編集後記(『世界』2018年8月号)

今国会では,モリカケ問題のどさくさにまぎれて,昨年の「主要農作物種子法廃止法案」成立と似た文脈で,二つの法律が成立した.「森林経営管理法」(本号,尾原氏)と「改正卸売市場法」である.

 公共的価値から経済性の追求へ.規制緩和と民営化を進め,生きるインフラを取り崩す安倍政権版,あくなき「ショック・ドクトリン」である.

 「改正卸売市場法」は,日本の食の流通を劇的に変容させるおそれがあると指摘されている.新自由主義的政策でも安倍首相と同類の小池都知事がぶち上げた,築地を「食のテーマパーク」にするというあまりに浅はかな構想とともに,築地市場の豊洲移転が三カ月後に迫っている.

 「築地市場の場内,場外だけでなく,本願寺,浜離宮,そして歌舞伎座,勝どき橋,聖路加周辺まで……これらが築地だと思っています.日々谷と銀座にも新しいビルができましたが,そこからまっすぐ歩いてくると,タイムスリップしたかのような築地の街が現れます.蘭学事始の地や慶應義塾発祥の地であるなど,築地は文化を継承してきた所でもあります.築地全体が,ヨーロッパの都市でいう旧市街のようなものです.築地のこの雰囲気は一朝一夕にできたものではありません.地価は高いかもしれませんが,築地市場で働く人々が,その価値以上のものを作ってきました.だから世界のブランドになったのです.どうか築地全体を守ってください」(「築地女将さん会」の新井眞沙子さん,六月二日集会での発言要旨).

 二〇〇〇年前後にユーロ圏に入り,低利の銀行融資に飛びついた南欧の国々(本号,赤木氏)で,一〇年足らずの住宅バブル・リゾート開発により,地方都市の美しかった旧市街が見るも無残に消滅した例がいくつもあったのを思い出した.

 乱開発で壊された景観や街の文化は二度と元には戻らない.民間業者の乱伐でできたハゲ山が,防災機能ももつ美しい森になるまでに何十年もかかる.

 不屈の反対運動が続く沖縄・辺野古新基地建設現場周辺では,専門家が警鐘を鳴らしていたとおり(二〇一七年一二月号,大久保奈弥氏「サンゴの移植は環境保全措置となり得ない」参照),希少サンゴが消失の危機と報じられている.

 もはや元に戻らない最も深刻な問題は,「少子化」であろう.日本の人口構造は,ピラミッド型から釣鐘型へ,そしていまや「棺桶型」に移行しているとのことだ.地方は「無子高齢化」(四月号,前田正子氏)で子どもの笑い声が途絶えて久しく,都会ではサブカルの舞うディストピアが広がる……二〇二〇年以降の日本をどう構想すればいいだろうか.

 後戻りできないと言えば,南北・米朝の首脳会談とともに踏み出した朝鮮半島の平和プロセスが,逆行・挫折することなく進むことを望みつつ注視したい.小誌では,一九九七年八月号から「ドキュメント・激動の南北朝鮮」の連載を続けている.最近は「超激動」と形容するにふさわしく,またキャンドル革命以降の韓国民主主義の進展ぶりにも目を見張る.本号で二五二回を迎えたこの最長期連載が,幸せな形で大団円を迎える日が近く来ることを願っている.

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 今月号で編集長を退任することになりました.この間,叱咤激励,ご意見,ご批判をたくさんいただきました.この場を借りて御礼申し上げます.次号からは熊谷伸一郎が編集の任を担います.引き続きご愛読のほど,お願い申し上げます.

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