編集後記(『世界』2018年10月号)


 前号に引き続き,二カ月つづいて沖縄の状況をめぐる特集をお送りすることになった.言うまでもなく情勢の急転を受けてのものだ.

 翁長知事には,前号特集「人びとの沖縄」でインタビューをお願いしていた.本誌としては三度目(一度は寺島実郎氏との対談)となる登場を,知事選挙の前に,生活と経済と米軍基地とを語っていただくことで実現したかったが,ご体調のこともあり延期せざるを得なかった.それから間もなくの訃報であった.

 インタビューは実現しなかったが,七月二七日,埋立承認の撤回を表明した記者会見での発言全文を読むと,翁長知事がどれほどの深い憤りと未来への展望をもって撤回の決断をしたかが伝わってくる.その一部は今号特集の扉に記載したが,翁長知事は次のようにも述べている.

 「何が何でも沖縄に新辺野古基地を造る(という)私からするととんでもない固い決意で……土砂を投げ入れようとしたり,あるいは四メートルの壁を造って歩行者道路を縮めたり,あるいは直接新辺野古ではない場合も,この重機などを住民の上,村民の上から運んでいく.私は,こういうことを政府がやることについて,日本国民などがまったく違和感のない中で,『沖縄に造るのは当たり前だ』というようなものがあるのではないかということで,大変,私,個人的には憤りを持って見ている」

 翁長氏がインタビューで小社に初めて来訪された折,応接室のソファに深く座り,笑顔で「ここは落ち着く」と冗談めかして話されていたことが思い出される.二〇一五年一〇月三一日のことだ.その前日,政府は辺野古新基地建設の「本体工事着工」を大々的に喧伝していた.今号の松元剛氏によれば,東京滞在中「公安当局とおぼしき一群から公務外で会う人物を探られ,知事は何度も尾行された」という.どこの独裁国家か,と思うが,厳しい重圧の中で翁長氏が闘いつづけていたことがうかがわれ,粛然とする.

 九月三〇日の県知事選挙はどのような結果であれ重大な画期となろう.その選択を注視しつつ,本土の住民の一人としては自分の足もとを見つめたい.今号の読者談話室で,沖縄に機動隊を派遣している東京都の違法公金支出を問う訴訟について,中村利也氏が報告されている.都はヘイトスピーチまがいの弁明をしているという.また,辺野古の新基地建設にともなって必要となる大量の土砂について,その搬出元となる各地で土砂を搬出させない取り組みも進む(本誌二〇一七年五月号で湯浅一郎氏が詳細に報告している).加害に荷担することを拒む市民の動きを今後も紹介していこうと思う.

 第一特集についても触れておきたい.持続する意志が求められるのは原発問題も同じだ.八月になると戦争の記事でにぎわうことを指した「八月ジャーナリズム」という言葉がある.年間を通じて何もしない完全な忘却よりはマシだと思うが,近年,原発や3・11についても「三月ジャーナリズム」という傾向が感じられる.だが,再稼働の危険な動きが三月に限って進められるわけではないし,原発事故のリスクも三月だけが高いわけではない.大飯原発再稼働を差し止める判断を下した元裁判官の樋口英明氏や,3・11以前の地震予測について反省をこめた発言をされている島崎邦彦氏をはじめ,真摯な知性のありかたについて考えさせられるご寄稿を多く得た.心から感謝を申し上げたい.

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