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アカデミアを離れてみたら

博士、道なき道をゆく

学術界から「外」に出た博士たちは、何を感じ、どう生きているのか。21人が実体験を語りつくす。

アカデミアを離れてみたら
著者 岩波書店編集部
ジャンル 書籍 > 自然科学書 > 科学全般
刊行日 2021/08/04
ISBN 9784000614832
Cコード 0040
体裁 四六 ・ 並製 ・ カバー ・ 246頁
在庫 在庫あり
大学などの学術界から「外」に出た博士たちは、何を感じ、どう生きているのか。研究の経験は、その後にどう活かされるのか。企業の研究職から官僚そして指揮者まで、主に理系の博士号取得者たちが、酸いも甘いもひっくるめて語りつくす。21人の目は「外」の世界をいきいきと映し出し、そしてアカデミアのいまを見つめる。

〈本文より〉

アカデミアを出たことで、就職に対する考え方は変わりました。アカデミアにいたころは、「就職は負けたやつがすることだ」という価値観に毒されていて、就職したら何かが終わると思っていたのです。でも、実際に就職してみたら、別に何も終わらなかった。
――原田 慧(データサイエンティスト)
7年続けて、これ以上やるのは違う、と思いました。50歳になったときに、私には何が残るのだろう? と考えたとき、今の自分は望む未来に向かえていない気がしました。このままではいけない。成長しなければ。いい機会だし、一度やってみたかった民間に転職しよう。そう思いました。
――山根承子(起業家)
本当に、寂しかったですよ。アカデミアを離れてみたら、三途の川があった。
――嘉田由紀子(政治家)
会社を作るというのは、想像以上に難しいことで、自分自身にも全然わかっていなかった。目論見を実現するための経験がなかったのです。
――金井良太(起業家)
オフィスの窓から気持ちの良い青空が見える日は「野外で調査したい!」という衝動に駆られることも事実です。しかしその一方で「安定した今の暮らしを手放せない」と思うこともまた事実です。研究も大事でしたが、それ以外の時間も大事です。両立ってこんなにもままならないのかと思います。
――牧野崇司(データサイエンティスト)
今、わたしは市井に生きていますが、わたしにとって大切なことは、自分のいのちを輝かせて生きているかということです。わたしの人生がわたしを通して実現しようとしていることは何なのか。そのことにしっかり聞き耳を立て、自分のいのちを燃やしたいと思います。
――岩野祥子(農業ビジネス)
はじめに


1 企業につとめる
 ポスドク街道11年の果てで進退窮ま……らなかった話……………牧野崇司(株式会社ブレインパッド)
 数学からデータ分析、純粋数学、そしてまたデータ分析へ……………原田 慧(株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA))
 外資系バイオテクノロジー企業の一風景…………花岡秀樹(イルミナ株式会社)
 准教授からエンジニアへの転身 ……………今出 完(Lam Research Corporation)
 ライフサイエンスを社会に活かす…………… 大隈貞嗣(H.U.グループホールディングス株式会社、富士レビオ株式会社)
 まさかの報道記者になる ……………田辺幹夫(NHK)


〈特別編〉 産と学、行ったり来たり――丸山宏さんに聞く


2 組織にとらわれずに生きる
 翻訳、教育、時に研究――アカデミアを(半歩)離れてみたら……………坪子理美(フリーランス翻訳者)
 そこには壁もないし境界もない ……………山根承子(株式会社パパラカ研究所)


3 教育・研究をささえる
 子どものころからの夢、教師への転職 ……………増田(渡邉)皓子(岡山中学校・高等学校)
 迷いの森のその先に……………雀部正毅(理化学研究所)
 研究者から、研究を支援する高度専門職(URA)へ ……………森本行人(筑波大学)
 政策で科学を加速し、科学で政策を加速する ……………高山正行(文部科学省)
 実験室で、ふと自分を見つめて知財の道へ……………福家浩之(弁理士)


4 組織をおこす
 丸腰博士(理学)の島おこし――ジョブチェンジで人生逆転!?……………須澤佳子(対馬コノソレ)
 脳科学者、AI起業家になる ……………金井良太(株式会社アラヤ)
 ベンチャーキャピタリストという道……………宇佐美篤(東京大学エッジキャピタルパートナーズ(UTEC))


〈特別編〉 環境社会学者、政界へ――嘉田由紀子さんに聞く


5 「越境」をかさねて
  南極と被災地を通って農業へ ……………岩野祥子(伊賀ベジタブルファーム株式会社)
  博士(工学)を持つ指揮者の話 ……………中島章博(指揮者・作曲家)
  広告業界からアカデミアに戻ってきた話…………… 岸 茂樹(農業・食品産業技術総合研究機構 農業情報研究センター)


あとがき――博士号取得者の苦難と希望 ……………榎木英介(フリーランス病理医)
牧野崇司(まきの・たかし)
1978年生まれ。東北大学で博士(生命科学)の学位を取得後、筑波大学(日本学術振興会特別研究員PD)、トロント大学(同海外特別研究員)、山形大学(研究支援者)を渡り歩いたのち、2017年に株式会社ブレインパッドに転職。専門は花と虫の関係を探る「送粉生態学」で、蜜を集めるハチの移動経路や、植物群集の花色構成を野外で調べるほか、屋内で人工花を使ったハチの行動実験なども行った(詳しくは個人サイトを参照)。共編著に『視覚の認知生態学──生物たちが見る世界』(文一総合出版)。趣味は散歩

原田 慧(はらだ・けい)
1983年生まれ。京都大学理学部理学科を卒業後、同大学院情報学研究科修士課程を経て、名古屋大学大学院で数理学の博士号取得。学生時代の研究テーマは無限次元空間の解析。2011年4月から株式会社金融エンジニアリング・グループ(FEG)にて、データ分析とその活用のコンサルティングに従事。KDD Cup 2015で2位入賞、2017年にKaggle Masterとなる。2018年2月、株式会社ディー・エヌ・エー入社、現在はマネージャーとして多くのプロジェクトに関わりながら個性的なメンバーを率いる。趣味は競技プログラミング。

花岡秀樹(はなおか・ひでき)
1975年生まれ。東京大学工学部化学システム工学科を卒業後、総合研究大学院大学(愛知県岡崎市の基礎生物学研究所)にて学位取得。産業技術総合研究所、東京大学での博士研究員を経て2007年、アプライドバイオシステムズジャパンに転職。次世代DNAシーケンサの日本市場導入に関わった後、渡米してUS本社に勤務。2018年、現職への転職に伴い帰国。現在はイルミナ株式会社でシニアマーケティングマネージャーを務める。科学技術とスポーツと犬が好き。他に、2019年より株式会社AutoPhagyGO創業を支援。2021年より順天堂大学医学部遺伝カウンセラーコースに進学。

今出 完(いまで・まもる)
1980年生。2007年、大阪大学大学院博士課程を修了。ポスドク、助教を経て2016年、大阪大学大学院准教授に着任。次世代半導体材料の実用化を目指して、多くの国家プロジェクト、民間企業との共同研究に従事。2018年2月、ラムリサーチジャパンに転職。約半年にわたる海外研修を経て、2019年7月、ラムリサーチのアメリカ本社に転籍。3児の父。趣味は、スポーツ、ハイキング、工作、園芸など多岐にわたる。

大隈貞嗣(おおくま・さだつぐ)
高知県生まれ。京都大学生命科学研究科博士課程修了。博士(生命科学)。三重大学医学系研究科助教を経て、2019年より富士レビオ株式会社に勤務、現在はH.U.グループホールディングス株式会社兼務。趣味は珈琲焙煎とジャムセッション。

田辺幹夫(たなべ・みきお)
1980年生まれ。京都大学理学部卒業後、同大学院理学研究科で博士号取得。大学院での専門は加速器を使った物理実験。2008年、記者としてNHKに就職し、北九州放送局、科学文化部、ネットワーク報道部を経て現在、大阪拠点放送局。最先端の科学技術や、ネットをめぐる社会問題などを取材し、日々のニュースや番組に。これまでの担当に、「クローズアップ現代+」の「ネット広告の闇」シリーズ(2018年~)や、NHKスペシャル「あなたの家電が狙われている~インターネットの新たな脅威~」(2017年)など。

丸山 宏(まるやま・ひろし)※特別編
1958年生まれ。1983年、東京工業大学大学院理工学研究科修士課程修了。同年、日本アイ・ビー・エム株式会社入社。人工知能、自然言語処理、機械翻訳などの研究に従事。1995年京都大学より博士(工学)授与。日本アイ・ビー・エム株式会社東京基礎研究所所長、キヤノン株式会社、統計数理研究所教授をへて、2016年より株式会社Preferred Networks、2018年4月よりPFNフェロー。現在は花王株式会社のエグゼクティブ・フェローおよび東京大学特任教授も兼務。著書に『新 企業の研究者をめざす皆さんへ』(近代科学社)。

坪子理美(つぼこ・さとみ)
1986年生まれ。東京大学大学院理学系研究科にてメダカを用いた行動遺伝学研究を行い、博士号を取得。翻訳業の傍ら、2015年から2020年まで米国カリフォルニア州サンディエゴにてシオダマリミジンコ属の生殖行動を研究。本稿執筆後の2020年夏に帰国し、引き続き翻訳業に取り組むとともに、専門学校の非常勤講師などを兼任。訳書に『悪魔の細菌――超多剤耐性菌から夫を救った科学者の戦い』(ステファニー・ストラスディー、トーマス・パターソン著、中央公論新社)、『なぜ科学はストーリーを必要としているのか──ハリウッドに学んだ伝える技術 』(ランディ・オルソン著、慶應義塾大学出版会)など。2021年秋に、夫の石井健一との共著『遺伝子命名物語』(中公新書ラクレ)が刊行予定。

山根承子(やまね・しょうこ)
1984年神戸生まれ。立命館大学文学部心理学科卒、大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程修了、同博士後期課程単位取得満期退学。博士(経済学)。近畿大学経済学部准教授を経て、2020年1月に株式会社パパラカ研究所を設立、代表取締役に就任。著書に『今日から使える行動経済学』(ナツメ社)、『行動経済学入門』(東洋経済新報社)(いずれも共著)など。

増田(渡邉)皓子(ますだ(わたなべ)・ひろこ)
1984年生まれ。京都大学大学院で博士(理学)の学位を取得後、京都大学宇宙ユニット(日本学術振興会特別研究員PD)、京都大学学術研究支援室(リサーチ・アドミニストレーター)を経て、2017年より岡山県の私立山陽学園中学校・高等学校、2021年より私立岡山中学校・高等学校にて非常勤講師(理科・数学)。専門は太陽物理学(太陽黒点の観測)。2010年に京都大学優秀女性研究者賞(学生部門)、2012年に京都大学理学研究科竹腰賞を受賞。2児(9歳と5歳)の母。夫は素粒子の研究者。

雀部正毅(ささべ・まさたか)
東京生まれ。北海道大学理学部、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校生化学部を経て、京都大学大学院理学研究科にて博士(理学)の学位を取得。(最終的な)専門は動物生態学。民間企業勤務や大学でのポスドクを経験後、研究機関広報の世界へ。趣味は旅、生き物観察、写真、千葉ジェッツふなばし(Bリーグ)。

森本行人(もりもと・ゆきひと)
京都生まれ。関西大学大学院経済学研究科にて博士(経済学)の学位を取得。関西大学URAを経て、2013年度より筑波大学本部URA。2017年に人文社会分野から特許出願(特願2017-138751)、2018年にはURA業務の一環として、科研費の奨励研究獲得。日課は愛犬との散歩。

高山正行(たかやま・まさゆき)
東京生まれ。東京大学理学部物理学科卒業、同大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。博士(理学)。2019年4月、文部科学省入省。2020年9月からは科学技術・学術政策研究所研究官も併任し、博士人材の流動性に関する定量的研究に着手。文部科学省の「ガツガツ若手ワーキンググループ”AirBridge”」でも活動。趣味はバイオリン、オーケストラ活動。好きな焼肉の部位はミスジ。

福家浩之(ふけ・ひろゆき)
1980年生まれ。2008年に京都大学大学院で博士(理学)の学位を取得後、安富国際特許事務所に就職。2012年に弁理士登録。国内外の特許出願代理業務に従事。主に、化学、バイオ、化粧品、医薬等の発明を扱っている。最近の趣味は盆栽。

須澤佳子(すざわ・けいこ)
1978年東京生まれ。東京大学農学部卒業、東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。博士(理学)。2007年、株式会社東洋新薬に入社、製造事業推進部配属。2011年に対馬市島おこし協働隊1期生(薬草担当)として着任。翌年、任意団体「對馬次世代協議会(通称:対馬コノソレ)」を設立し、2014年にこれを法人化。2017年には通販会社「株式会社コノソレnatural factory」を設立。現在、特定非営利活動法人對馬次世代協議会理事長、株式会社コノソレnatural factory代表取締役。対馬の地域素材を最大限に活用した商品づくりと島外への対馬PR、そして外貨獲得に向けて、地元の人材を育成中。

金井良太(かない・りょうた)
1977年生まれ。京都大学理学部生物物理学科を卒業後、オランダ・ユトレヒト大学で実験心理学Ph.D.取得。カリフォルニア工科大学にて、下條信輔教授のもとで視覚経験と時間感覚の研究に従事。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)リサーチアソシエイト、英国サセックス大学・サックラー意識研究センター准教授を経て、2013年12月に株式会社アラヤを起業。主な研究テーマは、認知神経科学からのアプローチによる意識研究と、脳科学の現実世界への応用技術の開発。著書に『脳に刻まれたモラルの起源』(岩波科学ライブラリー)など。

宇佐美 篤(うさみ・あつし)
1983年生まれ。東京大学大学院薬学系研究科生命薬学専攻にて、博士号取得、薬剤師。三菱総合研究所を経て、2013年より東京大学エッジキャピタルパートナーズ(UTEC)に参画、現在取締役・パートナー。Repertoire Genesis、五稜化薬、エディットフォース、ミルテル、bitBiome、OriCiro Genomicsなど投資先10社以上の社外取締役を兼任。JST START事業プロモーターや、(一社)ライフサイエンス・イノベーション・ネットワーク・ジャパン(LINK-J)のサポーターなどを務める。

嘉田由紀子(かだ・ゆきこ)※特別編
1950年埼玉県生まれ。京都大学農学部卒業、ウィスコンシン大学大学院修士課程修了、京都大学大学院博士後期課程修了。農学博士。滋賀県琵琶湖研究所研究員、滋賀県立琵琶湖博物館総括学芸員、京都精華大学教授を経て、2006年より2014年まで滋賀県知事、2019年より参議院議員。専門は環境社会学。著書に『命をつなぐ政治を求めて──人口減少・災害多発時代に対する〈新しい答え〉』(風媒社)、『生活環境主義でいこう!──琵琶湖に恋した知事』、『環境社会学』(以上、岩波書店)など多数。

岩野祥子(いわの・さちこ)
1975年生まれ。京都大学大学院博士課程在学中に休学し、第42次日本南極地域観測隊に参加(2000年11月~2002年3月)。帰国したのち復学し博士号(理学)を取得後、㈱モンベルに就職。2006年より再び南極越冬隊に参加(第48次)。帰国後、モンベルに再就職し2015年まで勤める。奈良県宇陀市で農業研修を受けた後、伊賀ベジタブルファーム㈱に活動の場を移し、農業および青果流通に携わっている。

中島章博(なかじま・あきひろ)
1981年生まれ。早稲田大学理工学部、東京大学工学系研究科博士前期課程を経て同後期課程へ進学した後、2007年よりオーストリア共和国立ザルツブルク・モーツァルテウム大学指揮科に留学。2010年に帰国後、博士後期課程を修了し建築音響工学の分野で博士(工学)を取得。留学後は指揮者として、これまでに国内外にて数多くのオーケストラを指揮、また作曲家として、アニメやCMの楽曲提供も行っている。その他、メディアでの指揮や出演など、幅広い活動を行っている。

岸 茂樹(きし・しげき)
1977年生まれ。農業・食品産業技術総合研究機構主任研究員。2007年、食糞性コガネムシ類の行動生態学の研究で学位取得(博士(農学)、京都大学)。2009~2011年に広告代理店、三晃社勤務。繁殖干渉、花と昆虫のネットワークなどの研究を経て、2019年から現職。現在は農作物の送粉を担う昆虫の研究を行っている。趣味は写真、読書、キャンプ。

〈あとがき〉
榎木英介(えのき・えいすけ)
1971年横浜生まれ。1995年東京大学理学部生物学科(動物学)卒。同大学院に進学したが、博士課程中退。神戸大学医学部に学士編入学した。2004年に医師免許取得。2006年に博士(医学)。近畿大学医学部講師、兵庫県赤穂市民病院の一人病理医などを経て、2020年4月よりフリーランス病理医として独立。病理専門医、細胞診専門医。進路に迷い方向転換をした経験などから、若手研究者、博士のキャリア問題に強い関心があり、さまざまな活動を続けている。一般社団法人科学・政策と社会研究室(カセイケン)代表。著書『博士漂流時代』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)で2011年科学ジャーナリスト賞受賞。

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