こぼればなし(2018年8月号)

こぼればなし


 先月、小社より刊行された『やや黄色い熱をおびた旅人』を記念して、原田宗典さんと、妹の原田マハさんによる兄妹対談が実現しました。これまで、このようなかたちでおふたりがお話されることはなかったということで、本号の「旅する兄妹」が初の兄妹対談になりました。

 ふだんは顔をあわせてもあまり話もしない、また面とむかってほめるということもないというおふたり。どこか居心地のわるそうな、少し照れた感じの兄と、終始笑顔の妹との対談は、とても愉しいものになりました。お互いの旅の話は尽きず、紙幅の関係から掲載できなかったそのひとつをご紹介しましょう。

 マハさんが何年かまえにシチリア島を旅行されたときのお話。英語を話せる現地の若者にドライバーをお願いして、友人の方々と大好きな映画『ニュー・シネマ・パラダイス』のロケ地、パラッツォ・アドリアーノを訪ねたのだそうです。その途中に、あの『ゴッドファーザー』で有名なコルレオーネの街がありました。その近くを通ったとき、ドライバーが「このあたりが映画の舞台になったところです」というので、「本当にギャングっているの?」と訊ねてみると、ドライバーは「その辺にいますよ」。

 「嘘でしょ? どこ? どこ?」。拳銃を持った黒服の男たちがいるのかと周りを見回してみましたが、そんなギャング然とした人は見当たりません。「そこにいますよ」といわれて見てみると、羊飼いをしている人だったそうです。

 マハさんが「いや、あれは羊飼いじゃないですか」と言い返すと、「映画のようなギャングの格好をしていたら目立つでしょう? シチリアのギャングはみんな羊飼いなんですよ」。ふだんは羊飼いを生業としながら、もしボスになにかあったときには「いざ鎌倉」ではないけれども、ギャングの格好になって集まるんだとか。「羊飼いのギャング」――なんだか一般的なイメージとはまったくかけ離れている感じです。

 マハさんが作家として活動を始めたのは、兄の作家デビューからほぼ二〇年後のことでした。ご本人は、ご自身が小説を書くようになろうとは思ってもみなかった、と話されていましたが、少年時代から作家を志し、書き続けてきた兄の姿を間近にみてきたことが、その背中を押すことになったのでしょう。

 本対談でも、「兄ではあっても作家としては先輩。先輩をまえに生意気なことばかりで恐縮ですが、文章が本当に美しい。圧倒されました。「ひまわり」の章もそうだし、「赤い花」の章も。「螢が」の文章も、ばーっと目の前に全部情景が現れて圧倒的でした。本当に美しかった」と話すマハさんからは、兄に対する強いリスペクトが伝わってきました。

 そんな彼女の旅行記、『フーテンのマハ』(集英社文庫)も五月に刊行されました。個性際立つ兄妹それぞれの旅を読み比べてみるのも愉しいものでしょう。

 本号の校了間際、西日本を襲った豪雨の報に接しました。被害に遭われたみなさまには心よりお見舞い申し上げます。

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