読む人・書く人・作る人(2018年7月号)

小尻記者の墓前に本を届ける

樋田 毅


 自分の記者人生をかけた仕事を記録として残したい。ずっと考え続けてきた,重い課題だった。『記者襲撃 赤報隊事件30年目の真実』。この本は,誰よりも故小尻知博記者と,亡くなられたご両親に届けたいと思った。

 四月二〇日,私は広島県呉市川尻町にある小尻家の墓を訪ねた。墓は小高い山の中腹にあり,眼下に瀬戸内海が広がる。この日は青空が広がり,春の風が心地よかった。阪神支局での惨劇以来,墓参は数十回を数えるが,いつも感慨を新たにする。

 私は,墓前に手を合わせ,心の中でこう話した。
 「小尻君。あの日から三一年経とうとしているのに,犯人にたどり着けていないことを許してほしい。言い訳になってしまうけれど,これまでどんな取材をしたのか,本にまとめることができたので,君は納得できないと思うけど,読んでほしい」

 「信克さん,みよ子さん。生前のお二人に,息子さんを殺した犯人を必ず見つけます,と話していたのに,その約束が果たせず,申し訳ありません。私も六六歳になってしまいましたが,まだ頑張れます。もうしばらくの間,朗報を待ってください」

 この日は,JR呉線の安芸川尻駅で待機していたタクシーに乗った。行き先を告げると運転手さんが,「私は三一年前の五月三日夜,ご両親,奥さん,幼い娘さんを乗せて西宮市の病院まで運んだ」と話し始めた。「車内で女の子が泣きじゃくっていた。時間がかかり,小尻さんの絶命後に到着したことを今も悔やんでいます」。そう話す運転手さんの髪には白いものが目立っていた。

(ひだ つよし・ジャーナリスト) 

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