こぼればなし(2018年7月号)

こぼればなし


 「読者と岩波書店を結ぶホットライン」というコピーが示すように、小誌は小社のPR誌という位置づけをもっています。その一方で、担当編集者たちは、バラエティに富んだおもしろいエッセイをみなさんにお届けできるよう、日々あれこれアタマを悩ませてもいます。

 小さな雑誌ですから、なかなか反響を呼ぶということはありませんが、たまさか取り上げられることもあります。そういうときには、こういう雑誌でも注目してくださる読者の方はいらっしゃるのだと心を強くいたします。

 一例を紹介いたしましょう。昨年、小誌に掲載されたエッセイのなかの三本が、日本文藝家協会編『ベスト・エッセイ2018』(光村図書)に収められました。

 六月号に掲載された松井玲奈さん「心の毛玉の解き方」、七月号掲載の桑原裕子さん「ハエちゃんのこと」、そして一二月号に掲載された連載「ルビンのツボ」第六回、齋藤亜矢さんの「からだとこころ」が、それです。

 幼いころの読書経験から、物語をとおして教わった大切なことを綴った松井さん。ご自身の幼少期をふりかえり、教育と学びについて考察した桑原さん。背骨を折ったご自身の体験から、身体と心に起こる変化、人間にとって夢のもつ意味について、認知科学の立場から思考をめぐらす齋藤さん。

 それぞれが異なる主題を、違った角度から、独自のスタイルで書かれたエッセイはどれも魅力的ですが、選ばれた三本に共通しているのは、いずれも女性の書き手によるもの、ということです。かつてとくらべれば最近の『図書』は女性の執筆者が増えた、という反応をよくいただきますが、そのような編集方針がとくにあるわけではありません。きっと編集者のアンテナにふれる、刺激的な活動を展開している書き手が図らずも女性、ということなのだと思います。

 男性陣も負けてはいません。昨年の二月号に掲載された、篠田謙一さんの「宣教師のDNA」。江戸時代の「切支丹屋敷」跡から発見された三体の人骨の謎に迫ったものですが、『江戸の骨は語る――甦った宣教師シドッチのDNA』としてまとまり、四月に刊行されました。

 また、二〇一二年四月号から一七年九月号まで、六六回という長期にわたった連載、池澤夏樹さんの「詩のなぐさめ」。前半の三三回分はすでに『詩のなぐさめ』として一五年一一月に刊行されていますが、後半の三三回分が『詩のきらめき』と題して五月に刊行されています。そして、連載中から話題を集め、三月号で終了した高橋三千綱さんの連載が『作家がガンになって試みたこと』として先月に刊行されました。

 このように、小誌に掲載されたエッセイの、その後の動きをふりかえってみますと、六四頁のなかに多彩なジャンルの執筆者が、様々なテーマで、興味深い話題を提供してくれていることがわかります。小誌は、これからもそのような場として読者のみなさまに迎えられるよう、取り組んでまいります。

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