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雑誌『科学』通信:2011/3/2 (No.19)
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    雑誌『科学』通信            2011/3/2 (No.19)

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※本メールは、過去にアンケート調査にご協力くださった方、『科学』をご注 文くださった方、編集部と通信のあった方にお送りしています。

 こんもりと丸く茂った梅の古木をながめて、春の訪れと、人の手が加えられ てきた年月を思いました。
 『科学』からの月に1度のお便り、第19便をお届けします。
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                      岩波書店『科学』編集部

≪ 目次  ≫
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 1 〔3月号特集〕ヒト‐細菌共生系の驚き

 2 〔3月号の記事より〕
         写真記・霧島山新燃岳の噴火
         若手研究者支援の国際比較と提言
         口蹄疫対策は科学的か

 3 〔新連載コラム〕分子で地球を読む

 4 〔日誌〕

 5 〔今後の企画〕

   〔後記〕原子力発電はなぜ“特別”なのか

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 1  〔3月号特集〕ヒト‐細菌共生系の驚き
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◎人は外界との接点である皮膚において、また、口から腸にいたる消化管や粘 膜において、おびただしい数(自分自身の細胞数以上とも)の細菌と“共生” しています。その“共生関係”のバランスは健康と密接な関係にあり、バラン スが崩れると病につながります。人と細菌は両者が合わさった大きなシステム を成している、という指摘もあります。

◎粘膜免疫は“免疫の新大陸”とよばれ、広大な研究領域が開かれようとして います。驚くべきことに、人の腸管の“取り込み細胞”の内部に、共生する細 菌が見出されています(小幡高士氏・清野宏氏)。

◎無菌で生まれる赤ちゃんは、環境からの影響のもと、それぞれに腸内細菌叢 を発達させます。その発達とアレルギーとの関係はどのようのものか、考えま す(中山二郎氏)。

◎“血を求める”歯周病菌の出すLPS(リポポリサッカライド)は、心血管系 を傷つけて全身の健康を損ないます。細菌の“栄養”と人の“栄養”の両者を みて、細菌叢のバランスをとることが全身の健康につながるという視点が求め られています(花田信弘氏)。

◎これらの観点は、大きなシステムを成す〈環〉となってつながっています。

◎年間の患者数1万人という小児科での大きな課題である川崎病。発見から四 十余年経ついまも、大きな謎があります。それぞれは大きな害をあたえない複 数の細菌種が“連携”することによって、この病が起きているのではないか。 抗菌剤の合剤が実際に効くという、注目の仮説です(永田智氏)。

◎“新大陸”たる腸管免疫系では、細菌と免疫制御細胞との関係が注目されま す。免疫系は細菌からの〈入力〉があって発達し(中山氏、小幡氏・清野氏)、 また、〈入力〉の変調は病につながります。意外なことに、細菌のだす“細胞 外ATP(アデノシン三リン酸)”が免疫制御細胞への信号となっていることが 最近わかりました(西村潤一氏・竹田潔氏)。

◎ヒト腸管の取り込み細胞に共生細菌が発見されましたが(小幡・清野氏)、 じつは牛で大きな問題となっているヨーネ菌は、腸管の同じ取り込み細胞から 体内に侵入します。日本では厳しくヨーネ菌検査が行われていますが、欧米で はあきらめられている状態。健康への影響はあるのか。最新の動物実験から警 鐘が鳴らされます(百渓英一氏)。

◎ストレスでお腹の具合が悪くなるのは誰しも経験がおありでしょう。一方、 腸から心への影響は? 腸内細菌叢を変化させたマウスでは、脳とストレス反 応系、さらに行動にまで、変化が生じます。“腸脳相関”はあらたな展開を予 感させます(須藤信行氏)。

◎皮膚は“最大の臓器”。そこで展開される細菌共生系は広大です。細菌と、 皮膚の健康=美容とは深いつながりがあります(勝山雅子氏)。

◎血液中で細菌がふえる敗血症はおそろしい。ところが、ある種のビフィズス 菌は血中に入っても免疫反応をおこさないようなのです。嫌気環境をこのむ菌 をがん攻撃につかえないか。興味深い研究が進行中です(谷口俊一郎氏)。

●こんな本もあります:
浅島誠,黒岩常祥,小原雄治編『ゲノム科学の展開』(現代生物科学入門第2 巻)

辨野義己『腸内環境学のすすめ』(岩波科学ライブラリー143)

藤田恒夫『腸は考える』(岩波新書新赤版191)

光岡知足『健康長寿のための食生活――腸内細菌と機能性食品』(アクティブ新書55)

傳田光洋『皮膚は考える』(岩波科学ライブラリー 112)

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 2  〔3月号の記事より〕
┗ ┛  写真記・霧島山新燃岳の噴火/
     若手研究者支援の国際比較と提言/
     口蹄疫対策は科学的か

◎新燃岳の300年ぶりの大きな噴火は長期化が予想されています。写真家の白尾 元理氏による迫力ある写真記です。

●こんな本もあります:
白尾元理[写真]/小疇尚,斎藤靖二[解説]『新版 日本列島の20億年 景観 50選』

◎各国は競って若手研究者支援に動いている――トップ人材をひきつける研究 助成プログラムの現在を国際的に比較し、日本では若手を「育てて自立させる」 安定した制度のないことを鋭く批判します。著者は元の文科省・国際統括官、 科学技術政策研究所所長、の永野博氏です。

◎昨年来、口蹄疫に鳥インフルエンザと家畜への打撃が続いています。ウイル ス学・ワクチン学の立場から、山内一也氏が口蹄疫対策の非科学性を批判しま す。

●こんな本もあります:
山内一也『どうする・どうなる口蹄疫』(岩波科学ライブラリー175)

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 3  〔新連載コラム〕分子で地球を読む
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◎大河内直彦氏(海洋研究開発機構)のグループでは、きわめて精度の高いア ミノ酸同位体分析装置を自作し、多方面への応用をはかろうとしています。新 連載コラムの初回では、生態系の食物連鎖への応用を紹介。従来法とことなり、 対象生物(それが化石であっても!)のみで食物連鎖上の位置を推定できる方 策を考案しました。この手法は、考古学や医学など、さまざまな方向へと発展 すると期待されます。
●大河内氏には、気候変動の歴史を分子でよみとく
大河内直彦『チェンジング・ブルー――気候変動の謎に迫る』 の著作もあります。

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 4  〔日誌〕
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◎2月10日:ゲノムELSIユニット公開シンポジウム「社会で築くゲノム科学の 未来」
 ゲノム科学の応用が進もうというなかで、個人の全ゲノム情報を、社会の営 みのなかにどう位置づけていくのか。ゲノム科学自体のあり方も問われていま す。こうしたテーマについて、活発に意見が交わされました。
 倫理審査委員会の現場は、慢性的な人手不足のようです。しかしそんな中で も武藤香織氏(東京大学医科学研究所)が、昔とちがい文系と理系の研究者が 一緒に仕事できている今の状況について、「大変ですけど、楽しいです」と話 しておられたのが印象的でした。

◎2月20日:首都大学東京『島嶼共生系学際研究環』ココヤシ公開セミナー
 ココヤシの品種の遺伝的固有性を維持するべく、互いの島々が地理的に離れ ている島嶼を利用する試みについて、フランス国際農業振興センターの R. Bourdeix博士が話されました。
 お話はココヤシの品種維持にとどまらず、伝統的なココヤシ利用から民話、 ココヤシの起源・伝播ルートなど、まさにココヤシ尽くしのセミナーでした。
 なお、ココヤシは女性を象徴するとのこと。理由は…想像してください。

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 5  〔今後の企画〕
┗ ┛ ◎4月号:私たちのブラックホール
 ブラックホールはごく限られた例外的な存在というよりも、“星の数”ほど 多数存在するもののようです。ブラックホールをめぐる新たな展開から、私た ちの銀河系を捉え直します。

◎5月号:有明海(仮)
 諫早湾の潮受堤防が開門されることになりました。この機会に、長年の継続 調査から見えてきた海の〈変化〉をまとめます。

◎6月号:ブータン:〈環境〉から〈幸福〉を生み出す知恵(仮)
 ブータンは環境保護政策や国民総幸福の概念の提唱で知られています。ブー タンの自然環境と、その中で暮らす人々の知恵に科学の眼で迫ります。

                ○●○

〔後記〕原子力発電はなぜ“特別”なのか

 2月21日に原子力委員会・新政策大綱策定会議を傍聴しました。
 あまりにひどい。各論以前の問題です。会議の録画、つづいて議事録が速やか に公開されることについては、評価すべきと思いますが、中身が問題です。
 この会議に限りませんが、行政の各種会議には、利害関係者が当然のように参 加します。外国の行政官にいわせれば、“スキャンダル”ものの現状。公益を追 求する会議では、広く国民の利益こそ第一に置かれるべきです。
 当日は「中間取りまとめ」案が出されていましたが、議長に近い立場の委員 (複数)からさえ、「議論していないことが盛り込まれているのはいかがなもの か」といった発言がありました(それに対する「説明」はありましたが、不信感 を十分に感じさせる進め方です)。一方で、耳の痛い意見は聞き置くばかりのよ うです。
 コストを含めた冷静な総合評価が今こそ求められます。
雑誌『世界』1月号 および核燃料サイクルと再処理については本誌・昨年2月号「プルトニウムの科学」が参考になるかと思います。
 どのような〈問題〉〈事故〉〈事件〉があってもプルトニウムを求める、とい うのが政府の考えのようですが、この背景には、ウィキリークスに端を発して明 らかになった、政府内の核武装論とのつながりが想起されてなりません。最近刊 行された吉岡斉氏のブックレット『原発と日本の未来』(岩波ブックレット802) では、非合理な政策は、軍事機微物質たるプルトニウムの保持を理由に考えなけ れば説明がつかないと論じています。
 “国益”を論じることに有効性があるとしても、それは冷静な比較考量にもと づかねばならないのではないでしょうか。それは広い意味での安全保障について も、同様に(むしろ一層深く)分析されるべきでしょう。
 一方で、「もんじゅ」の燃料環境課長(トラブルのあった炉内装置の現場担当) が2月中旬に自殺されたとの報道があり、上関原発予定地では中国電力による埋 め立て作業が強行されています。
http://ameblo.jp/nijinokayaker/entry-10813244217.html
 無理が現場にかかる圧力となっているのではないかと思われてなりません。
 なお、上関原発予定地の生態系の貴重さについては、3月号書評欄をご参照ください。 (Ta)







 
 
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