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脳力のレッスンII
脱9.11への視座
ユーラシアの新潮流の中で,日本の立ち位置を確認し,航海のヒントを送る.
「戦後レジームからの脱却」が腰砕けになっている間に,世界では脱9.11を見据えたユーラシア・ダイナミズムの新たな潮流が始まっている.新たな船出の時を迎えるいま,政界からも財界からも,発言の確かさで最も注目を集める著者が,日本の立ち位置を確認し,航海のヒントを送る.『世界』に連載中の好評エッセイ第2弾!
■著者からのメッセージ
寺島実郎
「全体知」を求めること
さて,岩波の雑誌『世界』での「脳力のレッスン」の連載も5年半となった.物事の本質を考え抜く力としての脳力を鍛え,今我々が生きる時代についての認識を深めようとする試行錯誤は続いている.そして,『脳力のレッスンII』として本連載2冊目の単行本化するに際して,最後に「空海」を語ろうとしたのも,この人物が漂わせる「全体知」,つまり時代と正面から向き合う壮大な「統合された知性」に大いに啓発されたためである.
英語に先述の“INTEGRITY”という言葉があり,辞書では「完全,誠実,高潔」などと訳されるが,本来的な意味は「各要素・部分をまとめて統合・構成すること」から派生したもので,断片的,個別的な知性ではなく,外に広く内に深い視座を持つ「全体知」に焦点を当てた言葉といえよう.
おそらくこの「全体知」こそ,鈴木大拙が「東洋的考え方」として論及していたものと通じる点であろう.主と客を分別し,対置概念の中で形成される分割的知性によって科学技術や産業を発展させてきた「西洋的考え方」とは対照的に,人間世界総体をあるがままに受け止め「主客未分化の全体知」を生きることを大拙は「東洋的考え方」の特徴とした.論理万能の分割的知性ではなく,円融自在,観自在の視座から時代に向き合うこと,このことの意味は大きい.
大きく視界をとって,しかも深く息を吸い込み,様々な事象の相関の中で思索し,問題の本質を見抜いて解答を収斂させるという「全体知」が求められている.そして今,日本に最も欠けているのがこの「全体知」ではないだろうか.専門化という流れの中で分断された知性が跋扈し全体観を見失ったままの国の在り方に関する議論,省益あって国益無しの政策論,「米国を通じてしか世界を見ない」という枠組みに固まった国際関係,すべて全体知を求める意思の欠落としか思えない.人間世界を見渡し,遥か宇宙の彼方に目線を向けるかのごとき空海の知の雄大な構えに自らの至らなさを思い知らされつつも,脳力を集中してなすべきことの片鱗が見えてきたような気がする.
2007年 晩秋の箱根山の書斎にて
■著者からのメッセージ
寺島実郎
「全体知」を求めること
さて,岩波の雑誌『世界』での「脳力のレッスン」の連載も5年半となった.物事の本質を考え抜く力としての脳力を鍛え,今我々が生きる時代についての認識を深めようとする試行錯誤は続いている.そして,『脳力のレッスンII』として本連載2冊目の単行本化するに際して,最後に「空海」を語ろうとしたのも,この人物が漂わせる「全体知」,つまり時代と正面から向き合う壮大な「統合された知性」に大いに啓発されたためである.
英語に先述の“INTEGRITY”という言葉があり,辞書では「完全,誠実,高潔」などと訳されるが,本来的な意味は「各要素・部分をまとめて統合・構成すること」から派生したもので,断片的,個別的な知性ではなく,外に広く内に深い視座を持つ「全体知」に焦点を当てた言葉といえよう.
おそらくこの「全体知」こそ,鈴木大拙が「東洋的考え方」として論及していたものと通じる点であろう.主と客を分別し,対置概念の中で形成される分割的知性によって科学技術や産業を発展させてきた「西洋的考え方」とは対照的に,人間世界総体をあるがままに受け止め「主客未分化の全体知」を生きることを大拙は「東洋的考え方」の特徴とした.論理万能の分割的知性ではなく,円融自在,観自在の視座から時代に向き合うこと,このことの意味は大きい.
大きく視界をとって,しかも深く息を吸い込み,様々な事象の相関の中で思索し,問題の本質を見抜いて解答を収斂させるという「全体知」が求められている.そして今,日本に最も欠けているのがこの「全体知」ではないだろうか.専門化という流れの中で分断された知性が跋扈し全体観を見失ったままの国の在り方に関する議論,省益あって国益無しの政策論,「米国を通じてしか世界を見ない」という枠組みに固まった国際関係,すべて全体知を求める意思の欠落としか思えない.人間世界を見渡し,遥か宇宙の彼方に目線を向けるかのごとき空海の知の雄大な構えに自らの至らなさを思い知らされつつも,脳力を集中してなすべきことの片鱗が見えてきたような気がする.
2007年 晩秋の箱根山の書斎にて
はじめに――時代に並走するということ
I 脱9.11の世界への視界――時代の空気に向き合う
脱9.11の時代に向けて
ベルサイユ講和会議が今日に示唆するもの
1 集団的自衛権の陥穽
2 時代の空気の作られ方
3 吉野作造という存在
21世紀外交の創造的選択
II 現代資本主義の死角
驕る資本主義の陥穽――M.ウェーバーの予言
あらためて渋沢栄一を思う――日本の資本主義を考える視点
石油価格高騰の怪――エネルギー市場のカジノ化
健全な産業構造・産業観の再生を
『2001年宇宙の旅』とIT革命
III ユーラシアの新潮流
欧州で考えたこと――欧州と中国,そしてスイス
デンマークという国
「大ロシア主義」 へ回帰するロシア
極東ロシアというブラックボックス
中国を脅威とする前に――試される日本の胆力
イ ン ド――ユーラシア・パワーゲームの中心に躍り出たしたたかさ
重みを増したイスラム要素――「9.11」 から5年目の夏の実感
バーチャル国家シンガポール――21世紀型先進国家として
IV 迷走するアメリカ
ブッシュ再選と世界の運命
イラク戦争から3年目のアメリカ――歪んだ繁栄の内実
ジョン・カーボーが死んだ
新たなる危機――イラン攻撃の可能性
V 小泉・安倍時代の日本との並走
小泉外交の晩鐘――政治的現実主義の虚妄
日本の姿を映し出すICC問題
世紀を超えた日本の孤独
戦後60年の夏の意味――戦艦ミズーリにて
都市サラリーマンが小泉自民党を選んだ理由
団塊の世代の正念場
軽率に「核保有」を議論してはいけない理由
今ここにある格差社会の性格――進行した分配革命
何故,自民党は大敗したのか――2007年夏,見えてきたもの
VI 歴史に胆力を学ぶ
指導者と意思決定責任
山川健次郎と柴五郎――明治の会津人の放つ光
山本五十六は肉眼で真珠湾を見たのか
マルクスのインタビュー
『東方見聞録』『ガリヴァー旅行記』,そして日本のイメージ
おわりに代えて――現代に生きる空海
初出一覧
I 脱9.11の世界への視界――時代の空気に向き合う
脱9.11の時代に向けて
ベルサイユ講和会議が今日に示唆するもの
1 集団的自衛権の陥穽
2 時代の空気の作られ方
3 吉野作造という存在
21世紀外交の創造的選択
II 現代資本主義の死角
驕る資本主義の陥穽――M.ウェーバーの予言
あらためて渋沢栄一を思う――日本の資本主義を考える視点
石油価格高騰の怪――エネルギー市場のカジノ化
健全な産業構造・産業観の再生を
『2001年宇宙の旅』とIT革命
III ユーラシアの新潮流
欧州で考えたこと――欧州と中国,そしてスイス
デンマークという国
「大ロシア主義」 へ回帰するロシア
極東ロシアというブラックボックス
中国を脅威とする前に――試される日本の胆力
イ ン ド――ユーラシア・パワーゲームの中心に躍り出たしたたかさ
重みを増したイスラム要素――「9.11」 から5年目の夏の実感
バーチャル国家シンガポール――21世紀型先進国家として
IV 迷走するアメリカ
ブッシュ再選と世界の運命
イラク戦争から3年目のアメリカ――歪んだ繁栄の内実
ジョン・カーボーが死んだ
新たなる危機――イラン攻撃の可能性
V 小泉・安倍時代の日本との並走
小泉外交の晩鐘――政治的現実主義の虚妄
日本の姿を映し出すICC問題
世紀を超えた日本の孤独
戦後60年の夏の意味――戦艦ミズーリにて
都市サラリーマンが小泉自民党を選んだ理由
団塊の世代の正念場
軽率に「核保有」を議論してはいけない理由
今ここにある格差社会の性格――進行した分配革命
何故,自民党は大敗したのか――2007年夏,見えてきたもの
VI 歴史に胆力を学ぶ
指導者と意思決定責任
山川健次郎と柴五郎――明治の会津人の放つ光
山本五十六は肉眼で真珠湾を見たのか
マルクスのインタビュー
『東方見聞録』『ガリヴァー旅行記』,そして日本のイメージ
おわりに代えて――現代に生きる空海
初出一覧
寺島実郎(てらしま じつろう)
1947年,北海道生まれ.早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了.株式会社三井物産入社.調査部,業務部を経てブルッキングス研究所(在ワシントンDC)に出向.その後,米国三井物産ワシントン事務所長等を経て,現在,財団法人日本総合研究所会長,三井物産戦略研究所所長.
著書に『地球儀を手に考えるアメリカ』(東洋経済新報社),『ふたつのFORTUNE』(ダイヤモンド社),『新経済主義宣言』(新潮社),『ワシントン戦略読本』(新潮社),『国家の論理と企業の論理』(中公新書),『団塊の世代 わが責任と使命』(PHP研究所),『「正義の経済学」ふたたび』(日本経済新聞社),『寺島実郎の発言――時代の深層底流を読む』(東洋経済新報社),『脅威のアメリカ 希望のアメリカ――この国とどう向きあうか』(岩波書店),『われら戦後世代の「坂の上の雲」――ある団塊人の思考の軌跡』(PHP新書),『20世紀から何を学ぶか――900年への旅 上下』(新潮選書)などがある.
1947年,北海道生まれ.早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了.株式会社三井物産入社.調査部,業務部を経てブルッキングス研究所(在ワシントンDC)に出向.その後,米国三井物産ワシントン事務所長等を経て,現在,財団法人日本総合研究所会長,三井物産戦略研究所所長.
著書に『地球儀を手に考えるアメリカ』(東洋経済新報社),『ふたつのFORTUNE』(ダイヤモンド社),『新経済主義宣言』(新潮社),『ワシントン戦略読本』(新潮社),『国家の論理と企業の論理』(中公新書),『団塊の世代 わが責任と使命』(PHP研究所),『「正義の経済学」ふたたび』(日本経済新聞社),『寺島実郎の発言――時代の深層底流を読む』(東洋経済新報社),『脅威のアメリカ 希望のアメリカ――この国とどう向きあうか』(岩波書店),『われら戦後世代の「坂の上の雲」――ある団塊人の思考の軌跡』(PHP新書),『20世紀から何を学ぶか――900年への旅 上下』(新潮選書)などがある.