折り返し点

1997~2008

『もののけ姫』から『崖の上のポニョ』まで12年にわたる,宮崎駿監督の思想の全軌跡.カラー口絵8頁.

折り返し点
著者 宮崎 駿
ジャンル 書籍 > 単行本 > 評論・エッセイ
刊行日 2008/07/16
ISBN 9784000223942
Cコード 0095
体裁 四六 ・ 上製 ・ カバー ・ 518頁
定価 2,970円
在庫 在庫あり
1997年『もののけ姫』から2008年『崖の上のポニョ』まで12年にわたる,宮崎駿監督の思想の軌跡.企画書,エッセイ,インタビュー,対談,講演など,単行本未収録のものを一挙収録.この12年間の記録は時代をうつす鏡そのもの──宮崎アニメのファンならずとも必見です.カラー口絵8ページ,監督直筆の手紙・イラストも収録.


■著者からのメッセージ
 「『もののけ姫』から,もう10年以上,たったんだなぁ」
 この本に収録された原稿を,いま改めて見て,そう思いました.けれど,実はそんなに時間がたったという実感がないんです.
 一つの映画ができるまでには,2年,3年という時間をかけて作っていきますが,そのあいだに世のなかは激しく移り変わっています.しかしこちらは2年なら2年,3年なら3年のあいだ,ひたすら「時間がない,時間がない」と追いつめられながらやっているので,「あぁ,もう2年もたったのか」という感じで,そんなに時間が過ぎたという意識がありません.2年かけようが3年かけようが,2時間の映画になってしまえば,それは2時間しか生きたことにならない,2時間分しか自分の記憶には残らないんです.それなのに,年だけはしっかりとっているという,浦島太郎の感覚です.
 これまでに監督した長編映画は『崖の上のポニョ』でちょうど10本になりますが,昔にくらべると近頃は,ずっと長い時間をかけて1本の映画を作れるようになりましたから,なおさら人生が短くなってきた感じがします.本当にそうなんです.(中略)
 この10年あまりを振り返ってみると,映画を作る以外にも,三鷹の森ジブリ美術館を作り,今年の4月には社内保育園「3匹の熊の家」をスタートしました.
「保育園をつくりたい」と思ったのは,きれいごとではなくて,子供たちによってこちらが助けられるからです.子供たちを見ていて感じることは,やっぱり希望なんです.「年寄りは,ちいさな子供を見ていると,幸せな気持ちになるんだ」ということがよくわかりました.これはとても大きいことです.「文明の末路」とか,「大量消費文明の没落」とか,「地殻変動期に入った地球に住む運命」とか,悲観的なことをいろいろ論じてみても,「じゃあ,どうしたらいいんだ」というと,答えは出てきません.
 毎日,単調な生活を送っているようでも,体験というのは,本当は人生に一回かぎりです.それを自分の生活のなかでみいだすのは,ものすごくむずかしい.ところが,子供たちを見ていると,子供たちにとっては毎日が初めてのことばかりです.その子にとっては大変なできごとの連続ですから,その劇的なシーンに立ち会えるというのは,すごくうれしいことです.
 子供が成長してどうなるかといえば,ただのつまらない大人になるだけです.大人になってもたいていは,栄光もなければ,ハッピーエンドもない,悲劇すらあいまいな人生があるだけです.
 だけど,子供はいつも希望です.挫折していく,希望の塊なんです.答えは,それしかないですね.
 人類の長い歴史のなかで,そういうことが繰り返し,繰り返し,感じられてきたんだなぁと思うんです.そういうふうにできているんですね,世界は.自分たちが作り出しているのではなくて,そのサイクルのなかに自分たちもちゃんと入っているんです.だから,なんだかんだと言いながらも,なかなか滅びないんだと思います.
(本書「あとがきにかえて」より抜粋)
宮崎駿の描き下ろし スタジオジブリ年賀状 1997~2008

■『もののけ姫』(1997)
荒ぶる神々と人間の戦い――この映画のねらい
詩『もののけ姫』『アシタカ記』『失われた民』『タタリ神』『犬神モロの君』『エボシ御前』『コダマ達』『ヤックル』『シシ神の森』
森の持つ根源的な力は人間の心の中にも生きている 『もののけ姫』の演出を語る
自然界に生きるものは,みんな同じ価値を持っている
凶暴で残忍な部分がないと野生を描くことにならない 佐藤忠男氏との対談
『もののけ姫』と中世の魅力 網野善彦氏との対談
日本のアニメーション文化について
大人の1年間にあたる子どもの5分間がある 私の一冊『たからさがし』
観客との空白を埋めたい
ベルリン国際映画祭 海外の記者が宮崎駿監督に問う,『もののけ姫』への44の質問
アニメーションとアニミズム 「森」の生命思想 梅原猛・網野善彦・坂制立各氏との座談会
青春の日々をふりかえって
アニメーション演出講座 東小金井村塾II開校 ひとり位は芽を出せ! 若手演出志望者に語る“演出論”
人・町・国土が元気になるために 中村良夫氏との対談
子供達が幸せな時代を持てるよう,大人は何を語るべきか
子どもにいちばん大事なもの
空のいけにえ
サン=テグジュペリの飛んだ空
『もののけ姫』にやどる日本の伝統的な美意識 ロジャー・イーバート氏によるインタビュー
お別れの言葉

■『千と千尋の神隠し』(2001)
不思議の町の千尋――この映画のねらい
『千と千尋の神隠しイメージアルバム』のためのメモ
自由になれる空間 『千と千尋の神隠し』を語る 完成報告記者会見にて
だいじょうぶ,あなたはちゃんとやっていける――.そう子供たちに伝えたい
「寂しい男」を受け止める心 歌手・加藤登紀子さん
しんどいけれどこんなに面白い時代はない 筑紫哲也氏との対談
万物生命教の世界,再び 山折哲雄氏との対談
さあ,これからどこへ行くのか キネマ旬報ベスト・テン 読者選出日本映画監督賞 受賞者インタビュー
こんな美術館にしたい
子どもたちには「想像」を超えた未来がある
子どもたちの喜ぶ姿を見るのが一番うれしい
一人ひとり,できるところから
全生園(ぜんしょうえん)の灯
映画『ダーク・ブルー』をめぐって 鈴木敏夫プロデューサーとの対談
第75回アカデミー賞長編アニメーション映画部門 受賞コメント
富士見高原はおもしろい 藤内遺跡出土品重要文化財指定記念展「甦る高原の縄文王国」講演
堀田善衞 3作品の復刊によせて
2頁でいいから描け

■『ハウルの動く城』(2004)
ジブリのみなさんへ
「生まれてきてよかった」と言える映画を作りたい 第62回べネチア国際映画祭 記者懇談会にて
自分が本当に面白いと思えるかどうか 第18回東京国際映画祭 ニック・パーク監督との公開対談
ある短編映画の試み 2005年度国際交流基金賞 受賞のことば
魂にとって何が大切か 2005年度国際交流基金賞 受賞のスピーチ原稿
ロバート・ウェストール『ブラッカムの爆撃機』雑想ガイド付き本 企画書
ぼくは,ウェストールがすきだ
過酷な現実に歯向かって,勇気をもって生きる人
三鷹の森ジブリ美術館 映像展示室「土星座」オリジナル短編アニメーション『水グモもんもん』企画書
ジブリの森のえいが『水グモもんもん』ごあいさつ
『星をかった日』企画書
ジブリの森のえいが『星をかった日』ごあいさつ
『やどさがし』企画書
ジブリの森のえいが『やどさがし』ごあいさつ
『水グモもんもん』『星をかった日』『やどさがし』の上映にあたって ジブリ美術館スタッフへのあいさつ
虫の世界・樹の世界・人の世界 養老孟司氏との対談
子供の未来に責任 生半可な作品作れぬ
失われた風景の記憶 吉野源三郎著『君たちはどう生きるか』をめぐって
お別れの言葉
3匹の熊の家
白蟻の塚から 前書きにかえて
「アニメーションがやるに値する仕事だ」と思わせてくれた作品『雪の女王』

■『崖の上のポニョ』(2008)
『崖の上のポニョ』について
久石譲さんへの音楽メモ

年譜
あとがきにかえて

※基本的には時系列に並べていますが,一部,内容的なつながりを優先して,時間の前後するところがあります.
宮崎 駿(みやざき はやお)
アニメーション映画監督.1941年,東京生まれ.学習院大学政治経済学部卒業.監督作品に「ルパン三世 カリオストロの城」(1979),「風の谷のナウシカ」(1984),「天空の城ラピュタ」(1986),「となりのトトロ」(1988),「魔女の宅急便」(1989),「紅の豚」(1992),「もののけ姫」(1997),「千と千尋の神隠し」(2001,第52回ベルリン国際映画祭・金熊賞,第75回アカデミー賞・長編アニメーション映画部門賞受賞),「ハウルの動く城」(2004,第61回ベネチア国際映画祭・オゼッラ賞受賞)がある.2008年7月現在,劇場用アニメーションの最新作「崖の上のポニョ」が公開中.

書評情報

東京新聞(朝刊) 2013年10月6日
毎日新聞(朝刊) 2013年9月7日
電通報 2008年12月1日号
北海道新聞(朝刊) 2008年9月14日
西日本新聞(朝刊) 2008年9月14日
読売新聞(朝刊) 2008年9月7日
しんぶん赤旗 2008年9月7日
週刊読書人 2008年9月5日号
ダ・ヴィンチ 2008年9月号
東京新聞(朝刊) 2008年8月31日
信濃毎日新聞(朝刊) 2008年8月31日
神戸新聞(朝刊) 2008年8月24日
山陽新聞(朝刊) 2008年8月24日
沖縄タイムス(朝刊) 2008年8月16日
福島民報 2008年8月16日
週刊朝日 2008年8月15日
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