ユダヤ人と自治
中東欧・ロシアにおけるディアスポラ共同体の興亡
「国の法」と「ユダヤの法」 共存は可能か
中東欧・ロシアにおいて発達したユダヤ人自治は,近代国家の形成とともに存亡の危機を迎える.隷属と独立のはざまで,自治はいかに表象され,追求されたのか.国民国家の包摂/排除モデルでは捉えきれない自律の政治文化を,歴史,文学,法,教育など様々な角度から解明する.最新の学際研究.
序 章 隷属と独立のはざまで……赤尾光春・向井直己
はじめに
二つの法のはざまで――「ユダヤ自治」の古典的モデルとして
自律と独立のはざまで――本書の構成
Ⅰ 初期近代のユダヤ社会と自治
第一章 「ユダヤ人の自治」のイメージと現実性
――ポーランド=リトアニア共和国における四地方評議会の活動を例に……向井直己
はじめに
一 アシュケナージ・ユダヤ人の自治
二 「四地方評議会」と初期近代のユダヤ人自治
三 「ユダヤ人の自治」の複層性と複数性
おわりに 「ユダヤ民族」のイメージ
第二章 シャブタイ派の異端とユダヤ自治における非ユダヤ人の干渉……山本伸一
一 問題設定
二 異端に対する一七世紀のラビたちの戦略――オスマン帝国とポーランドの比較
三 ハヨーン論争――作られた異端の系譜と論争の始まり
四 エムデン=アイベシッツ論争――シャブタイ派をめぐる四地方評議会の分裂
五 フランク派の集団改宗事件――キリスト教権力の介入を求めるユダヤ人と自治の危機
六 結語
第三章 モーゼス・メンデルスゾーンとユダヤ自治……後藤正英
はじめに
一 フリードリヒ大王の統治下を生きたメンデルスゾーン
二 クリスチャン・ドームと『ユダヤ人の市民的地位の改善について』
三 ユダヤ人共同体の法的自治の制限
四 『エルサレム』における律法理解
おわりに
Ⅱ 自治の解体からナショナルな政治主体の創出へ
第四章 帝政ロシアのユダヤ自治機構カハル(一七七二‐一八四四年)……高尾千津子
はじめに
一 ロシア・ユダヤ史の前史としてのポーランド
二 ロシア帝国のユダヤ人
三 アレクサンドル一世時代の「ユダヤ人に関する規程」
四 ニコライ一世時代――カントニスト制度とユダヤ人の自治
おわりに
第五章 自伝と自律――ユダヤ啓蒙主義からヘブライ文化ルネサンスへ……赤尾光春
はじめに
一 近代的現象としての自伝
二 マイモン『自伝』の成立と受容
三 性的トラウマの記録としての自伝――M・A・ギュンツブルク『アヴィエゼル』
四 虚無からイデオロギーへ――M・L・リリエンブルム『青年期の罪』
五 自伝から虚構へ――M・Y・ベルディチェフスキー「カラスは飛び去った(たわごと)」とY・H・ブレンネル『冬に』
おわりに
第六章 ナショナリズムの国際化――ロシア帝国崩壊とシオニズムの転換……鶴見太郎
一 帝政末期のロシア・ユダヤ人
二 内戦と亡命
三 パリにおけるロシア・ユダヤ人の自由主義者
四 自由主義者とシオニストの論争
五 シオニズムの変貌
六 ポグロムの影
七 むすび
Ⅲ 文化自治の模索と破局
第七章 文化自治の最後の灯火――第二次世界大戦前夜のポーランドにおけるイディッシュ学校……西村木綿
はじめに
一 複数の「文化自治」
二 教育と学問――イディッシュ文化体系の両輪
三 TSYSHO学校展覧会「ポーランドのユダヤ人」
むすびにかえて
第八章 戦間期ポーランドにおける自治と同化……宮崎悠
はじめに
一 ポーランド=ユダヤ関係史
二 「同化」をめぐる用語法の問題
三 ポーランド史の文脈における「同化」
四 大シナゴーグの来歴
五 歴史家リンゲルブルムのポーランド=ユダヤ関係観
六 リンゲルブルム『第二次大戦中のポーランド=ユダヤ関係』
おわりに
第九章 正義と不正義の境界――ナチ支配下ウィーンのユダヤ・ゲマインデ……野村真理 はじめに
一 ウィーン・モデルとゲマインデ
二 移住から移送へ
三 ウィーンのユダヤ人社会の消滅
おわりに
Ⅳ ソヴィエト・ロシアにおける自治の行方
第一〇章 ソヴィエト・ユダヤ州(statehood)の増幅器としてのソヴィエト・イディッシュ文学
――神話形成と政治……ベル・コトレルマン 訳=赤尾光春
はじめに
一 ユダヤ自治州の草創期と発展期(一九二八‐一九三四年)
二 自治共和国の創立を目指した「民族形成」(一九三五‐一九三八年)
三 独ソ戦と戦後におけるビロビジャン計画の行方(一九四三‐一九四九年)
おわりに
第一一章 「捕囚の中の捕囚」の地としてのロシア――ソ連邦におけるユダヤ教の自治とハバド・ハシディズムの地神学 ……赤尾光春
はじめに
一 帝政ロシアにおけるユダヤ教の自治とハバド・ハシディズムの展開
二 六代目ヨセフ・イツハク・シュネールゾンとソ連体制下の地下活動
三 七代目メナヘム・メンデル・シュネールゾンの教説におけるソヴィエト・ロシアの位置づけ
おわりに
終 章 「独立」のあとに……赤尾光春・向井直己
はじめに
二つの法のはざまで――「ユダヤ自治」の古典的モデルとして
自律と独立のはざまで――本書の構成
Ⅰ 初期近代のユダヤ社会と自治
第一章 「ユダヤ人の自治」のイメージと現実性
――ポーランド=リトアニア共和国における四地方評議会の活動を例に……向井直己
はじめに
一 アシュケナージ・ユダヤ人の自治
二 「四地方評議会」と初期近代のユダヤ人自治
三 「ユダヤ人の自治」の複層性と複数性
おわりに 「ユダヤ民族」のイメージ
第二章 シャブタイ派の異端とユダヤ自治における非ユダヤ人の干渉……山本伸一
一 問題設定
二 異端に対する一七世紀のラビたちの戦略――オスマン帝国とポーランドの比較
三 ハヨーン論争――作られた異端の系譜と論争の始まり
四 エムデン=アイベシッツ論争――シャブタイ派をめぐる四地方評議会の分裂
五 フランク派の集団改宗事件――キリスト教権力の介入を求めるユダヤ人と自治の危機
六 結語
第三章 モーゼス・メンデルスゾーンとユダヤ自治……後藤正英
はじめに
一 フリードリヒ大王の統治下を生きたメンデルスゾーン
二 クリスチャン・ドームと『ユダヤ人の市民的地位の改善について』
三 ユダヤ人共同体の法的自治の制限
四 『エルサレム』における律法理解
おわりに
Ⅱ 自治の解体からナショナルな政治主体の創出へ
第四章 帝政ロシアのユダヤ自治機構カハル(一七七二‐一八四四年)……高尾千津子
はじめに
一 ロシア・ユダヤ史の前史としてのポーランド
二 ロシア帝国のユダヤ人
三 アレクサンドル一世時代の「ユダヤ人に関する規程」
四 ニコライ一世時代――カントニスト制度とユダヤ人の自治
おわりに
第五章 自伝と自律――ユダヤ啓蒙主義からヘブライ文化ルネサンスへ……赤尾光春
はじめに
一 近代的現象としての自伝
二 マイモン『自伝』の成立と受容
三 性的トラウマの記録としての自伝――M・A・ギュンツブルク『アヴィエゼル』
四 虚無からイデオロギーへ――M・L・リリエンブルム『青年期の罪』
五 自伝から虚構へ――M・Y・ベルディチェフスキー「カラスは飛び去った(たわごと)」とY・H・ブレンネル『冬に』
おわりに
第六章 ナショナリズムの国際化――ロシア帝国崩壊とシオニズムの転換……鶴見太郎
一 帝政末期のロシア・ユダヤ人
二 内戦と亡命
三 パリにおけるロシア・ユダヤ人の自由主義者
四 自由主義者とシオニストの論争
五 シオニズムの変貌
六 ポグロムの影
七 むすび
Ⅲ 文化自治の模索と破局
第七章 文化自治の最後の灯火――第二次世界大戦前夜のポーランドにおけるイディッシュ学校……西村木綿
はじめに
一 複数の「文化自治」
二 教育と学問――イディッシュ文化体系の両輪
三 TSYSHO学校展覧会「ポーランドのユダヤ人」
むすびにかえて
第八章 戦間期ポーランドにおける自治と同化……宮崎悠
はじめに
一 ポーランド=ユダヤ関係史
二 「同化」をめぐる用語法の問題
三 ポーランド史の文脈における「同化」
四 大シナゴーグの来歴
五 歴史家リンゲルブルムのポーランド=ユダヤ関係観
六 リンゲルブルム『第二次大戦中のポーランド=ユダヤ関係』
おわりに
第九章 正義と不正義の境界――ナチ支配下ウィーンのユダヤ・ゲマインデ……野村真理 はじめに
一 ウィーン・モデルとゲマインデ
二 移住から移送へ
三 ウィーンのユダヤ人社会の消滅
おわりに
Ⅳ ソヴィエト・ロシアにおける自治の行方
第一〇章 ソヴィエト・ユダヤ州(statehood)の増幅器としてのソヴィエト・イディッシュ文学
――神話形成と政治……ベル・コトレルマン 訳=赤尾光春
はじめに
一 ユダヤ自治州の草創期と発展期(一九二八‐一九三四年)
二 自治共和国の創立を目指した「民族形成」(一九三五‐一九三八年)
三 独ソ戦と戦後におけるビロビジャン計画の行方(一九四三‐一九四九年)
おわりに
第一一章 「捕囚の中の捕囚」の地としてのロシア――ソ連邦におけるユダヤ教の自治とハバド・ハシディズムの地神学 ……赤尾光春
はじめに
一 帝政ロシアにおけるユダヤ教の自治とハバド・ハシディズムの展開
二 六代目ヨセフ・イツハク・シュネールゾンとソ連体制下の地下活動
三 七代目メナヘム・メンデル・シュネールゾンの教説におけるソヴィエト・ロシアの位置づけ
おわりに
終 章 「独立」のあとに……赤尾光春・向井直己
【執筆者紹介】
赤尾光春(あかお みつはる)
1972年生まれ,専攻,ユダヤ文化研究.大阪大学文学研究科非常勤講師など.“A New
Phase in Jewish-Ukrainian Relations?: Problems and Perspectives in the Ethno-Politics over the Hasidic Pilgrimage to Uman”(East European Jewish Affairs 37(2), 2007),『シオニズムの解剖――現代ユダヤ世界におけるディアスポラとイスラエルの相克』(共編,人文書院,2011).
向井直己(むかい なおき)
1980年生まれ,専攻,近代ユダヤ思想史.京都大学特定研究員.「ユダヤ移民とパレスチナ問題」(山室信一他編『現代の起点 第一次世界大戦4』岩波書店,2014所収).
山本伸一(やまもと しんいち)
1979年生まれ,専攻,ユダヤ思想史.日本学術振興会海外特別研究員(バル・イラン大学).『総説カバラー ――ユダヤ神秘主義の真相と歴史』(原書房,2015).
後藤正英(ごとう まさひで)
1974年生まれ,専攻,宗教学,思想史.佐賀大学教育学部准教授.「スピノザ『神学政治論』からメンデルスゾーン『エルサレム』へ」(『スピノザーナ』第11号,2010),「カントとメンデルスゾーンにおける啓蒙と宗教の関係」(『日本カント研究』第17号,2016).
高尾千津子(たかお ちづこ)
専攻,ロシア・ソ連史,ユダヤ現代史.東京医科歯科大学教養部教授.『ソ連農業集団化の原点――ソヴィエト体制とアメリカユダヤ人』(彩流社,2006),『ロシアとユダヤ人――苦悩の歴史と現在』(東洋書店,2014).
鶴見太郎(つるみ たろう)
1982年生まれ,専攻,歴史社会学,ロシア・東欧ユダヤ史.東京大学大学院総合文化研究科准教授.『ロシア・シオニズムの想像力――ユダヤ人・帝国・パレスチナ』(東京大学出版会,2012),“Jewish Liberal, Russian Conservative”(Jewish Social Studies 21(1),2015).
西村木綿(にしむら ゆう)
1984年生まれ,専攻,近現代ユダヤ史.日本学術振興会特別研究員(PD).「両大戦間期ポーランドにおけるイディッシュ世俗学校運動の生成と展開――文化的民族自治,イディシズム,学校共同体」(『東欧史研究』第37号,2015),「民族の「自決」とは何か――ユダヤ人「ブンド」の問いをめぐって」(『社会思想史研究』第39号,2015).
宮崎悠(みやざき はるか)
1978年生まれ,専攻,国際政治.北海道教育大学国際地域学科講師.『ポーランド問題
とドモフスキ――国民的独立のパトスとロゴス』(北海道大学出版会,2010).
野村真理(のむら まり)
1953 年生まれ,専攻,ヨーロッパ近現代史・社会思想史.金沢大学人間社会研究域教授.『ウィーンのユダヤ人――19世紀末からホロコースト前夜まで』(御茶の水書房,1999),『ホロコースト後のユダヤ人――約束の土地は何処か』(世界思想社,2012).
ベル・コトレルマン(Ber Kotlerman)
1971年生まれ,専攻,イディッシュ研究.バル・イラン大学ユダヤ学部教授.In Search
of Milk and Honey: The Theater of‘Soviet Jewish Statehood’,1934-49(Bloomington, 2009), Disenchanted Tailor in ‘Illusion’: Sholem Aleichem behind the Scenes of Early Jewish Cinema, 1913-16(Bloomington, 2014).
赤尾光春(あかお みつはる)
1972年生まれ,専攻,ユダヤ文化研究.大阪大学文学研究科非常勤講師など.“A New
Phase in Jewish-Ukrainian Relations?: Problems and Perspectives in the Ethno-Politics over the Hasidic Pilgrimage to Uman”(East European Jewish Affairs 37(2), 2007),『シオニズムの解剖――現代ユダヤ世界におけるディアスポラとイスラエルの相克』(共編,人文書院,2011).
向井直己(むかい なおき)
1980年生まれ,専攻,近代ユダヤ思想史.京都大学特定研究員.「ユダヤ移民とパレスチナ問題」(山室信一他編『現代の起点 第一次世界大戦4』岩波書店,2014所収).
山本伸一(やまもと しんいち)
1979年生まれ,専攻,ユダヤ思想史.日本学術振興会海外特別研究員(バル・イラン大学).『総説カバラー ――ユダヤ神秘主義の真相と歴史』(原書房,2015).
後藤正英(ごとう まさひで)
1974年生まれ,専攻,宗教学,思想史.佐賀大学教育学部准教授.「スピノザ『神学政治論』からメンデルスゾーン『エルサレム』へ」(『スピノザーナ』第11号,2010),「カントとメンデルスゾーンにおける啓蒙と宗教の関係」(『日本カント研究』第17号,2016).
高尾千津子(たかお ちづこ)
専攻,ロシア・ソ連史,ユダヤ現代史.東京医科歯科大学教養部教授.『ソ連農業集団化の原点――ソヴィエト体制とアメリカユダヤ人』(彩流社,2006),『ロシアとユダヤ人――苦悩の歴史と現在』(東洋書店,2014).
鶴見太郎(つるみ たろう)
1982年生まれ,専攻,歴史社会学,ロシア・東欧ユダヤ史.東京大学大学院総合文化研究科准教授.『ロシア・シオニズムの想像力――ユダヤ人・帝国・パレスチナ』(東京大学出版会,2012),“Jewish Liberal, Russian Conservative”(Jewish Social Studies 21(1),2015).
西村木綿(にしむら ゆう)
1984年生まれ,専攻,近現代ユダヤ史.日本学術振興会特別研究員(PD).「両大戦間期ポーランドにおけるイディッシュ世俗学校運動の生成と展開――文化的民族自治,イディシズム,学校共同体」(『東欧史研究』第37号,2015),「民族の「自決」とは何か――ユダヤ人「ブンド」の問いをめぐって」(『社会思想史研究』第39号,2015).
宮崎悠(みやざき はるか)
1978年生まれ,専攻,国際政治.北海道教育大学国際地域学科講師.『ポーランド問題
とドモフスキ――国民的独立のパトスとロゴス』(北海道大学出版会,2010).
野村真理(のむら まり)
1953 年生まれ,専攻,ヨーロッパ近現代史・社会思想史.金沢大学人間社会研究域教授.『ウィーンのユダヤ人――19世紀末からホロコースト前夜まで』(御茶の水書房,1999),『ホロコースト後のユダヤ人――約束の土地は何処か』(世界思想社,2012).
ベル・コトレルマン(Ber Kotlerman)
1971年生まれ,専攻,イディッシュ研究.バル・イラン大学ユダヤ学部教授.In Search
of Milk and Honey: The Theater of‘Soviet Jewish Statehood’,1934-49(Bloomington, 2009), Disenchanted Tailor in ‘Illusion’: Sholem Aleichem behind the Scenes of Early Jewish Cinema, 1913-16(Bloomington, 2014).
書評情報
東京新聞(朝刊) 2017日12月24日
図書新聞 2017年7月1日
図書新聞 2017年7月1日