
科学,89(2),152(2019)より特別公開
住民に背を向けたガラスバッジ論文――7つの倫理違反で住民を裏切る論文は政策の根拠となり得ない
黒川眞一 くろかわ しんいち 高エネルギー加速器研究機構名誉教授
島 明美 しま あけみ 福島県伊達市民
発表された論文
福島県立医科大学(以下医大とよぶ)の宮崎真氏と東京大学の早野龍五氏(当時,現名誉教授)は,福島県伊達市の市当局から提供された,伊達市民のガラスバッジによる個人線量測定データと内部被曝線量データを用い,Journal of Radiological Protection 誌に論文シリーズとして三つの論文を発表するはずであった。この論考では,シリーズ論文の総称を宮崎早野論文とよび,論文を区別するときには,第 1 論文,第 2 論文,第 3 論文とよぶことにする。筆頭著者である宮崎真氏は,2015 年 1 月から,伊達市の放射線に関する市政アドバイザーを務めていることを特に記しておく。これまでに第 1 論文が 2016 年 12 月に,第 2 論文が 2017 年 7 月に発表されているが,第 3 論文はまだ発表されていない。この論考中に示すように第 3 論文は,今後発表されることはない。宮崎早野論文として,すでに発表された論文は次の二つである。
第1論文:Individual external dose monitoring of all citizens of Date City by passive dosimeter 5 to 51 months after the Fukushima NPP accident(series): I. Comparison of individual dose with ambi- ent dose rate monitored by aircraft surveys
Makoto Miyazaki and Ryugo Hayano
J. Radiol. Prot., 37, 1-12(2017) (文献1)
第2論文:Individual external dose monitoring of all citizens of Date City by passive dosimeter 5 to 51 months after the Fukushima NPP accident(series): II. Prediction of lifetime additional effective dose and evaluating the effect of decontamination on individual dose
Makoto Miyazaki and Ryugo Hayano
J. Radiol. Prot., 37, 623-634(2017) (文献2)
政府は,宮崎早野論文を政策の根拠となる資料として取り上げている(注1)。
「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」とは
まず,指摘しておきたいことは,宮崎早野論文は文部科学省と厚生労働省が定めている「人を対 象とする医学系研究に関する倫理指針」(以下倫理指針とよぶ)に従わなければならない研究だということである。この倫理指針は 2014 年 12 月 22 日に策定され,2017 年 2 月 28 日に一部改正が行われている。それでは,この倫理指針とはどのようなものであろうか。倫理指針の前文(注2)をまとめると,「研究対象者の福利は,科学的及び社会的な成果よりも優先されなければならず,また,人間の尊厳及び人権が守られなければならない。」のであり, 「日本国憲法,我が国における個人情報の保護に関する諸法令及び世界医師会によるヘルシンキ宣言(注3)等に示された倫理規範も踏まえ」ており,それまであったいくつかの「指針の適用範囲が分かりにくいとの指摘等から,今般,これらの指針を統合した倫理指針〔すなわち「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」のこと,筆者注〕を定めることとした。」そのようにして定められた「指針は,人を対象とする医学系研究の実施に当たり,全ての関 係者が遵守すべき事項について定めたものである。また,研究機関の長は研究実施前に研究責任者が 作成した研究計画書の適否を倫理審査委員会の意見を聴いて判断し,研究者等は研究機関の長の許可を受けた研究計画書に基づき研究を適正に実施 することを求められる。」ということである。
宮崎早野論文のもととなった研究は,2015 年 11 月 2 日に研究計画書が医大に提出され,同年 12 月 17 日にNo. 2603 として医大学長の承認を受けている。
宮崎早野論文の主たる倫理指針違反
宮崎早野論文はいくつかの点で倫理指針に違反している。特に重大な違反は,(1)医大の研究に自分のデータを提供することに同意していない伊達市民のデータを使用していること,(2)研究を実際に始める前に,研究対象者である伊達市民に研究内容を公知せず,同意撤回の機会を与えなかったこと,(3)伊達市長室から論文作成を依頼されたことを隠していたこと,(4)研究が倫理審査委員会による審査を通り学長による承認を得る前に,伊達市民のデータが宮崎氏と早野氏に提供され,このデータを使った研究発表が早野氏によって行われていること,(5)研究計画書に書かれている内部被曝線量と外部被曝線量の相関を調べる研究を発表せず,研究を終了したこと,(6)研究終了報告書に研究計画書には書かれていない研究を成果として報告していること,そして,(7)倫理指針がデータをできるだけ長期間保管するようにと定めているのにもかかわらず,全データを研究終了時に廃棄していることである。宮崎早野論文はデータ提供に同意していない市民のデータを用いている
ヘルシンキ宣言および「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」は,研究を行うにあたっては,研究対象者から同意をとらなければならないことを重要な原則としている。医大の倫理審査委員会に提出された研究計画書には,「8 研究対象者の選定方針」の項に,「閲覧解析の対象者はデータを本機関に提供する同意があったものに限られる」(注4)と明確に書かれている。それでは,この研究の研究対象者は,本当に データを医大に提供する同意があったものに限られているだろうか。
第 1 論文の表 1 中の 2012 年 Q3 期間(2012 年 10 月から 12 月)に N=59056,また,図 4 のc)にも n=59056 と書かれており,この期間の研究対象者の数が 5 万 9056 人であることは明らかである(『科学』ウェブサイトの宮崎早野論文和訳版を参照)。この人数は当時の伊達市の人口の 9 割以上であり, すべてが同意者であるとは考えにくい。実際,2018 年 9 月に行われた伊達市議会における一般質問に対する答弁で,伊達市側は次のように答えている。
「同意,不同意の数でございますが,7 月から 9 月期の測定結果送付時で,測定者が 5 万 8,481 人でありました。その中で同意された方が 3 万 1,151 人,不同意の方が 97 人,未提出の方が 2 万 7,233 人となっておりまして,率にいたしますと同意の方が 53.3%,不同意の方が 0.2%,未提出の方が残り 46.5% という状況になっております。」(文献3)
ここで書かれている 7 月から 9 月期とは 2012 年 7 月から 9 月,すなわち,2012 年 Q2 のことである。期のちがいによる変動があるが,ガラスバッジの測定者数がほぼ 5 万 9000 人であり,同意者は約 3 万 1000 人しかいないことを認めている。宮崎早野論文が同意していない市民のデータ を使っていることは間違いのない事実であり,研究計画書に書いてあることを実行していないことは明らかである。
これに対して,宮崎氏と早野氏の言い分はどうであろうか。まず,朝日新聞デジタル版 2018 年 12 月 15 日の古源盛一氏の記事,「線量測定データ 伊達市が同意なしに県立医大に」をみてみよう。そこには,
「論文を書いた宮崎真・健康増進センター副センター長は朝日新聞の取材に対し,『住所も数値に置き換えられた形で提供され,大学側が同意・不同意を知る状況にはない。問題にならないと考える』と話す。」
と報道されている。「住所も数値に置き換えられた」とは住所が緯度と経度,すなわち,GIS 化されていたことを意味しており,このことは同意・不同意とはまったく関係がない。次の,「大学側が同意・不同意を知る状況にはない。」は宮崎氏 の噓だと言わざるを得ない。筆者の一人である島が行った情報公開請求によって,伊達市から宮崎早野論文のために提供されたと市が認めるデータベースが公開されている。個人 ID,氏名,住所, 生年月日などは黒塗りされているが,同意・不同意を示す欄は黒塗りをされておらず,同意が 1, 不同意が 0,そして未提出者が空白として示されている。私たちもこの欄の同意者の数を試みにデータベースの数パーセント分数えてみたところ, 同意者の割合はほぼ半分であることを確認している。宮崎氏は,「知る状況にはな」かったのではなく,この欄を無視したのである。
また,冒頭に書いたように,宮崎氏は伊達市の市政アドバイザーである。市から提供されたデータでは同意・不同意がわからないのであれば,市側に問い合わせが容易にできる立場にある。伊達 市と市政アドバイザーである宮崎氏との間で,定期的な会合が 2015 年 1 月から月 1 回の頻度で開催されている。この定例会議(市政アドバイザー〔宮崎氏〕との打合せ)の議事録も島が情報公開請求で入手している。2017 年 4 月 24 日の打合せには,打合せ内容として「論文で市から開示された資料(データー)についての流れの確認(市民からの情報開示あり)」と書かれている。これは島が情報 公開請求を行ったことに対応するために伊達市と宮崎氏が急遽行った会議であることを意味するこ とを指摘しておく。打合せ議事録には「データーについては,論文作成時に宮崎先生が「同意あ り」のみを使用。個人を匿名化し,6 項目のみ使用した。(世帯番号,住所,世帯毎の除染エリア, ガラスバッジ測定結果,除染開始日及び除染終了日,WBC 検査日及び測定結果)」と記録されている。伊達市と宮崎氏の間で,「提供されたデータには同意していない市民のデータも含まれているが,論文では同意者のデータのみを使う」ことが合意されていたことは明らかである。
この事実から言えるのは,朝日新聞の記事中の「問題にならないと考える」という宮崎氏の発言は,「私は,意図的に同意していない市民を含めて全市民のデータを使ったが,それのどこが悪い」という意味になる。これは,医者でもある宮崎氏が,倫理指針など無視しても問題にならないと言っていることに等しい。これは医者として医学系研究にたずさわる研究者として決して許される発言ではない。
次に,2018 年 12 月 21 日にAERAdot に掲載された木野龍逸氏の「伊達市が 2 万 7 千人以上の被ばくデータ無断提供 杜撰過ぎる個人情報の取り扱い」の中の宮崎氏と早野氏の発言をみてみよう。
「委託元との信頼関係の上で,適切なデータが 渡されているという前提であり,当方が確認をしていないこと自体が問題であるとは認識していません」(宮崎氏),「委託元から適切なデータが渡されているという認識でした」(早野氏)と回答したと書かれている。研究者にとって,データは非常に重大であり,それを確認しないで使ったという言い訳が通るはずはない。さらに上に示したように, データベースには同意・不同意を示す欄があり, さらに宮崎氏と伊達市の間で,「提供されたデータには同意していない市民のデータも含まれてい るが,論文では同意者のデータのみを使う」ことを合意している。このような発言は,責任を伊達市に押し付けて逃げようとするものと考えられても仕方がない。
伊達市民に研究内容を公知せず,データ提供を拒否する機会を与えなかった
研究計画書に記述されている,「本研究の実施について周知するため,HP や伊達市広報誌などに資料 4〔筆者注:倫理審査委員会の審査を通ったことを公表する文書〕の公開文を掲載していただく予定である」(注5)は,実際には一切行われることがなかった。このことは,研究対象者である伊達市民に対して, この研究が行われていること,そして,どのような研究であるかがまったく知らされていないということである。これでは,「同意を得た研究対象者又は代諾者が,本研究の開始後にデータ提供へ の同意を中止する旨の希望を申し出」(注5)ることが できるはずはない。これは,同意していない市民のデータを使ったという倫理指針違反と勝るとも劣らない重大な倫理指針違反である。この研究が倫理審査委員会の審査を通ったこと を公表する文書は,医大のホームページ上のみに掲載され,伊達市のホームページや広報誌上に掲載されることはなかった。「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針のガイダンス」には,オプトアウト,すなわち,研究が実施または継続されることについて,研究対象者等が拒否できる機会を保障するため,研究についての情報を「研究対象者等が容易に知り得る状態に置く必要がある」と記述されている(注6)。この研究の対象者は 伊達市民に限られているから,伊達市のホームページ,広報誌,回覧板などの方法を用いるべきである。宮崎氏が市政アドバイザーでありながら, 研究対象者である伊達市民にオプトアウトの機会を与えなかった不作為の責任は重大である。
伊達市長室から論文作成を依頼されたことを隠していた
もう一つ指摘したいことがある。それは,研究計画書に,この「研究は,伊達市における線量把握事業で得られたデータについて解析を行い,伊達市にその結果を報告すると共に学術的な成果として広く発信する,という依頼(資料 1)〔筆者注:図 1 として掲載〕に基づいて行われる」と書かれているが,そのことを宮崎氏および早野氏ばかりでなく,伊達市長室も市民から隠していたことである。宮崎氏と早野氏はこの学術的成果の発表,すなわち論文誌上での論文発表を伊達市長から依頼されたという事実および伊達市役所から支援を受けて いたことを論文の謝辞の中に明記していない。これは謝辞中に書くことが義務づけられている利益 相反の可能性のある事実を記述をしなかったとい うことであり,論文発表におけるルール違反であり,倫理指針に違反し,また研究不正でもある(注7)。
図 1―伊達市長から宮崎氏への依頼文書(2015 年 8 月 1 日付)
なお,伊達市長による医大学長と宮崎氏宛の依頼文書は 2015 年 8 月 1 日付である(図 1)。ところが,2015 年 8 月 25 日の市政アドバイザーとの打合せの議事録には,宮崎氏の発言として次のような記載がある。
「ガラスバッジ測定の分析について,学術的に出していくためには,正式に市からの依頼が必要。 (データ利用の同意)個人を特定されないように何 m メッシュにするかなど,位置情報関係を倫理審査に提出することにもなる。南相馬市病院の ■ 〔2 字黒塗り〕先生を参考に考えたい。また, 別途協議したい。」
8 月 1 日付で市長からの依頼がなされているのに,8 月 25 日に「正式に市からの依頼が必要」とはどういうことか理解できない。宮崎氏はこのことについて説明する責任がある。
第 1 論文については,だて復興・再生ニュース第 30 号に宮崎真氏による解説がのっている。だが,そこには,この論文が宮崎氏と早野氏が発表した論文であることが書かれていないばかりでなく,著者が誰であり,どのような題目で,どの論文誌のどこに発表されたのかが示されていない。このこと自体,掲載誌の規定(Creative Commons Attri- bution 3.0 licence)に反しており,また,伊達市民を 愚弄するものであると考える。
第 2 論文については,だて復興・再生ニュース第 31 号に,仁志田市長(当時)がふれているが, 「また最近の論文によれば」とだけ書かれている。なぜ,自らが作成を依頼した論文について,この ような書き方をしなければならないのかまったく理解できない。
このように,宮崎氏と早野氏そして伊達市当局が,市長が論文の作成を依頼した事実と,論文が発表されたことを研究対象者である市民に対して徹底的に隠してきた。2017 年 6 月の伊達市議会の一般質問で,仁志田市長が次のような答弁をしている。「まず,今の〔高橋一由〕議員のご質問ですけれども,我々は論文に対して何ら責任を持っておりませんし,早野先生と宮崎先生が書かれたのは彼らの責任範囲で書かれたのであって,伊達市のために書いたわけではないのです。(中略)ただ,高橋議員が言われている,ではだて復 興・再生ニュースに載せたのではないかと,それについての責任はどうなのだということですが,それは私が責任を持って載せました。なぜかというと,それはさっきもご説明しましたけれども,査読というものを受けて,そして権威ある論文だという証拠なのですね。」(文献4) これはデータ提供側の伊達市とデータを提供される研究者側の双方による倫理指針違反である。ここでは参考として,市と研究者の姿勢を表す記録を二つほど紹介する。まず, 2017 年 4 月 24 日の市政アドバイザーとの打合せの議事録に,市側の発言として,
「市としては,情報開示〔筆者注:島による宮崎早野論文に関して医大に提供されたデータベースに対する情報公開請求のこと〕については市が保有しているデーターについては請求があれば,伊達市情報公開条例に基づき開示する。宮崎先生から個人のデーターは健診データーと同様に個人の不利益となり開示できないのではとの意見を頂く。」
2017 年 6 月 28 日の打合せ議事録に,宮崎氏の発言として,
「航空機モニタリングでの空間線量から個人の線量を導くことはできない。論文については,内部ではよく知っておくべきではあるが,市民との対話の際には使わない方が良いだろう。」
と記録されている。
研究計画書が承認される前に,伊達市民のデータを使った発表が行われている
早野氏は 2015 年 9 月 13 日に,第 12 回 ICRP ダイアログセミナーにおいて「測って伝える―これまでの歩み,そしてこれから」(文献5)という発表を行っており,ガラスバッジを用いた個人被曝線量のデータを解析したグラフをもとに解説している。研究計画書が医大の倫理審査委員会に提出されたのは 2015 年 11 月 2 日であり,この研究計画書において早野氏の名前が分担研究者であると初めて現れることになる(研究計画書 1 ページ)。それゆえ, 早野氏は 9 月 13 日の時点では,伊達市にとっては第三者にすぎない。そのような第三者が伊達市の保持するガラスバッジの測定データを持っていたこと,そしてそのデータを使って解析を行ったことは,「研究を開始する前に倫理審査委員会の承認を得る」という倫理指針の基本原則に反することが明白である(注8)。また,この事実は,この研究に使われた伊達市が持つデータベースの提供が正しいプロセスで研究者に渡されていないことを強く示唆している。伊達市の個人情報保護条例の第 9 条の規定る(注9)に従うならば,12 月 17 日の研究計画書が学長によって正式に承認されるまでは,宮崎氏および早野氏は条例の「当該実施機関以外のもの」であり, 「(4)専ら統計の作成又は学術研究の目的のために利用し,又は提供する場合であって,本人の権利利益を不当に侵害するおそれがないと認められるとき。」を使って個人情報を彼らに提供することはできない。少なくとも,「(6)前各号に掲げ るもののほか,審査会の意見を聴いた上で,公益 上の必要その他相当の理由があると実施機関が認めるとき」の規定に従って審査会の意見を聞いた上でなければならない。しかし審査会は開かれて いない。つまり,伊達市は研究計画書が正式に承 認される前に,宮崎氏および早野氏にデータベースを渡すことができないのである。前述のように, 2017 年 4 月 24 日の打合せ議事録には「データーについては,論文作成時に宮崎先生が「同意あり」のみを使用。個人を匿名化し,6 項目のみ使用した。(世帯番号,住所,世帯毎の除染エリア, ガラスバッジ測定結果,除染開始日及び除染終了日,WBC 検査日及び測定結果)」と記録されている。渡されたデータは氏名はないが,すくなくとも,世帯番号,住所,世帯ごとの除染エリア, ガラスバッジ測定結果,除染開始日及び除染終了日,WBC 検査日及び測定結果であり,明らかに個人情報である。
さらに,同じ 2017 年 4 月 24 日の打合せの議事録には,「平成 27 年 2 月 20 日から宮崎先生へ提供したデーターに(千代田→宮崎先生)ついては, ガラスバッジ測定データー分析向上のため。」「平成 27 年 8 月に提供したデーター(伊達市→宮崎先生)は論文作成のため。」と書かれており,データの提供は千代田テクノルを経由した提供と,伊達市が直接行った提供が行われたことがわかる。いずれも研究計画書が承認される前である。
幻の第 3 論文
宮崎早野論文は 3 つの論文からなるシリーズ論文として計画されながら,第 3 論文は発表されておらず,今後も発表されることがないことをこの論考の冒頭で書いた。ここでは,第 3 論文に関する倫理指針違反を考察する。島による医大に対する情報公開請求により,この研究の研究終了報告書と資料・情報等の保管状況報告書が開示されている。これらの報告書は 2018 年 10 月 23 日に提出され 10 月 31 日をもって研究を終了すること,また,研究終了後,研究に用いられる情報および当該情報にかかる資料をすべて廃棄することが報告されている。研究終了報告書には研究結果の概要を書くことになっており,得られた主要な知見などとして,以下のように書かれている。
「データの授受は 2015 年 12 月までに終了しており,その後の追加はなかった。 2016 年 12 月および 2017 年 7 月に,受領したデータの解析結果を 2 編の査読付き論文として学術研究誌に公表した(37-1, 2017 および 37- 623, 2017,いずれもJournal of Radiological Protection)。
その後,解析の結果そのものを利用し派生した検討として,福島県に於ける原発事故由来の追加個人外部被ばく線量の経時的な推計を行い,原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)が公表している同様の推計との対比についても 2018 年 2 月に査読付き論文として公表した(38-310, 2018, Journal of Radiological Protection)。これらの解析の詳細および公表の経緯を伊達市に報告,3 編の論文公表をもって委託業務は完遂し,本研究は終了となった。」
ここで問題としたいのは,上に引用した中の 3 つ目の論文は,この研究とは無関係の論文であることである。研究計画書には次のように書かれている。
「12 予測される研究結果及び学術上の貢献
本研究により,伊達市から提供されたデータベースの情報から,
1) 航空機による空間線量モニタリング結果と個人外部被ばく線量に正の相関がある
2) 個人の外部被ばく線量と内部被ばく線量との間には相関がない
3) 除染によって個人の外部被ばく線量に低減がみられる(ただし A エリアに限定)
4) 今後伊達市に居住することでどの程度の生涯線量になるかの予測ができる
などの成果が得られると想定している。これらはこれまで得られたデータから学術論文として発信する予定である。」
1)は第 1 論文として発表されており,3)と 4)は第 2 論文として発表されている。2)が第 3 論文として発表されるはずであった。
また,第 1 論文には(英語原文を注10として示す)
「著者たちは,伊達市から提供された福島第一原発事故後 5 か月から 51 か月の間の大規模個人線量モニタリングデータを用い,個人線量と日本政府が行った航空機による線量調査結果[10]との関係,除染の個人への影響,そして外部被曝線量と内部被曝線量の相関について分析を行った。これらの結果は 3 つの連続した論文として発表する。」
と書かれている。「個人線量と日本政府が行った航空機による線量調査結果との関係」が第 1 論文,「除染の個人への影響」が第 2 論文,そして「外部被曝線量と内部被曝線量の相関について分析」が第 3 論文に対応する。
それでは,宮崎氏と早野氏はなぜ第 3 論文を発表しないことにしたのだろうか。これについてのヒントが,やはり,市政アドバイザーとの打合せ議事録に存在する。2018 年 2 月 23 日の打合せにおいて,宮崎氏が次のように発言していることが記録されている。
「論文について,3 つ目のWBC に関する論文を出す予定であったが,内部被ばく検査は空間線量率等と関係ないため,論文として公表する必要はないのではないかとなった。しかし,伊達市には成果品としてグラフや報告書を提出し,データ解析については終了としたい。」
これは驚くべき発言である。研究計画書では, 「2)個人の外部被ばく線量と内部被ばく線量との間には相関がない」と予想されており,予想どおりの結果がでたのに発表しないことにしたといっているからである。ここで,伊達市が 2017 年 4 月に発表した「伊達市放射能健康管理計画(第 2 次)」という文書をみてみよう(文献6)。この文書の 9 ページに内部被曝検査事業の結果が示されている。 2015 年度の結果内訳の 19 歳以上の受検者のうちセシウムが検出限界以上になった検出率が示されており,それによると,霊山 4.2%,月舘 5.3%, 保原 2.2%,伊達 0.3%,梁川 1.5% である。地域はほぼ周辺線量率が高い方から低い方に並んでおり,外部被曝線量は周辺線量にほぼ比例するの で,外部被曝線量と内部被曝線量の間には明らか な相関があることを示している。2015 年度の受検者は 6833 人であるが,2011 年度と 2012 年度を合わせたときには受検者数も 4 万 3261 人,セシウム検出率も子どもを含んでも 9.4% もある。 4000 人が検出限界以上の内部被曝をしていたということである。外部被曝線量と内部被曝線量の間の相関はさらにはっきりしていると考えられる。また市政アドバイザーとの打合せの 2015 年 10 月 26 日の議事録に 4000 Bq 超の内部被曝が検出された市民が 1 人おり,2017 年 5 月 30 日には6400 Bq,そして 6 月 28 日には 5700 Bq の内部被曝が検出されていることが報告されている。第 3 論文を発表しない本当の理由は,外部被曝線量と内部被曝線量の間の相関がはっきり表れたためであり,2015 年になっても数千Bq の内部被曝者が存在するためと考えられる。伊達市から内部被曝線量のデータを受け取りながら,都合が悪い結果がでたときは論文を発表しないことは研究倫理に反していると言わざるを得ない。ヘルシンキ宣言には,結果の刊行について,「否定的結果および結論に達しない結果も肯定的結果と同様に, 刊行または他の方法で公表されなければならない。」と書かれている。また,ICMJE のrecommendation にはこれは研究不正であると考える人々がいると書かれている(注7)。
データの廃棄は研究不正である
前節において,研究終了報告書に付随する資料・情報等の保管状況報告書に,「研究に用いられる情報及び当該情報に係る資料」を「研究終了後,全て廃棄」することが報告されていることを示した。廃棄が研究終了日の 2018 年 10 月 31 日に行われたとすると,データは 2017 年 7 月に第 2 論文が印刷公表されてから 1 年と 3 カ月で破棄されたことになる(なお,念のため医大への情報公開請求 により,「研究で使用したデータベースについては研究終了時点 でデータ消去しています。」という回答も得ている)。また研究計画書には 2018 年 11 月末に研究は終了すると書かれている。その一月前に慌てて研究終了の手続きをとり,10 月 31 日に全データの廃棄を行ったことは,はなはだ不自然である。最終論文発表後わずか 1 年強でデータを破棄することは倫理指針の違反でもあるし,研究不正であると言わざるを得ない。倫理指針には,データの保管について次のように記述されている。「研究機関の長は,当該研究機関の情報等について,可能な限り長期間保管されるよう努めなければならず」(倫理指針 36 ページ)(注11)
また,学術会議の「科学研究における健全性の向上について」(文献7)では,「論文等の形で発表された研究成果のもととなった実験データ等の研究資料は,当該論文等の発表から 10 年間の保存を原則とする。」としている。
さらに,文部科学省の「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」(文献8)では, 「科学研究による人類共通の知的資産の構築が健全に行われるには,研究活動に対する研究者の誠実さを前提とした,研究者間相互の吟味・批判によって成り立つチェックシステムが不可欠である。研究成果の発表は,このチェックシステムへの参入の意味を持つものであり,多くが論文発表とい う形で行われ」る(注12)。
実際,筆者の一人である黒川は,宮崎早野第 2 論文についての批判的コメントをLetter to the Editor として,2018 年 8 月に Journal of Radio- logical Protection 誌に投稿し,11 月 16 日に“is ready to accept” となっている。“is ready to accept” とは,宮崎氏と早野氏の応答を待ち,批判的letter と著者からの応答を論文誌に同時に掲載するということが論文誌編集部の説明である。このように,論文には批判が寄せられることを想定 しなければならないのであり,批判に誠実な応答をするには,データを保管しておき,再解析が必要なときに備えなければならない。文部科学省の 「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」がいう,「研究成果の発表は,このチェックシステムへの参入の意味を持つものであり,多くが論文発表という形で行われ」るというのはこのことである。このようなチェックシステムを妨害する行為が研究不正であり,宮崎氏と早野氏が行ったデータの廃棄は研究不正と言わざるを得ない。
宮崎氏と早野氏の全データの廃棄にはもう一つ大きな問題がある。それは,伊達市が保持するとされている突合データベースが伊達市にないことである。研究計画書には,「データベースは解析時に研究者が保管し閲覧活用するが,念のため解析の間保管するコンピューターは,他のコンピューターから切り離されたものを使用し,データにも暗号化を施す。さらに解析後,研究者はデータベースを保管せず
さらに,伊達市から提供されたデータベースについて,研究計画書には次のように記述されている。
「2)データベース化について
伊達市はこれまで行ってきた事業全体の結果をひとつの個人ID にまとめ,経時的な検査結果や除染情報を含むデータベースとして閲覧可能な状態にまで確立している。データベース内には,前記の個人外部被ばくおよび内部被ばく線量検査の結果に加えて内部被ばく線量検査時の問診結果, A,B エリアの各戸面的除染の時期,複数のID が同一世帯であることの情級,さらに国が行っている航空機により空間線量モニタリングのメッシュ(一辺約 300 m)と住所情報との突合処理後情報が含まれている。」
また,仁志田市長から宮崎氏への依頼の手紙(前掲図 1)にも,
「既存の外部被ばく検査,内部被ばく検査データの結果のみならず,受検者の住所情報を,GIS(Geographic Information System:地理情報システム)に準拠させ,さらに GIS 情報を国が行っている航空機による放射線量モニタリングのメッシュ(約 300 m)範囲に合致させたものを,それぞれ突合してデータベースを構築いたしました。」
と書かれている。島がこの突合データベースを伊達市に情報公開請求したところ「事実上不存在」という返答であった。不服を申し立てたところ, 伊達市から弁明書が提出された(図 2)。弁明書における処分庁(伊達市長(健康推進課事務取扱)の意見の要点は,(1)突合データベースの作成は,市が早野氏に依頼したものである,(2)市は早野氏が作成したデータベースのサンプルは確認したが納品は不要と判断し,データベースは市が保存していない,(3)データベースは早野氏から宮崎氏に渡してもらったというものである。

図 2―伊達市の弁明書より
この処分庁の意見が正しいならば,早野氏と宮崎氏は突合データベースを市が持っていないことを知りながら,研究計画書に市がデータベースを持っていると書き,このデータベースを含む全データを廃棄したことになる。
弁明書に記された突合データベースの作成の経緯は,個人情報保護の観点からみて,奇々怪々である。前々節でも,研究が倫理委員会の承認を得る前に伊達市民の個人情報が第三者である宮崎氏と早野氏に渡されたことを指摘している。データの提供の経緯とそれにともなう個人情報保護条例違反については,伊達市が行う調査委員会による調査で真実が明らかになることを強く期待している。
まとめ
宮崎早野論文のもととなった研究は,この論考で示したように,多くの倫理指針違反をおかしている。特に,データ提供に同意していない市民のデータを使っていること,伊達市民に対して研究を行っていることや研究内容を知らせずオプトアウトの機会を与えなかったこと,研究計画書が承認される前に伊達市からデータ提供を受け,研究を開始したこと,第 3 論文を発表することなく研究を終了し,全データを廃棄してしまったこと, そして研究終了報告書に研究計画書とは無関係な 論文を成果として報告したことなどは,重大な倫理指針違反である。さらに全データの廃棄は研究不正といわれても仕方がない暴挙であると思う。データを提供した伊達市の側の不手際と落ち度も責められるべきであるが,「人を対象とする医学系研究」を行う研究者の側は,倫理指針に厳密に従うべきである。宮崎氏と早野氏の研究に対する姿勢はあまりにも安易すぎると言わざるを得ない。
ヘルシンキ宣言には,「①研究者は,人間を対象とする研究の結果を一般的に公表する義務を有し報告書の完全性と正確性に説明責任を負う。② すべての当事者は,倫理的報告に関する採択されたガイドラインを遵守すべきである。③否定的結果および結論に達しない結果も肯定的結果と同様に,刊行または他の方法で公表されなければならない。④資金源,組織との関わりおよび利益相反が,刊行物の中には明示されなければならない。⑤この宣言の原則に反する研究報告は,刊行のために受理されるべきではない。」と書かれている〔筆者注:①②③④⑤は筆者が付加したものである。また「採択」はもとの日本語訳では「容認」とされている。原文はaccepted である〕。宮崎早野論文は,ここに書かれている①②③④のすべての原則に反しており,まさしく,⑤の「この宣言の原則に反する研究報告」であり,「刊行のために受理されるべきではない」論文と考える。なお,宮崎早野論文が掲載された論文誌であるJournal of Radiological Protection はヘルシンキ宣言を全面的に支持することを論文の著者へのガイドラインの中で明らかにしていることを指摘しておく(注13)。
付記 この論考は,黒川と島の共著である。黒川が論文を読み矛盾を指摘し,島が,情報公開請求を駆使して多くの文書を得,それらをもとに二人で議論を重ねてきたことで明らかになったことを示す。
文献
1―http://doi.org/10.1088/1361-6498/37/1/12―http://doi.org/10.1088/1361-6498/aa6094
3― 伊達市議会平成 30 年 9 月定例会(第 5 回)(2018 年 9 月 4日)02 号会議録より,
http://ssp.kaigiroku.net/tenant/datecity/SpMinuteView.html?council_id=81&schedule_id=3&minute_id=187&is_search=true
4― 伊達市議会平成 29 年 6 月定例会(第 2 回)(2017 年 6 月 14日)03 号会議録より,
http://ssp.kaigiroku.net/tenant/datecity/SpMinuteView.html?council_id=74&schedule_id=4&minute_id=455&is_search=true
5―https://www.youtube.com/watch?v=dq9lsd3b5nw
6―https://www.city.fukushima-date.lg.jp/uploaded/attachment/34956.pdf
7―http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-23-k150306.pdf
8―http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/26/08/__icsFiles/afieldfile/2014/08/26/1351568_02_1.pdf
注
注 1―例えば,第 141 回放射線審議会(2018 年 6 月 22 日)資料 141-4-1 号:「東電福島第一原子力発電所事故に関連して策定された放射線防護の基準のフォローアップについて」注 2―「人を対象とする医学系研究は,医学・健康科学及び医療技術の進展を通じて,国民の健康の保持増進並びに患者の傷病からの回復及び生活の質の向上に大きく貢献し,人類の健康及び福祉の発展に資する重要な基盤である。また,学問の自由の下に,研究者が適正かつ円滑に研究を行うことのできる制度的枠組みの構築が求められる。その一方で,人を対象とする医学系研究は,研究対象者の身体及び精神又は社会に対して大きな影響を与える場合もあり,様々な倫理的,法的又は社会的問題を招く可能性がある。研究対象者の福利は,科学的及び社会的な成果よりも優先されなければならず,また,人間の尊厳及び人権が守られなければならない。このため文部科学省及び厚生労働省においては,研究者が人間の尊厳及び人権を守るとともに,適正かつ円滑に研究を行うことができるよう,日本国憲法, 我が国における個人情報の保護に関する諸法令及び世界医師会によるヘルシンキ宣言等に示された倫理規範も踏まえ,平成 14 年に文部科学省及び厚生労働省で制定し平成 19 年に全部改正 した疫学研究に関する倫理指針(平成 19 年文部科学省・厚生労 働省告示第 1 号)及び平成 15 年に厚生労働省で制定し平成 20 年に全部改正した臨床研究に関する倫理指針(平成 20 年厚生労 働省告示第 415 号)をそれぞれ定めてきた。しかしながら,近年, これらの指針の適用対象となる研究の多様化により,その目的・方法について共通するものが多くなってきているため,これらの指針の適用範囲が分かりにくいとの指摘等から,今般, これらの指針を統合した倫理指針を定めることとした。この指針は,人を対象とする医学系研究の実施に当たり,全ての関係者が遵守すべき事項について定めたものである。また,研究機関の長は研究実施前に研究責任者が作成した研究計画書の適否を倫理審査委員会の意見を聴いて判断し,研究者等は研究機関の長の許可を受けた研究計画書に基づき研究を適正に実施することを求められる。この指針においては,人を対象とする医学系研究には多様な形態があることに配慮して,基本的な原則を示すにとどめている。研究者等,研究機関の長及び倫理審査委員会をはじめとする全ての関係者は高い倫理観を保持し,人を 対象とする医学系研究が社会の理解及び信頼を得て社会的に有 益なものとなるよう,これらの原則を踏まえつつ,適切に対応 することが求められる。」
注 3―ヘルシンキ宣言とは,1947 年 6 月に発表された,ナチスによる強制収容所において行われた,対象者の同意を得ない人 体実験の反省に基づくニュルンベルク綱領を受けて,1964 年 6 月ヘルシンキにおいて開かれた世界医師会第 18 回総会で採択された,医学研究者が自らを規制するために採択された,人を 対象とする研究に対する倫理規範のことであり,正式名称は, WMA Declaration of Helsinki – Ethical Principles for Medical Re- search Involving Human Subjects である。英文 https://www.wma.net/policies-post/wma-declaration-of-helsinki-ethical-principles-for-medical-research-involving-human-subjects/,日本語訳http://dl.med.or.jp/dl-med/wma/helsinki2013j.pdf
注 4―「本研究は,東日本大震災に続発した東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う,一般住民の追加被ばく量に関して自治 体が行ってきた把握事業の結果についての解析委託を受けて行 うものである。そのため,この研究を行うにあたって新たに研 究対象者を募集することはない。
本研究に提供されるデータベースには,2011 年 8 月から 2015 年 6 月にかけての 3 年 11 ヶ月間に伊達市が全市民を対象に行ったガラスバッジによる外部被ばく線量調査,ホールボディカウンターによる内部被ばく線量調査の結果が含まれており, 閲覧解析の対象者はデータを本機関に提供する同意があったものに限られる〔中略〕。伊達市が行った調査への参加意向に沿い, 本研究を含めた事業への参加は任意である。(」研究計画書 4 ページ)
注 5―「(2)研究対象者の人権の擁護
本研究は,伊達市における線量把握事業で得られたデータに ついて解析を行い,伊達市にその結果を報告すると共に学術的 な成果として広く発信する,という依頼(資料 1〔)筆者注:資料 1 とは仁志田伊達市長(当時)から宮崎氏宛に送られた解析および論文作成を依頼する文書である。図 1 として掲載〕に基づいて行われる。そのため,研究者自身が研究対象者を募集したり直接参加を依頼したりすることはない。それでも研究者は人権擁護のために以下を記す。
まず,研究対象者については,伊達市からこの研究のもととなるデータを取得する事業についての説明を受け,事業に参加しデータ提供を行うことに同意した者のみを対象とする。また, 同意を得た研究対象者又は代諾者が,本研究の開始後にデータ提供への同意を中止する旨の希望を申し出た場合,その意思を尊重する。なお,データ提供の同意・不同意は,研究対象者の自由意思によるものであり,データ提供に同意しない場合又はデータ提供を中止した場合でも不利益は受けない
(3)研究対象者に理解を求め,承諾を得る方法
本研究は,伊達市から線量把握事業のデータをご提供いただき,そのデータをもとに解析を行うため,本研究に関する説明・同意取得を研究者自身が直接住民に対しては行っていない。外部被ばく線量把握事業については,ガラスバッジの送付時に本機関へのデータ提供と活用に関する同意書への記入が行われている(資料 2)。また内部被ばく線量把握事業においても,解析に関する同意書が記入されている(資料 3)。
なお,本研究は,文部科学省・厚生労働省「疫学研究に関する倫理指針〔」筆者注:「疫学研究に関する倫理指針」が改正され 「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」になったのであり,ここで旧指針を引用するのは不適当である〕が定める「人体から採取された試料を用いない場合」に該当するため,研究対 象者からインフォームド・コンセントを受けることを必ずしも要しないと判断される(第 3.1(. 2)。ただし,「この場合において,研究者等は,当該研究の目的を含む研究の実施についての情報を公開しなければならない」と定められているため,本研究の実施について周知するため,HPや伊達市広報誌などに資料 4 の公開文を掲載していただく予定である。」(研究計画書 11 ページ以降)
注 6―「なお,オプトアウトによる場合は,少なくとも第 12 の 4 に掲げる情報を,研究対象者等への文書の送付,パンフレットの配布,ホームページへの掲載,研究対象者等が確認できる場所への書面の掲示・備付け等により,研究対象者等が容易に知り得る状態に置く必要がある。当該内容に変更がある場合は, 変更内容を研究対象者等が容易に知り得る状態に置く必要がある。」
注 7―「Scientific Misconduct, Expressions of Concern, and Retraction
Scientific misconduct in research and non-research publica- tions includes but is not necessarily limited to data fabrication; data falsification, including deceptive manipulation of images; purposeful failure to disclose conflicts of interest; and plagiarism. Some people consider failure to publish the results of clinical tri- als and other human studies a form of scientific misconduct.」 (http://www.icmje.org/icmje-recommendations.pdf)
注 8―早野氏の第 12 回 ICRP ダイアログの発表について,「研究申請前に解析結果を公表~伊達市の被ばくデータ」という記事が 12 月 10 日に OurPlanet-TV で公開されている。その記事には「一方,早野氏との共著論文を執筆した主著者の宮崎氏は, 『早野先生がどのようなデータを発表されたか当方では把握して おりません』と回答し,コメントを避けた。」とされている (http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/2337)。この宮崎氏の回答 中の「把握しておりません」は宮崎氏が言うべき言葉ではない。研究計画書の 6 ページには,「解析の過程では,2011 年以降福島県の住民における放射線状況を多くの実測データを読み解析を加え論文化してきた分担研究者に,随時主任研究者が解析した結果についてレビューしていただき,統計や計算処理の不備や問題点の指摘とその解決法などについて助言をいただく予定である。」と書かれている。ダイアログの発表に使われた 2 枚のグラフは第 2 論文の図 6 と図 5 の Zone A に対応しており,論文の図 6 では縦軸が nSv/h であり,対応するダイアログのグラフは mSv/3 month であることを除くと,市民の被曝線量の分布については同一の図である。これは,第 2 論文の解析のかなりの部分がこの時点までに行われたことを意味する。研究計画書の中の「主任研究者」とは宮崎氏のことであり,「分担研究者」とは早野氏である。そして研究計画書によれば,解析は主任研究者,すなわち,宮崎氏が行っていなければならないからである。
注 9―伊達市個人情報保護条例第 9 条:
実施機関は,個人情報取扱事務の目的以外に保有個人情報(保有特定個人情報を除く。以下この条において同じ。)を当該実施機関内において利用し,又は当該実施機関以外のものへ提供してはならない。ただし,次の各号のいずれかに該当するときは,この限りでない。
(1) 法令等の規定に基づくとき。
(2) 本人の同意があるとき。
(3) 人の生命,身体又は財産を保護するため,緊急かつやむを得ないと認められるとき。
(4) 専ら統計の作成又は学術研究の目的のために利用し,又は提供する場合であって,本人の権利利益を不当に侵害するおそれがないと認められるとき。
(5) 同一実施機関内で利用する場合又は他の実施機関,国, 独立行政法人等,他の地方公共団体若しくは地方独立行政法人に提供する場合であって,その所管する事務又は業務の遂行に必要な限度で利用し,かつ,利用することについて相当な理由があるとき。
(6) 前各号に掲げるもののほか,審査会の意見を聴いた上で, 公益上の必要その他相当の理由があると実施機関が認めるとき。
(http://www1.g-reiki.net/date/reiki_honbun/r312RG00000118.html)
注 10―「The present authors made use of the large-scale individual dose monitoring data provided by Date City covering the peri- od from 5 to 51 months after the FDNPP accident, analyzed the relationship of the individual doses to the results of airborne surveys conducted by the Japanese Government[10], the effect of decontamination on the individual doses, and the relationship be- tween the external and internal doses. These results will be published in a series of three papers.」
注 11―「研究機関の長は,当該研究機関の情報等について,可能な限り長期間保管されるよう努めなければならず,侵襲(軽微 な侵襲を除く。)を伴う研究であって介入を行うものを実施する場合には,少なくとも,当該研究の終了について報告された日から 5 年を経過した日又は当該研究の結果の最終の公表について報告された日から 3 年を経過した日のいずれか遅い日までの期間,適切に保管されるよう必要な監督を行わなければならない。」
注 12―「2 研究成果の発表研究成果の発表とは,研究活動によって得られた成果を,客観的で検証可能なデータ・資料を提示しつつ,科学コミュニティに向かって公開し,その内容について吟味・批判を受けることである。科学研究による人類共通の知的資産の構築が健全に行われるには,研究活動に対する研究者の誠実さを前提とした,研究者間相互の吟味・批判によって成り立つチェックシステムが不可欠である。研究成果の発表は, このチェックシステムへの参入の意味を持つものであり,多くが論文発表という形で行われ,また,論文の書き方(データ・資料の開示,論理の展開,結論の提示等の仕方)に一定の作法が要求されるのはその表れである。」
注 13―「Manuscripts reporting studies of humans or animals should pay due attention to the ethical aspects of the study. Such studies must conform with local statutory requirements. Journal of Radiological Protection endorses fully the World Medical Asso- ciation Declaration of Helsinki on Ethical Principles for Medical Research Involving Human Subjects, the latest version of which may be found at www.wma.net/e/policy/b3.html. Where appropriate, a statement should be made that the study has been carried out with ethical committee approval.」
(http://iopscience.iop.org/article/10.1088/0952-4746/32/1/M03/pdf)