96年6月号 今月の‘科学’から

文明がもたらした狂牛病がヒトを襲う?
新種のクロイツフェルト-ヤコブ病は,狂牛病プリオンによると推測されている.ヒツジの臓物を混ぜた飼料からウシに広がったプリオンが,ヒトにも感染するのだろうか.(畑中正一氏,p.397)

粒子がすべて止まる―アインシュタインの予言
量子力学によると,粒子をある密度以上容器に詰め込むと,すべての粒子が静止してしまうことがある.この現象は1925年にアインシュタインが予言したもので,基本となる統計的法則を考えたインド人ボースにもちなんで“ボース-アインシュタイン凝縮”と呼ばれる.この現象が昨年,原子気体についてはじめて実証された.(長沢信方氏,p.401)

発光現象や動物異常行動は地震と関係するのか
岩石の圧電効果に基づき,断層運動によって電荷が発生し,パルス電場やパルス電流を生じるというモデルを考えた.パルス電場によっていろいろな動物の異常行動が理解できる.(池谷元伺氏,p.408)

変異はどこから来るのか
ゴリラやチンパンジーなどの遺伝,形態,生態的変異を詳しく調べたところ,形態と食性,環境と道具使用,生殖戦略などに関しさまざまな疑問が生じてきた.変異は複雑に絡み合っており,類人猿の進化を理解するために遺伝,生態,生理,形態を統合した研究が必要になってきた.(内田亮子氏,p.419)

マントルかんらん岩体に記録されたマグマの上昇・分離機構
地下60km以深から地殻中に上昇してきたマントルダイアピルの構造が明らかになった.その内部では,マグマで満たされたクラックが周囲のマントルからマグマの成分を吸い込みながら上昇し,規則的なかんらん岩の層状構造を作りだす.(高橋奈津子氏,p.428)

計算機で微分方程式が厳密に解けるか
数値計算には必ず誤差が伴い,微分方程式の“厳密”な扱いは困難とされてきた.区間解析や構成的数学などの原理を用いて数値計算の精度を保証し,計算機の上で解の存在証明をすることも可能になってきた.(大石進一氏,p.437)

ヨーロッパの構造生物学
ヨーロッパでは,X線回折やNMR(核磁気共鳴法)など物理学の多様な伝統を生かし,構造生物学が展開している.生物現象の本質を,分子の3次元構造をもとに明らかにしつつある.(高橋正行氏,p.446)

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