シリーズ 日本の中の世界史 3

中島敦の朝鮮と南洋

二つの植民地体験

朝鮮と南洋――作家・中島敦の二つの植民地体験を糸口に,戦争と植民地支配をめぐる諸問題を問い直す.

中島敦の朝鮮と南洋
著者 小谷 汪之
ジャンル 書籍 > 単行本 > 歴史
シリーズ シリーズ 日本の中の世界史
刊行日 2019/01/17
ISBN 9784000283861
Cコード 0321
体裁 四六 ・ 並製 ・ カバー ・ 240頁
定価 2,640円
在庫 在庫あり
「李陵」「光と風と夢」などで知られる作家・中島敦は,少年期を日本統治下の朝鮮で過ごし,のちに南洋庁編修書記としてパラオ諸島に赴任した経験を持つ.これらの体験は,中島の表現,作品世界にどう反映され,どのような意味を持ったのか.中島の二つの植民地経験を追体験することを通じて,戦争と植民地支配をめぐる諸問題を問い直す.
刊行にあたって
中島敦略年譜


プロローグ――中島敦・スティーヴンソン・植民地体験

第Ⅰ章 中島敦の朝鮮(一九二二‐三三年)
 一 京城中学校・第一高等学校時代
  「水原豚」の話/三・一五事件/「D市七月叙景」
 二 京城――「一九二三年の一つのスケッチ」
  関東大震災と朝鮮人殺害/「北方行」
 三 「虎狩」――「両班」と反日朝鮮民族運動
  「虎狩」行/「趙大煥」
 四 中島敦の朝鮮
  朝鮮体験の反芻/持ちつづけた朝鮮・中国への関心

第Ⅱ章 南洋庁編修書記,中島敦(一九四一‐四二年)
 一 パラオの南洋庁へ
  南洋庁着任/土方久功/南洋群島視察旅行/『南島巡航記』を読む
 二 田口卯吉の「南島巡航」(一八九〇年)
  南島商会/鈴木経勲/グアム島/パラオ諸島/スペインのポナペ島支配/マタラニーム叛乱/ポナペ島での交易
 三 ドイツ統治下のポナペ島(一八九九‐一九一四年)
  ドイツのポナペ島領有/ジョカージ叛乱(一九一〇‐一一年)
 四 日本軍による南洋諸島占領と南洋庁の設置
  松岡静雄によるポナペ島占領(一九一四年)/南洋諸島統治の開始/南洋庁の設置(一九二二年)/長谷部言人のジョカージ訪問(一九一五年)
 五 ポナペ島の中島敦
  ジョカージ「島民部落」訪問/「犬肉食」

第Ⅲ章 「光と風と夢」――サモアのスティーヴンソンと中島敦
 一 マーシャル諸島ヤルート島
  椰子と流人の島/ドイツのマーシャル諸島統治(一八八五‐一九一四年)
 二 サモアのスティーヴンソン(一八九〇‐九四年)
  サモアへ/サモアの政体と政争/海軍練習艦「筑波」のサモア訪問/軍艦「金剛」のサモア訪問/『ヴァイリマからの手紙』/ヴァイリマ農園の日々/海を泳ぐ南洋の豚/「ヴァイリマの家族」/ドイツ人との対立/サモアの「叛乱者」マタアファの「大饗宴」
 三 マタアファのヤルート島流刑とその後(一八九三‐一九一二年)
  サモア政争の帰結/マタアファのヤルート島流刑/マタアファの娘/真水と野菜の無い島/グラハム・バルフォアのマタアファ訪問/クレーマーのマタアファ訪問/マタアファの帰島/ドイツとアメリカによるサモア分割(一八九九年)
 四 ヤルート島の中島敦
  「夢の国」?/「スティヴンスンやロティの世界」/八島嘉坊(ヤルート島カブア)/マタアファのこと

第Ⅳ章 南洋に生きた人びと
 一 「内南洋」に生きた日本人たち
  トラック諸島の森小弁/ポナペ島の関根仙太郎/パラオ諸島の日本人たち
 二 トラック諸島の中島敦
  トラック諸島公学校視察/『ミクロネシア民族誌』を読む/『過去の我南洋』を読む
 三 書かれなかった「クバリの伝記」――ある南洋標本「コレクター」の一生
  ポーランド一月蜂起(一八六三年)/ゴドフロイ博物館の標本「コレクター」に/パラオ諸島コロール島/インフルエンザの流行/バベルダオブ島マルキョクにて/最初のポナペ島滞在/帰国の途に/再びポナペへ,そして結婚/パラオで現地民と共に/マルキョクの大首長レクライの「特使」として/ニューギニアへ/ニューギニア会社のプランテーション管理/ポナペ島での死(一八九六年)/クバリの妻アナのその後/書かれなかった「クバリの伝記」

第Ⅴ章 中島敦の南洋
 一 迫りくる戦争の影(一九四一‐四二年)
  南洋に迫る戦争の影/日米開戦(一九四一年一二月八日)/バベルダオブ島視察旅行
 二 「文明と未開」,「近代化」
  南洋を見る目/委任統治と現地民教育/「文明と未開」/「雞」/「近代化」/「沖縄」/帰京と死(一九四二年一二月四日)

エピローグ――植民地体験の追体験


文献一覧
あとがき
人名索引

 【コラム】
  1 「土人」という言葉
  2 中島敦をめぐる「文学的夢想」
  3 「コレクター」(ザムラー)
  4 ナンマトル遺跡
  5 ウンポンの地理的位置
  6 クバリの妻アナとその父親
  7 アルコロンの石柱列遺跡(ストーン・モノリス)
小谷汪之(こたに ひろゆき)
1942年生.東京大学文学部東洋史学科卒業,同大学院人文科学研究科博士課程中退.博士(史学).インド史専攻.東京都立大学名誉教授.
著書に,『マルクスとアジア――アジア的生産様式論争批判』(青木書店),『歴史の方法について』(東京大学出版会),『大地の子――インドの近代における抵抗と背理』(東京大学出版会),『インドの中世社会――村・カースト・領主』(岩波書店),『歴史と人間について――藤村と近代日本』(東京大学出版会),『罪の文化―― インド史の底流』(東京大学出版会),『インド社会・文化史論――「伝統」社会から植民地的近代へ』(明石書店),『「大東亜戦争」期出版異聞――『印度資源論』の謎を追って』(岩波書店),Western India in Historical Transition(New Delhi, Manohar)など.

書評情報

北海道新聞 2019年3月17日
週刊読書人 2019年3月15日
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