99年3月号 今月の‘科学’から

いま,なぜ科学史か
 ヨーロッパ・ルネサンスやアラビア,中国の科学を引き継いで19世紀後半以降,急速に立ち上がった近代科学は,科学技術の進歩をもたらし,“科学エンタープライズ”をうみだした.科学の健全な発展のためにも,科学者が歴史的社会的関心をもつことは不可欠だ(<座談会>上野健爾氏・佐々木 力氏・佐藤文隆氏・山田慶兒氏,p. 175).
 軍事的には不可欠ではなかった原爆投下がなぜ政治的に決断されたのか.冷戦下の物理学者が示した行動を読み解くことで,政治・軍事複合体に抗した,科学者と科学史家の連帯の重要性が明らかになる(佐々木力氏,p. 190).
 SSC中止にいたる過程では,軍隊出身者による官僚的運営が自由な科学者の活動を妨げていたことがわかる(平田光司氏,p. 164).

科学と社会の接点で,何が問われているのか
 ニュートンモデルにあわせ河川をコンクリートで固めていくことで喪失する生物多様性を保全していくためには,工学,理学者,住民による協働作業グループが必要だ(廣野喜幸氏・清野聡子氏・堂前雅史氏,p. 199).
 公正で中立的な科学のあり方は,科学と政治の有効な交渉プロセスによってはじめて維持される(平川秀幸氏,p. 211).
 科学的知識だけでは,地球環境問題の解決はできない.環境の文化政治学の中で,科学知識はどういった役割をはたすのだろうか(金森修氏,p. 219).

科学の限界とフロンティアを批判的に読み解く
 ダイオキシン被害解明は,企業側研究者による,疫学データのごまかしなどの巧みな“科学的嘘”によって妨げられてきた(松崎早苗氏,p. 227).
 遺伝子技術の進展は,社会を成り立たせていた“わからない”という前提をゆるがせている(立岩真也氏,p. 235).
 “善玉・悪玉コレステロール”という“言い換え”は,科学者の“二重基準”に基づく発言を見抜けなかったメディアによって広まってしまった(松山圭子氏,p. 242).
 中西医結合医療は難病の治療法を豊かにする.いっぽう,理論を忘れた日本漢方は,病名漢方へと堕落している(清水宏幸氏,p. 249).
 21世紀に向けて科学はどこへ向かうのか(新連載“科学者は何をしたいのか,科学者に何が問われているのか,p. 169).

市民の科学に向けた,専門家の役割,市民の役割
 地震・火山の研究が進んでも,減災・防災はかならずしも実現しない.分野を越えた専門家の連携と,本格的で魅力的な普及活動による“文化”の構築をめざす(小山真人氏,p. 256).
 情報公開の進まない原子力行政は,原発震災などのリスクを解消できないでいる(野村元成氏,p. 265).
 旧来の“政府セクター”“企業セクター”に加え,ダイオキシン問題などに取り組むために必要な広範な科学的知識を集積した“市民セクター”が各地でうまれつつある(上田昌文氏,p. 273).
 素人が科学/技術を評価する試みとして,市民と専門家による“コンセンサス会議”が遺伝子治療をテーマに行なわれた(小林傳司氏,p. 159).

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