2000年10月号 今月の‘科学’から

日本の教育,何が問題なのか
 教育行政による小手先だけの改革は,事態をむしろ悪化させている.親,教師,行政が,なぜ学ぶのかという原点に立ち返った議論を開始すべきだ(<対談>毛利衛氏・戸瀬信之氏,p.811).
 文部省の“ゆとり”教育が進行するこの約10年間で,学力も学習に対する意欲も落ち込みをみせている.しかし,“危険社会”を生きていくために,科学の知識がますます求められている(苅谷剛彦氏,p.825).
 新学習指導要領の柱となる個に応じた指導という教育原理は,子どもの知的成長にとって望ましいが,正しく実施されなければ学力低下は必至である(奈須正裕氏,p.834).
 大学生の学力低下が指摘されるが,21世紀初頭には教員が不足する事態が全国的に発生する.よい教員を育てるために,財政の裏づけのある,教員養成の強化策が不可欠だ(山崎博敏氏,p.776).

何のための科学教育か,理科離れにどう立ち向かうのか
 科学そのもののもつ価値を学ぶことに加え,科学が社会や政治,労働の場で判断基準を与え役に立つということを学ぶことのできる教育実践が求められている(大野栄三氏・左巻健男氏,p.817).
 子どもたちは自然や科学への知的関心をもっているが,学習指導要領・教科書検定によるしばりが.その発達を妨げている(森一夫氏,p.856).
 自然科学の基礎的な内容を十分理解できる工夫した授業が必要だ(堀雅敏氏,p.782). 化学会では,公害問題が広がった後,1970年代半ばから“化学の復権”運動を続けてきた(佐野博敏氏,p.861).
 活断層や震源といった基本的な内容が学習指導要領に欠けていたことは,阪神・淡路大震災が不意打ちの大被害となった原因の一つだ(觜本格氏,p.787).
 日本では,震災体験を継承する地学的教育が不可欠だ(数越達也氏,p.868).

世界の科学教育は高水準をめざす
 欧米各地で質・量ともに充実した科学教育が実現しているのと対照的に,日本は,1970年代以降,理科の内容と時間数を減らし続けている(笠耐氏,p.839).
 民間の力を生かした教育改革を進めるイギリスに,物理学会と教師たちの共同開発による画期的な物理カリキュラム(AP)が誕生した(滝川洋二氏,p.846).
 新学習指導要領では小学校のかけ算は2桁×2桁までに制限されるが,韓国では,説明がていねいな高度な数学教科書を使い,子どもたちが熱心に学んでいる(松本幸夫氏,p.872).

脳研究,心理学,認知科学からの科学教育への提言
 脳研究の成果を学習と教育に生かす試みが世界各地で始まっている(小泉英明氏,p.878).   
 学習の基本的なスキルを育むことは学力低下や理科離れの時代に重要性を増している(市川伸一氏,p.885).
 学習・発達によって学習者が能動的に知を構成していく過程についてのさまざまな知見を,教育課程の議論に生かすべきだ(鈴木宏昭氏,p.890).

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