■編集部からのメッセージ
 「満蒙の沃野を頂戴しようではないか」──煽動の背景に何があったのか
 1931(昭和6)年9月18日夜10時20分、中国東北部、遼寧省・瀋陽(奉天)に近い柳条湖で、南満州鉄道の線路の一部が爆破された ―石原莞爾によって、周到に準備された作戦が実行に移された瞬間です。事件を機に世界の情景は一気に変わっていきます。
 著者によれば、満州事変は、(1) 相手国の指導者の不在を衝いて起こされたこと、(2) 本来は政治干与を禁止された軍人によって主導されたこと、(3) 国際法との抵触を自覚しつつ、しかし国際法違反であるとの非難を避けるように計画されたこと、(4) 地域概念としての満蒙の意味する内容をたえず膨張させていったこと、この四点においてきわだった特質を持っていたといいます(第一章参照)。このような特質を持った満州事変は、その後、日本社会をいかに変容させていったのでしょうか。
 シリーズ日本近現代史第5巻にあたる本書では、いったん、日露戦争まで遡り、1930年代の危機について、当時の世界情勢全体を視野に入れ、主に外交と軍事の側面から考察していきます。満州事変から日中戦争への拡大過程の内実を見ていく上で、そこまで時間軸を遡及して描くことがいかに重要であるか、本書を通して見事に浮かびあがってきます。国内で展開されたさまざまな立場の認識のずれ、日中双方の主張のずれをきめ細かく分析し、「戦争の論理」の諸相をスリリングに描ききる、刺激に満ちた一冊です。
(新書編集部 上田麻里)
 はじめに

第1章 満州事変の四つの特質
 1 相手の不在
 2 政治と軍人
 3 事変のかたち
 4 膨張する満蒙概念

第2章 特殊権益をめぐる攻防
 1 列国は承認していたのか
 2 アメリカ外交のめざしたもの
 3 新四国借款団
 4 不戦条約と自衛権

第3章 突破された三つの前提
 1 二つの体制
 2 張作霖の時代の終わり
 3 国防論の地平

第4章 国際連盟脱退まで
 1 直接交渉か連盟提訴か
 2 ジュネーブで
 3 焦土外交の裏面

第5章 日中戦争へ
 1 外交戦
 2 二つの事件
 3 宣戦布告なき戦争

 おわりに
 あとがき
 参考文献
 略年表
 索引
加藤陽子(かとう・ようこ)
1960年埼玉県に生まれる。東京大学大学院博士課程単位取得退学。専攻は、日本近代史。現在、東京大学大学院人文社会系研究科准教授。著書に、『模索する1930年代』(山川出版社)、『徴兵制と近代日本』(吉川弘文館)、『戦争の日本近現代史』(講談社新書)、『戦争の論理』(勁草書房)、『戦争を読む』(勁草書房)などがある。

書評情報

毎日新聞(朝刊) 2010年12月5日
東京人 2007年10月号
週刊新潮 2007年8月30日号
日本経済新聞(朝刊) 2007年7月29日
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