子ども被害者学のすすめ

いじめ,ネグレクト,虐待.子どもの被害はどこに集中し,誰が狙われるのか.第一人者の研究・実践報告.

子ども被害者学のすすめ
著者 デイビッド・フィンケルホー 編著 , 森田 ゆり , 金田 ユリ子 , 定政 由里子 , 森 年恵
ジャンル 書籍 > 単行本 > 社会
刊行日 2010/11/02
ISBN 9784000229050
Cコード 0036
体裁 四六 ・ 上製 ・ 254頁
在庫 品切れ
一刻も早く「誰が加害者か」よりも「誰が被害者か,誰に目を配る必要があるのか」に目を向けなければならない.ネグレクトやいじめ,暴力などの被害から,子どもたちをいかに守り,サポートするか.社会的な脆弱性はどこにしわ寄せされるのか.世界的第一人者,フィンケルホー氏が伝える,アメリカの実践と研究の集大成.

■著者からのメッセージ

本書の中心的論点は,今まで私たちが大きな視野を持てずにいた,との指摘にある.私たちは,子どもの被害に関して性的虐待,いじめ,ドメスティック・バイオレンス環境といった特定の脅威に焦点化しすぎてきた.そのために,本来は共通の問題意識を持つ実践家や研究者たちなのに,自分の関わる個別事象に社会的な注目を集めようと互いに競争をひき起こしてきた.
 この断片化によって,不幸にも見落とされてしまっていることがある.

子どもの被害の深刻さと複雑性がどれほどなのか認識がされてこなかった.
組織的で,かつ理論的に有用な問題の概念化が困難になっている.
その場限りの不適切な施策と対応システムを生んできた.


 本書ではこれらの問題を総合的な視点をもって見ることが,どのような利点をもたらすかを明らかにする.
――本書「序」より

■編集部からのメッセージ

日本においても,子どもへの虐待,ネグレクトの報道はあとを絶ちません.本書は,90年代に子どもの被害について大きな改善をみたアメリカでの事例を,この分野の世界的第一人者が報告したものです.子どもの被害が問題化されにくいのは当事者たる子どもの声が,社会的に重要視されにくいから,さらに,いまだ「加害は見知らぬ他者によって引き起こされる」という幻想が浸透しているから,など,日本においても参考にできる分析ばかりです.
 注目されるのは,多重被害という概念です.いじめに遭う子は,それ以前に家庭内で暴力を受けている可能性が高い.あるいは,いじめを受ける段階において,自尊感情が傷付けられる経験をすでに経ている可能性が高い.あるいはいじめを受けた子は,次には,性的虐待を受ける可能性が高くなる――.そのような傾向がみられる,という調査結果が報告されています.また,強盗誘拐などの強烈な被害に焦点があたりがちですが,深刻なのは,被害が常態化している――被害が事件ではなく状態となっている――状況を生きている子どもたちである,と分析しています.
 そんな深刻な状況下において,必死に生き抜く子どもたちが学業に集中できる環境にないのは当然のこと.そして社会的にも自らを尊重されるものと思えないまま,非行に手を染めることにもなり,将来に多大なる影響を及ぼすことにもつながっていきます.その後の更生・矯正や社会的不安要因を考えるうえでも,子どもを守ることへの社会的責任は重いと言えるでしょう.
 日本においても,子どもの環境を包括的に考える一助となる本です.
序 デイビッド・フィンケルホー
1章 子どもの被害
「子どもは最も被害に遭っている」についての論争
新しいタイプの犯罪
なぜ子どもは被害に遭いやすいのか
なぜ子どもが暴力に遭いやすいことは広く認識されてこなかったのか
非行とは被害の結果の一部なのだろうか
子どもの被害はときには強調される
トピックが細かく分化している問題
新しいホーリスティックなアプローチ――子ども被害者学
2章 発達被害者学
  定義と分類の問題
子どもの被害の広がり
発達的前提のいくつか
調査の必要性
3章 危険に曝される子ども
  何が子どもを危険に曝すのか
多重被害への道すじ
「ライフスタイル」理論と「日々くり返される行動理論」
暴力被害について考えるための新しい概念的枠組み
総合的力動モデル
4章 発達上の影響
  子ども時代のトラウマという分野
被害の衝撃的作用に関するさらに一般的なモデルを目指して
発達次元モデル
被害評価における発達的要因
発達課題と被害
対処方法と被害
環境の緩衝作用と被害
被害の破壊的作用のタイプ
将来の方向性
5章 朗報 子どもの被害は減っている――だが,なぜ?
  実際に改善しているのか
幅広くさまざまな減少
犯罪率減少の説明因子
未成年者の被害減少を説明する可能性があるその他の因子
本章で積み残した課題
政策への影響

 訳者あとがき 森田ゆり
 参考文献
デイビッド・フィンケルホー(David Finkelhor)
ニューハンプシャー大学教授.1970年以降,一貫して子どもや女性の被害の統計調査研究を続けてきた.2008年には香港で開催された国際子ども虐待防止協会の第17回世界大会で「アメリカでの子ども虐待の大幅な減少とその理由」を基調講演し,注目を集める.
《訳者》
森田ゆり(もりた ゆり/序・1章担当,監修担当,訳者あとがき執筆)
エンパワメント・センター主宰.立命館大学客員教授.80年代初頭より日米で子ども・女性への暴力防止専門職の養成に携わる.90年代はカリフォルニア大学で主任アナリストを務める.88年に朝日ジャーナル・ノンフィクション大賞,98年に産経児童出版文化賞,2005年に保健文化賞をそれぞれ受賞.著書に『子どもへの性的虐待』,『多様性トレーニングガイド』ほか多数.

http://www.geocities.jp/empowerment9center/
金田ユリ子(かねだ ゆりこ/2・5章担当)
1965年生まれ.88年東京都立大学人文学部卒業.武蔵野大学心理臨床センター研究員.共訳に『二次的外傷性ストレス』.
定政由里子(さだまさ ゆりこ/3章担当)
臨床心理士,甲南大学人間科学研究所リサーチアシスタント.共訳に「心霊術に何が隠れているのか?――S・フロイトと狼男セルゲイ・パンケイエフの間で」『みすず』など.
森 年恵(もり としえ/4章担当)
ブリストル大学大学院で女性学,レディング大学大学院で映画学の修士号取得.甲南大学文学部非常勤講師.共著に『トラウマ映画の心理学』,共訳に『ナラティヴ・エクスポージャー・セラピー』など.

書評情報

毎日新聞(朝刊) 2010年12月12日
毎日新聞(朝刊) 2010年12月5日
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