こぼればなし(2018年5月号)

こぼればなし


 二月号の本欄でもご紹介しましたが、『君たちはどう生きるか』が多くの方々に迎えられています。本号では、八〇年もまえに刊行された書物が二一世紀を迎えたいま、ベストセラーとなっていることをどう捉えるか、ご自身もその愛読者である梨木香歩さんにご寄稿いただきました。一読三嘆、時を超えて読み継がれる書物のもつ意味、その力にあらためて思い至る次第です。

 『君たちはどう生きるか』ほどではありませんが、いまネット上で話題となり熱いまなざしをあびている一冊の岩波文庫を紹介しましょう。平田篤胤「仙境異聞」(『仙境異聞・勝五郎再生記聞』所収)がそれです。

 「仙境異聞」は、幼い頃に天狗に連れ去られ、そのもとで生活、修行していたという天狗小僧寅吉が、その異界についての様々な質問に応えた話を記録した、江戸時代後期の証言録です。それがいま衆目を集めるきっかけとなったのは、ツイッター。江戸時代に天狗にさらわれて帰ってきた子供の話をまとめた本がおもしろい、というある方のつぶやきからリツイートが広がってゆきました。

 その段階では小社に在庫がなかったということもあって、Amazonの中古価格が一時六万三〇〇〇円まで高騰。それも話題に拍車をかけてしまったようです。

 しかし、ネット上でいくら盛り上がってはいても、はたしてリアル書店での反応に結びつくだろうか? と、のんびり構えているうちに、ネットでの問い合わせだけでなく、書店からも連絡がいくつか入り始め、背中を押されて重版を再開。Amazonでもベストセラー一位を獲った本書は、小社販売部員の手による天狗のイラストと「緊急重版 twitterで話題沸騰〓 天狗にさらわれた子どもの証言〓」のコピーが躍る帯がついて、いま店頭を賑わしています。

 こうした出来事に接すると、ネットの発信力、伝播してゆく力をあらためて感じます。読者のみなさんに情報を発信していくうえで、その力をどのように活かしてゆくか、また書籍との関係のなかでどう位置づけてゆくかということも、これからの出版社の大きな課題でしょう。その試みのひとつをご紹介します。

 三月八日からWEBマガジン『web岩波 たねをまく』が始まりました。このタイトルはもちろん、小社のシンボルマークであるミレーの「種をまく人」から。これまでHPで展開していたWEB連載もこちらに引っ越しして、読みやすくなりました。これから出る注目本の紹介や話題のテーマなどをお伝えする特集、トークイベントや講演会をテキストで掲載するイベントレポートやインタビューのほか、コラムなどもご用意しました。もちろん本誌の紹介コーナーもございます。まさに「読むためのポータルサイト」ということでしょう。

 アナログな紙媒体ではむずかしいことでも、デジタルなweb媒体なら可能なことは多くあります。今後は双方が連携する、新たな試みが生まれてくるかもしれません。どうぞご注目ください。

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