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ゆがむ被曝評価

 福島県伊達市の全住民のガラスバッジ測定データを用いたとして空間線量率と個人線量との関係を論じたJ. Radiol. Prot., 37, 1-12(2017)〔第1論文〕と,それをもとに累積線量を求め除染効果を論じたJ. Radiol. Prot., 37, 623-634(2017)〔第2論文〕は,政府放射線審議会の資料として取り上げられて政策の根拠とされ,社会的に極めて重要な位置づけが与えられてきました。原論文の日本語訳を以下に掲載します。
 論文の対象者である伊達市住民のなかには,研究使用を拒否していた方や同意回答のない方がいたことが明らかになっています。こうした倫理上の問題について2018年12月末現在の情報をまとめたものが,以下に公開する『科学』2月号記事です。
 (その後,判明した事実についての補足は,(2019年)4月号掲載を予定しています。)
 2019年1月25日開催の放射線審議会(第143回総会)において事務局は,この論文について「学術的な意義について全否定されるものではない,論文を根拠としない場合でも結論に影響を与えない」と述べました。批判的検討を本誌3月号掲載記事(黒川眞一「被曝防護には空間線量そのものを使うことが妥当である――信頼性なく被曝線量を過小評価する宮崎早野第1論文」および牧野淳一郎「3.11以後の科学リテラシー no.75」)で取り扱っています。(2019年3月7日)

 2019年7月19日に、島明美氏が東京大学と福島県立医科大学に申し立てていた宮崎早野論文の調査に対する結果が公表されました。島氏の申立は、倫理指針違反と研究不正の疑いについて、氏が当時把握した限られた論点にもとづくものでした。本誌ではその後、2019年3月号、4月号、6月号、7月号に、黒川眞一氏および黒川氏・谷本溶氏による、宮崎早野論文を批判的に検討する論考を掲載してきました。今回の調査では、これらの論考で指摘されていた新たな問題点について、考慮されていません。そこで、特別に記事を公開し、広く検証を呼びかけることといたします。(2019年7月23日追加)

 宮崎早野論文について新たに重大な問題が浮上しました。問題を指摘する電子版記事:黒川眞一「大規模被曝データ解析論文の新たな問題――宮崎早野第1論文の表1 2014 Q3 と図4f は正しいガラスバッジ測定データにもとづいていない」を特別公開いたします。
 また、牧野淳一郎「3.11以後の科学リテラシー no.88」(2020年4月号)でもこの問題を解説しています。(2020年3月12日追加)

 宮崎早野論文は2020年7月28日付けで撤回されました。
 しかし、論文内容における問題は依然残されています。(2020年8月3日追加)

宮崎早野論文の日本語翻訳版


第1論文(pdfダウンロード) 原論文:J. Radiol. Prot., 37, 1-12(2017) 撤回の告知

第2論文(pdfダウンロード) 原論文:J. Radiol. Prot., 37, 623-634(2017) 撤回の告知
(2020年8月3日追加)

宮崎早野論文の倫理問題


 社会的重要性に鑑みて,全文を公開いたします。
黒川眞一・島明美: 「住民に背を向けたガラスバッジ論文――7つの倫理違反で住民を裏切る論文は政策の根拠となり得ない」,科学,89(2),152(2019)(htmlの別ページにリンク)

 (次節に掲載する黒川眞一・谷本溶「インテグリティの失われた被曝評価論文:宮崎早野第2論文批判」,科学,89(4),318(2019)の付録(宮崎早野論文に関して2月号以降に判明した倫理違反の事実)のhtml版はこちら)(htmlの別ページにリンク)

 (英文抄訳版:
A Glass Badge Study That Failed and Betrayed Residents—A Study with Seven Violations of Ethical Guidelines Can Be No Ground for Government Policies……Shin-ichi Kurokawa and Akemi Shima (約0.6MBのpdfダウンロード)はこちら

『科学』2019年3月号、4月号、6月号、7月号掲載の宮崎早野論文の批判的検討


 以下の記事全文を特別公開いたします。(pdfダウンロード)

黒川眞一:「被曝防護には空間線量そのものを使うことが妥当である――信頼性なく被曝線量を過小評価する宮崎早野第1論文」,科学,89(3),270(2019)
(2019年3月号280ページの式(2)引用における誤植の訂正

黒川眞一・谷本溶:「インテグリティの失われた被曝評価論文:宮崎早野第2論文批判」,科学,89(4),318(2019)

黒川眞一・谷本溶:「宮崎早野論文批判補遺(1)」,科学,89(6),497(2019)

黒川眞一・谷本溶:「宮崎早野論文批判補遺(2)」,科学,89(7),589(2019)

(2019年7月23日追加)

Comments on the investigation reports by Fukushima Medical University and the University of Tokyo on allegations regarding papers on radiation dose estimates in Date City……Shin-ichi Kurokawa & Yoh Tanimoto,科学(電子版),89(8),e0001(2019)
(東京大学と福島県立医科大学から2019年7月19日に公表された調査が、不十分で非論理的であることを論じた本誌電子版記事(英文)です。(2021年3月1日リンク追加) )

データにもとづかない図


 明らかになった新たな問題を論証する電子版記事を特別公開いたします。

黒川眞一:「大規模被曝データ解析論文の新たな問題――宮崎早野第1論文の表1 2014 Q3 と図4f は正しいガラスバッジ測定データにもとづいていない」,科学(電子版),90(3), e0001

 (英語による論点をまとめたレター論文:arXivへのリンクはこちら) (2020年3月12日追加)

 電子版記事に加筆修正した本誌掲載版を特別公開いたします。

黒川眞一:「大規模被曝データ解析論文の新たな問題――宮崎早野第1論文の表1 2014 Q3 と図4f は正しいガラスバッジ測定データにもとづいていない」,科学,90(5), 433(2020)
(2020年8月3日追加)

個人線量測定論文の諸問題


 「本来,放射線 業務従業者を対象とした線量管理の方法を一般公 衆に適用することには大きな問題があると考えら れる。」「あまりにもずさんなデータ処理が行われており,これらにもとづいた政策決定をすべきではない。」――個人線量測定論文の分析上の課題を指摘する論考を特別公開します。

濱岡豊:「個人線量測定論文の諸問題――批判的レビュー」,科学,89(4), 341(2019)
(2020年8月3日追加)

2021年4月13日の早野氏・黒川氏の対論に関連して


 2021年4月13日に日本科学技術ジャーナリスト会議(JASTJ)の月例会「『福島』の困難な状況が続く中で,これから科学者,科学ジャーナリストが何をすべきかを考える」が一般ウェブ参加の下で開催され,早野龍五氏が講演しました。続いて黒川眞一氏に論文問題について短いトークの機会が与えられました。
 
・黒川氏の講演資料「「宮崎・早野論文」とはなにか そして何が問題であるのか」(日本科学技術ジャーナリスト会議にて)

 さらに早野氏と黒川氏が直接対論しました。論文をめぐって直接の対論が実現したのは初めてといえます。その概要として、以下の編集部記事を公開します。
編集部:「伊達市外部被曝データ解析論文問題についての早野龍五氏と黒川眞一氏の対論より」,科学,91(6), 630(2021)

 早野氏の当日の発言に対して黒川氏がまとめた詳しいコメントを以下に公開します。
黒川眞一:「日本科学技術ジャーナリスト月例会(4月13日)における早野氏の発言に対するコメントと批判」

 このコメントで言及される伊達市に提供された資料として以下があります。
「7月30日資料」(2015年7月30日)〔サイズが70Mと大きいのでリンクからいったんダウンロードしてから開いてください〕/「9次モニタリング解析結果」「8月19日資料」(2015年8月19日)「田中委員長向け資料」(2015年10月19日)2017年2月の会議における「スライド」
(2021年5月29日追加)

Publisher's Noteにおける問題


 宮崎早野論文の撤回に関連して,掲載誌JRPはPublisher's Noteを公開しました。これには,記載されていない重大な事実や誤りがあります。以下のプレプリントとして公開されています。掲載誌の対応にも重大な問題があります。

・Comments on “Publisher’s Note” on papers on individual external dose monitoring of all citizens of Date City Authors: Yoh Tanimoto, Yutaka Hamaoka, Kyo Kageura, Shin-ichi Kurokawa, Jun Makino, Masaki Oshikawa https://osf.io/preprints/metaarxiv/n6fyh/
(2021年5月29日追加)

掲載誌JRPは批判レター論文をどのように握りつぶしたか:論文出版のインテグリティに関わる問題


 査読付き論文誌The Journal of Scientific Practice and Integrity に経緯と問題をまとめた論文が刊行されました。
 
〈Peer-Reviewed Commentary〉 "The mishandling of scientifically flawed articles about radiation exposure, retracted for ethical reasons, impedes understanding of the scientific issues pointed out by Letters to the Editor" Authors: Yoh Tanimoto Yutaka Hamaoka Kyo Kageura Shin-ichi Kurokawa Jun Makino Masaki Oshikawa : JoSPI. Published online October 23, 2022. doi:10.35122/001c.38474

(2022年12月2日更新)

 上記論文の日本語訳が公開されました。
「倫理的理由で撤回された、放射線被曝に関する科学的欠陥のある論文の不適切な扱いは、レターが指摘した科学的問題点の共有を阻害する」谷本溶,濱岡豊,影浦峡,黒川眞一,牧野淳一郎,押川正毅

(2023年2月13日)

参考資料/リンク


・第2論文に対する英文レター論文(Comment on "Individual external dose monitoring of all citizens of Date City by passive dosimeter 5 to 51 months after the Fukushima NPP accident (series): II" Author: Shin-ichi Kurokawa Submitted on 30 Dec 2018):arXiv:1812.11453

・第1論文に対する英文レター論文(Comment on "Individual external dose monitoring of all citizens of Date City by passive dosimeter 5 to 51 months after the Fukushima NPP accident (series): 1." Authors: Masaki Oshikawa, Yutaka Hamaoka, Kyo Kageura, Shin-ichi Kurokawa, Jun Makino, Yoh Tanimoto Submitted on 31 Jan 2020):arXiv:2001.11912

・第1論文に対する追加英文レター論文(Further comments on "Individual external dose monitoring of all citizens of Date City by passive dosimeter 5 to 51 months after the Fukushima NPP accident (series): 1." : Inconsistencies in Table 1 2014 Q3 and Figure 4f Authors: Shin-ichi Kurokawa, Yutaka Hamaoka, Kyo Kageura, Jun Makino, Masaki Oshikawa, Yoh Tanimoto Submitted on 10 Mar 2020):arXiv:2003.05403

・2019年7月19日公表の福島県立医科大学による調査報告概要はこちら

・2019年7月19日公表の東京大学による調査報告概要はこちら

・オープンフォーラム「福島原発事故後の科学ーー個人線量測定論文をめぐって」 (科学の健全な発展を望む会)の記録はこちら(リンク)

・上記フォーラムの配布資料の経緯表はこちら

・OurPlanet-TVによる報道「実測数より多いデータ解析〜宮崎早野論文に新疑惑」はこちら(リンク)

・OurPlanet-TVによる報道「伊達市民の被曝解析データを前規制委員長へ提供〜宮崎早野論文」はこちら(リンク)

(2020年3月12日追加)

・伊達市被ばくデータ提供に関する調査委員会報告書(2020年3月17日)はこちら(pdf)

・OurPlanet-TVによる報道「被曝データの提供「不適切」〜伊達市調査報告書」はこちら(リンク)

(2020年3月19日追加)

・伊達市「議会被ばくデータ提供等に関する調査特別委員会」中間報告(2020年9月24日)はこちら(pdf) (2021年1月23日追加)

・伊達市「議会被ばくデータ提供等に関する調査特別委員会」最終報告(2021年3月15日)はこちら(pdf) (2021年3月20日追加)

・東京大学の調査関連開示資料 (1)2019-35_不開示部分.pdf (2)2019-35_01科学研究行動規範委員会資料.pdf (3)2019-35_02調査委員会資料.pdf (4)2019-35_03通知文書(調査決定通知、裁定通知など).pdf (5)2019-35_04理学系研究科元教授の研究不正に関する調査報告書.pdf

(2021年1月23日追加)

・2021年4月13日の黒川眞一氏の講演資料「「宮崎・早野論文」とはなにか そして何が問題であるのか」(日本科学技術ジャーナリスト会議にて)
PDF版 ・pptx版

(2021年4月13日追加)

・牧野淳一郎氏による早野氏の著書『「科学的」は武器になる』における宮崎早野論文に関する記述について事実との齟齬の指摘:「33. 早野龍五氏の「科学的」(2021/4/12。4/13追記、修正)」

(2021年5月29日追加)

・島明美氏の動画作品(youtube公開)「調査報道 通称「宮崎・早野論文」 『科学的』の正体~私たちは実験台だったのか~」
(2022年2月16日追加)

連載「3.11以後の科学リテラシー」より


 牧野淳一郎氏の連載「3.11以後の科学リテラシー」より,第100回(2021年4月号)を特別公開します。こちら(pdfダウンロード)
 後半で宮崎早野論文について取り上げています。掲載誌には、宮崎早野論文に対して4本の批判論文が投稿されていました(その内容は、上掲「参考資料」欄の3つの英文レター論文として公開)。これらは査読をへて受理に準じた状態(著者(早野氏・宮崎氏)の応答を待つ出版準備状態)にありました(掲載誌は、批判論文と著者の応答を同時掲載する方針をとっていたため)。しかしながら、著者は応答をせず、時間が経過しました。掲載誌は、同意のないデータ使用で論文撤回となったことを理由に、批判論文を掲載しないという、学術議論のあり方の上で重大な問題を起こす対応をとっています。
(2021年4月5日追加)

 牧野淳一郎氏の連載「3.11以後の科学リテラシー」より,第25回(2014年11月号)を特別公開します。こちら(約1.1MBのpdfダウンロード)
 福島県の第13回甲状腺検査評価部会(2019年6月3日)では本格検査(検査2回目)についてまとめ(案)がだされました。このまとめ(案)では,UNSCEAR2013レポートにもとづく市町村別推計甲状腺吸収線量と甲状腺がん発生率との関係を主たる根拠としています。このUNSCEAR推計甲状腺吸収線量を用いる問題点を論じたのが,連載第25回記事です。なお,この内容を含む2014年末までの議論は,牧野淳一郎『被曝評価と科学的方法』として単行本化されています。
 連載の一覧表ページはこちら(htmlの別ページにリンク)
(2019年6月26日追加)

更新履歴


2019年3月7日公開
2019年3月22日更新
2019年6月26日更新
2019年7月23日更新
2020年3月12日更新/ページレイアウト変更(旧ページはこちら
2020年3月19日更新
2020年8月3日更新
2021年1月23日更新
2021年3月20日更新
2021年4月5日更新
2021年4月13日更新
2021年5月29日更新
2022年2月16日更新
2022年5月27日更新
2022年12月2日更新
2023年2月13日更新