誰がネロとパトラッシュを殺すのか

日本人が知らないフランダースの犬

あの名作に感動するのは日本人だけ? 本国ベルギーでは無名? アメリカ映画ではハッピーエンド?

誰がネロとパトラッシュを殺すのか
著者 アン・ヴァン・ディーンデレン 編著 , ディディエ・ヴォルカールト 編著 , 塩﨑 香織
ジャンル 書籍 > 単行本 > 文学・文学論
刊行日 2015/12/10
ISBN 9784000610858
Cコード 0098
体裁 四六 ・ 並製 ・ カバー ・ 230頁
在庫 品切れ
あの名作に感動するのは日本人だけ? 本国ベルギーではほとんど無名? アメリカ映画ではネロもパトラッシュも死なずにハッピーエンド? 原作を書いたイギリス人女性作家の数奇な運命とは? 大聖堂で涙を流す大勢の日本人に驚いたフランダース人が,原作と日米の映像作品から「涙の名作」の虚構と現実に迫る.

「日本語版まえがき」より

『フランダースの犬』(A dog of Flanders)は,イギリスの作家ウィーダが19世紀に書いた短編小説である.ベルギーの北半分を占めるフランダース地方についての出版物としては,最も有名なものだ.わずか65ページの作品だが,1872年の初版以来,これをベースにフランダースを表現した画像や映像が,世界各地でいくつも生み出されてきた.
フランダースとその地に暮らす人々を描いたこの小説に,当の「フランダース人」は一切口を出していない.不思議なことに,ここからフランダース地方に関するかなり偏ったイメージが生まれ,しかもそのイメージは,何百万人という外国人の間で有名になっている.つまり,『フランダースの犬』は,紛れもなくフランダース地方最大の輸出コンテンツなのだ.
こうしたフランダースのイメージは,私たちフランダース人が知らないうちに世界を巡り,各地の好みや興味に応じて脚色される.というのも――これが奇妙なところだが――フランダースでは,この小説はほとんど無名だからだ.フランダース(を含むベルギー)で,ウィーダは課題図書の作家ではないし,ネロとパトラッシュも歴史の遺産とはみなされていない.そればかりか,『フランダースの犬』が海の向こうで何年もかけてたどってきた印象的な足跡のことを,フランダース人はまったく知らない.本書の始まりは,この対比にある.
口絵
日本語版まえがき
地図・凡例

第1章 悲劇を描いたウィーダの悲劇
第2章 ハッピーエンドに変えるアメリカ人
第3章 アニメに涙する日本人
第4章 ネロとパトラッシュはどこにいる?――プロダクトとしての『フランダースの犬』
第5章 悲しい結末を愛する日本人――パッチワークとしての『フランダースの犬』

解説 野坂悦子
『フランダースの犬』 関連年表

出典一覧
引用文献
アン・ヴァン・ディーンデレン
An van. Dienderen/映画監督.シント・ルーカス・インスティテュート(ブリュッセル)オーディオビジュアルアーツ専攻科卒業.ゲント大学比較文化研究科博士課程修了.元カリフォルニア大学バークレー校研究員.視覚人類学/パフォーマティブ・アントロポロジーに関する論考の発表を続ける一方,ゲント大学美術学部の講師を務める.また,ドキュメンタリー,人類学,ビジュアルアーツが重なる領域における作品制作を支援する場であるSoundImageCultureの発起人でもある.

ディディエ・ヴォルカールト
Didier Volckaert/1971年,ベルギー生まれ.日本のアニメとオタク文化の研究で博士号取得.キャプテンハーロック,グレンダイザー,ガッチャマンなどを見て育つ.『新世紀エヴァンゲリオン』のおもちゃについてはかなり大きなコレクションを所有.生まれ育った街ゲントとパリ,中野ブロードウェイを行き来して暮らしている.

塩﨑香織(しおざき かおり)
オランダ語を中心とした翻訳・通訳者.国際基督教大学卒業.1997年よりオランダ在住.訳書に『ヴァギナの文化史』(作品社),『ウイルス! 細菌! カビ! 原虫!――微生物のことがよくわかる「20」の話』(共訳;くもん出版)ほか.また,『いま,世界で読まれている105冊2013』(テン・ブックス)などにも寄稿.

書評情報

日本経済新聞(朝刊) 2019年3月9日(評者:井上章一さん)
WEBRONZA 2016年1月22日掲載
日本経済新聞(夕刊) 2016年1月21日
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