ジョン・ロック
神と人間との間
啓蒙時代を準備した思想家の,「神なしではすますことのできない」宗教性と「影」を帯びた思想的挫折.
自由で平等な市民社会の原理を探究し,民主主義の基礎を築いたジョン・ロック.啓蒙の時代を準備した「光」の思想家を歴史に位置づけなおすことで見えてきたのは,「神なしではすますことのできない」宗教性と,「影」を色濃く帯びた思想的挫折であった.自由,道徳,寛容,知性……人間にとっての基本的価値を見つめなおす.
プロローグ――実像をもとめて
「一七世紀に身を置きながら一八世紀を支配した」天才/作られたイメージと実像/新しいロック像へ――宗教性・複雑性・挫折
凡 例
第一章 生涯
第1節 幼・少年期
生涯における四つの段階/ピューリタニズムにもとづく家庭教育
第2節 思想家の誕生
オックスフォード時代/神への信頼と人間への不信/愛の絆から,神の摂理との一体化へ/思想家の誕生
第3節 試練と栄光
アシュリーとの出会い――壮年期/危機のなかで/亡命へ/亡命生活がもたらした知的成果/反カトリックの気運と「名誉革命」/晩年期――三つの代表作の出版/三つの仕事/新約聖書の註釈――最後の仕事
第二章 思想世界の解読――方法の問題
第1節 思想の複雑性
単純化されたロック像をこえて/ロックの思想に走る亀裂/変転する立論――認識論・道徳論・寛容論
第2節 思想の二つの系譜
構造的特質としての自己同一性/問題枠組みの原型/二つの系譜/探究の発展と交錯/『人間知性論』の人間像とその帰結/認識論の成熟/「個体化の原理」
第3節 「個体化の原理」あるいは精神の基層
不動の信条――スピノザとルソー/宗教的確信/神学的パラダイム
第三章 政治と宗教――「神の作品」の政治=寛容論
第1節 「政治的なもの」の原像と「神学的パラダイム」
問いの不在/ホッブスとロック/「運命」を翻弄する「政治的なもの」/「われわれは,それとともに泳ぐか沈むかしなければならない」/政治思想の二つの方向/接合の可能性
第2節 「神の作品」の政治学
『統治二論』の執筆と出版/論敵は誰か/フィルマーの王権神授説/フィルマーとは「異なった仕方で」/「プロパティ」論の意味/人間に「固有のもの」/神学的義務の「基体」/正統性論の独自性/次善の策/「プロパティ」の保全がもとめられる背景/「天への訴えの道」としての「抵抗」/「神の作品」の政治学の完結
第3節 寛容論の思想世界
政治と宗教とが循環する時代/三人の天才たちの共通点と差異/ロックの寛容論と政教分離論/信仰にかかわる二つの人間の条件/政治的統治にかかわる三つの人間の条件/ロックは何をしようとしたか――宗教的個人主義/政治生活の規範/「政治的為政者」の義務/ロックの寛容論の核心
第四章 生と知――「神の作品」の認識=道徳論
第1節 哲学と哲学者
二重の関係/デカルトの嘆き/フィヒテとカント/認識論優位の哲学/精神の衝迫/二つの論拠
第2節 生と知との相関
学問の三区分/消去法/残された可能性/人をクリスチャンにする二つの基準/第三の絶対的な条件/ロックのジレンマ/「巡礼の日々」/パスカルとロック/生と知との統合
第3節 信仰と理性との間
一六八九年の意味/道徳を確立するために/神の存在証明とその難点/『キリスト教の合理性』へ/モリヌーとの対話/挫折と義務との間/『キリスト教の合理性』の誕生/「信仰」と「啓示」/「啓示」への「理性」の同意/「奇跡」の意味/「原罪」と「救済」/イエス論/救済の二つの条件/イエス信仰の構造/「一般的黄金律」/長い旅の終章
エピローグ――ロックからの問い
死せるものと生けるもの/普遍的なものをもとめて/政治に対する人間の優位/政治の成立条件/寛容の主張/生と知との相関/理性の限界と有用性との自覚
あとがき
ロック略年譜
「一七世紀に身を置きながら一八世紀を支配した」天才/作られたイメージと実像/新しいロック像へ――宗教性・複雑性・挫折
凡 例
第一章 生涯
第1節 幼・少年期
生涯における四つの段階/ピューリタニズムにもとづく家庭教育
第2節 思想家の誕生
オックスフォード時代/神への信頼と人間への不信/愛の絆から,神の摂理との一体化へ/思想家の誕生
第3節 試練と栄光
アシュリーとの出会い――壮年期/危機のなかで/亡命へ/亡命生活がもたらした知的成果/反カトリックの気運と「名誉革命」/晩年期――三つの代表作の出版/三つの仕事/新約聖書の註釈――最後の仕事
第二章 思想世界の解読――方法の問題
第1節 思想の複雑性
単純化されたロック像をこえて/ロックの思想に走る亀裂/変転する立論――認識論・道徳論・寛容論
第2節 思想の二つの系譜
構造的特質としての自己同一性/問題枠組みの原型/二つの系譜/探究の発展と交錯/『人間知性論』の人間像とその帰結/認識論の成熟/「個体化の原理」
第3節 「個体化の原理」あるいは精神の基層
不動の信条――スピノザとルソー/宗教的確信/神学的パラダイム
第三章 政治と宗教――「神の作品」の政治=寛容論
第1節 「政治的なもの」の原像と「神学的パラダイム」
問いの不在/ホッブスとロック/「運命」を翻弄する「政治的なもの」/「われわれは,それとともに泳ぐか沈むかしなければならない」/政治思想の二つの方向/接合の可能性
第2節 「神の作品」の政治学
『統治二論』の執筆と出版/論敵は誰か/フィルマーの王権神授説/フィルマーとは「異なった仕方で」/「プロパティ」論の意味/人間に「固有のもの」/神学的義務の「基体」/正統性論の独自性/次善の策/「プロパティ」の保全がもとめられる背景/「天への訴えの道」としての「抵抗」/「神の作品」の政治学の完結
第3節 寛容論の思想世界
政治と宗教とが循環する時代/三人の天才たちの共通点と差異/ロックの寛容論と政教分離論/信仰にかかわる二つの人間の条件/政治的統治にかかわる三つの人間の条件/ロックは何をしようとしたか――宗教的個人主義/政治生活の規範/「政治的為政者」の義務/ロックの寛容論の核心
第四章 生と知――「神の作品」の認識=道徳論
第1節 哲学と哲学者
二重の関係/デカルトの嘆き/フィヒテとカント/認識論優位の哲学/精神の衝迫/二つの論拠
第2節 生と知との相関
学問の三区分/消去法/残された可能性/人をクリスチャンにする二つの基準/第三の絶対的な条件/ロックのジレンマ/「巡礼の日々」/パスカルとロック/生と知との統合
第3節 信仰と理性との間
一六八九年の意味/道徳を確立するために/神の存在証明とその難点/『キリスト教の合理性』へ/モリヌーとの対話/挫折と義務との間/『キリスト教の合理性』の誕生/「信仰」と「啓示」/「啓示」への「理性」の同意/「奇跡」の意味/「原罪」と「救済」/イエス論/救済の二つの条件/イエス信仰の構造/「一般的黄金律」/長い旅の終章
エピローグ――ロックからの問い
死せるものと生けるもの/普遍的なものをもとめて/政治に対する人間の優位/政治の成立条件/寛容の主張/生と知との相関/理性の限界と有用性との自覚
あとがき
ロック略年譜
加藤節(かとう たかし)
1944年長野県に生まれる
1969年東京大学法学部卒業
1974年東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了(法学博士)
専攻―政治学史・政治哲学
現在―成蹊大学名誉教授
著書―『近代政治哲学と宗教』『ジョン・ロックの思想世界』(以上,東京大学出版会),『政治と人間』『政治と知識人――同時代史的考察』『南原繁の思想世界――原理・時代・遺産』(以上,岩波書店),『南原繁――近代日本と知識人』(岩波新書),『政治学を問いなおす』(ちくま新書),『同時代史考――政治思想講義』(未来社)ほか
訳書―ジョン・ロック『統治二論』(岩波文庫),ジョン・ダン『ジョン・ロック――信仰・哲学・政治』(岩波書店)ほか
1944年長野県に生まれる
1969年東京大学法学部卒業
1974年東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了(法学博士)
専攻―政治学史・政治哲学
現在―成蹊大学名誉教授
著書―『近代政治哲学と宗教』『ジョン・ロックの思想世界』(以上,東京大学出版会),『政治と人間』『政治と知識人――同時代史的考察』『南原繁の思想世界――原理・時代・遺産』(以上,岩波書店),『南原繁――近代日本と知識人』(岩波新書),『政治学を問いなおす』(ちくま新書),『同時代史考――政治思想講義』(未来社)ほか
訳書―ジョン・ロック『統治二論』(岩波文庫),ジョン・ダン『ジョン・ロック――信仰・哲学・政治』(岩波書店)ほか
書評情報
読売新聞(朝刊) 2018年7月22日