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「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」への手紙

 このページでは、岩波書店・雑誌『科学』より「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」委員・事務局各位に差し上げた手紙についてお知らせします。

 2014年7月13日に発送した書面は以下の通りです。また、「同封」とあるstudy2007氏から鈴木元委員のご発言への手紙についても公開いたします(『科学』2014年8月号掲載)。第7回専門家会議(6月26日)で提示された「住民の被ばく線量把握・評価について(まとめ)(骨子案)」に対するstudy2007氏のコメントも公開いたします。

 なお、前回6月18日発送の手紙についてこちら、前々回1月22日発送の手紙についてはこちらをご覧下さい。

「住民の被ばく線量把握・評価について(まとめ)(骨子案)」(新)における、1080名甲状腺被ばくスクリーニングの取り扱いについて、および、第7回会議での鈴木委員のご発言に対する意見の送付について

拝啓 「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」(以下、専門家会議)でのご議論に敬意を表します。
 「住民の被ばく線量把握・評価について(まとめ)(骨子案)」新旧対照表の7頁および8頁の改訂案(新)において、1080人の甲状腺被ばくスクリーニングの結果について、「最も高い子どもで0.1μSv/h」であり「子どもの大半について甲状腺量は50mSv以下であったと考えられる」と記載されています。
 すでに指摘を申し上げたように、摂取シナリオと着衣バックグラウンドの評価がなされないまま、数値が記載されるのは不適切であり、これらの箇所は削除が適当であると存じます。
 なお、この骨子案についてのコメント全体は、本誌ウェブサイトで公開いたします。
 また、第7回会議において、鈴木委員から本誌5月号論文(参考資料1-2)についてご発言がありました。
 著者study2007氏より、鈴木氏への手紙を同封いたしますのでご覧いただければ幸いです。なお、この手紙の同文を、本誌8月号(7月25日出庫)に掲載いたします。鈴木委員のご発言の中には、誤解にもとづくものがあると存じますので、ご覧いただけますと幸いです。
 鈴木委員におかれましては、「過小評価を避けて(従来の)スクリーニング基準を(検討に)用いることがどのように「危険」であるのか」について、また、「体表面汚染スクリーニングにおいて被ばく評価を減じられる具体的な根拠」について、ご回答・ご説明を、本誌誌面をご用意いたしますので、お願いできれば幸いです。
 なお、体表面汚染スクリーニングから線量を推計することに非常に大きな不確実性があることは当然であり、本誌5月号論文(参考資料1-2)の主張は、それを単独に取り出した評価に意味があると述べているものではありません。本当の意味での実測値がない状況において、分布の傾向について整合性をみることができるという主張です。また、個別のデータがあれば、1080人甲状腺スクリーニング値の補正に有用である(4月号論文記載)ということが述べられていました。
 今後のご議論に注目しております。
                                            敬具

第7回「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」(6月26日開催)における,『科学』5月号論文(参考資料1-2)に関する鈴木元委員のご発言に対する手紙……study2007(『科学』2014年8月号掲載)

(1) 鈴木元委員の「沈着速度を0.1cm/sと仮定するのは不確実さが大きい(過大評価につながる)」「科学的妥当性が低い」「危険」という主旨のご発言について

 5月号論文(p.541,以下論文)で用いた沈着速度0.1cm/sは論文文献1「緊急被ばく医療研修 付録2」から引用したもので,吸入摂取による1歳児甲状腺等価線量100mSvに相当する体表面汚染スクリーニングレベル40Bq/cm2の計算根拠になっている係数です。
 論文表1にも記載しましたように,沈着速度0.1cm/sを根拠としたスクリーニングレベル40Bq/cm2(1万3000cpm)は原子力安全委員会の2011年3月13日10時40分頃の通知でも確認・回答されており,日本の原子力災害時における基本的な判断基準となっていると承知しております。
 一方,実際の沈着速度の評価には困難を伴うことが一般的に知られております。たとえば事故後3年の調査研究を経て公開されたUNSCEAR 2013報告(文献24)でも,避難時の吸入被ばくの評価には1桁程度の不確実さが伴うことが議論されており(C21,C22,C118など参照),その概略は『科学』6月号の拙稿(p.613)でもまとめたところであります。
 事故直後の環境放射能の測定は極めて限定的で沈着速度の正確な評価は困難と思われます。さらに個々の住民が辿った経路の複雑さ,着衣の着替え・洗髪等の履歴の不確実さを鑑みた場合,過小評価を避けようとするならば沈着速度0.1cm/sという保守的な係数は放射線防護上,合理的妥当性があると考え採用いたしました。
 鈴木元委員の「沈着速度を0.1cm/sと仮定するのは不確実さが大きい(過大評価につながる)」「科学的妥当性が低い」「危険」といったご発言の意図されるところは必ずしも明らかではありませんが,たとえばスクリーニング対象者に関する信頼性の高い沈着速度の評価など,もしお持ちなら公開していただききたく存じます。また,各住民の着衣の着替え・洗髪の履歴といった詳細についての調査結果なども,もしお持ちなら公開していただきたく存じます。さらに,このような大きな不確実さを考慮しつつ,被災住民の安全を優先するため,過小評価を避けてスクリーニング基準を用いることがどのように「危険」であるのかについて,具体的に説明していただきたく存じます。

(2) 鈴木元委員の「評価には靴の土や手についた汚染が含まれている可能性がある」という主旨のご発言について
 論文では体表面汚染のスクリーニングレベル1万3000cpmが10万cpmに引き上げられた経緯を重大視し,論文冒頭の3ページまでの紙面を割いております(文献2から10など)。スクリーニング当時の状況は不明な点が多いものの,基準値の引き上げに至った主たる理由として「全身除染を行うための水(お湯)不足であったこと」が政府事故調査報告書(文献3)などであげられております。この事実は,体表面汚染スクリーニングにおける基準値超えに寄与した部位が「靴の土や手のひら」など,偶発的で局在した汚染によるものだけではなかったことを強く示唆しています。
 さらに本稿の主解析で用いた日本放射線技師会1万5600人分の調査表(文献12)でも「1万3000〜10万cpm,10万cpm以上の内容」として「靴,リュック,衣服等」との記載があり,着衣汚染の相当部分が大気中のダスト由来であることを強く示唆しております。これを「靴の土」などが主たる汚染部位だったと解釈することは飛躍があるうえ,被ばく線量の過小評価につながるおそれが高いことから,放射線防護上も困難と考えます。
 また事故直後は,10万cpmを超えた被災者に対する除染の取り扱いなどに関する指示・連絡すら会場によりばらつきがあるなど,混乱した状態であったとの報告もあります(文献3など)。たとえば「偶発的に付着した土」が最大カウント値であった被災者について,その吸入摂取量を評価する低減係数を割り出すには相当程度広範なスクリーニング会場・被災者に対する測定データの分析と,着衣の着替え・洗髪などの履歴とを合わせた個別評価が不可欠になると思われます。
 論文ではこのような点を鑑み,体表面のいずれの部位であってもスクリーニングレベルを超えた被災者については評価に含めることといたしました。また文献1「緊急被ばく医療研修 付録2」などでも,検出された部位に応じて被ばく線量を減じるような補正係数を用いることは特に記載されておりません。論文での取り扱いは放射線防護上の妥当性を欠くものとは考えておりません。
 鈴木元委員の意図されるところは必ずしも明らかではありませんが,このような大きな不確実さのなかでスクリーニング基準を逸脱し,被災者個人の被ばく線量をあえて低く評価しうる根拠・データなどを,もしお持ちでしたら公開していただきたく存じます。併せて,またそれらデータ等の保管元とこれまでの公開の有無,さらに鈴木委員がそれらデータの存在をご認識された経緯と時期についても公開していただきたく存じます。

(3) 改めて論文の考え方について
 事故直後は環境中の放射能測定すら十分には行われませんでした。そのような状況のなか,論文で取り上げた体表面汚染スクリーニングの調査結果は被災住民の吸入による初期被ばくを評価するうえで,極めて貴重な「実測」データであると考えます。
 その測定の限界から不確実さが大きいこと,被災住民の健康と権利を尊重する立場から保守的な評価となっている可能性については論文(p.548〜549)で明記しております。ただし,それらを考慮してもなお,算出される初期被ばく線量は楽観できるものではなく,かつUNSCEAR 2013報告とも大きく乖離しておりません。
 たとえば論文での評価が10倍程度過大だとする極端なケースを想定してもWHOの若年者へのヨウ素剤服用基準(10mSv,論文1ページ目参照)を超えるケースが相当程度存在したことが危惧されます。これはまた,原子力災害時の被ばく防護の不備としても強く憂慮すべき結果であると懸念されます。
 一方,これら10万人を超える体表面汚染スクリーニング調査の結果は,事故直後の着衣の汚染についても重要な知見を与えております。『科学』4月号掲載の拙稿(p.406)で議論いたしました,着衣表面をバックグラウンドとした小児甲状腺スクリーニング検査の解析における問題点を明らかにするものでもあります。
 貴専門家会議におかれましては,論文やUNSCEAR 2013報告などの数値に対して抽象的かつ定性的なコメントの付記に留まるのではなく,福島県内および周辺都県に対する推定線量・補正値などを具体的な数値とその分布によって議論がなされますようお願い申し上げ,真に「被災住民の健康管理のあり方」に資する議論となることを心から願う次第です。
 また,第7回会議では鈴木元委員から,体表面汚染スクリーニングの結果にもとづいた具体的な線量評価に着手なさると受け取れるご発言がありました。その推定線量値を,期限を設けたうえで提出していただけますよう,国民の一人としてお願い申し上げます。評価の根拠と妥当性が科学的に精査できてこそ,真に被災住民の権利と健康を優先する施策に結びつくと期待しております。
 なお,些末なことではありますが,春日委員との質疑のなかで鈴木委員からご発言のありました「県が集計したもの」を見た,というのは論文を読み間違えておられます。本論文で解析に用いたのは,1万3000cpm以上の検出割合が判断可能であった日本放射線技師会のデータです。

「住民の被ばく線量把握・評価について(まとめ)(骨子案)」に対するstudy2007氏のコメント

 第7回会議で提示された「住民の被ばく線量把握・評価について(まとめ)(骨子案)」(新旧対照表)にコメントを書き込む形のpdfです。こちらからご覧下さい。