六法の刊行終了にあたって――

 小社が『六法全書』を刊行したのは1930年、当時京都帝国大学の民法・独法講座の教授であった末川博氏の発案・編集によるものでした。それまでの大型で高価な六法全書とは異なり、岩波版は、国民大衆が六法全書を「生きたものとして利用できる」ことを願って、袖珍本という小型の判型を選び、また本邦初の参照条文・事項索引付きという新機軸によって、大きな反響を呼び、たちまち刷りを重ねました。

 以来、岩波版六法の歴史は、法を市民の身近なものにするための絶えざる努力と工夫の歴史でありました。2008年秋には、それまでの『コンパクト六法』と『判例基本六法』を、『セレクト六法』『基本六法』および『判例基本六法』(現在は『判例セレクト六法』)の三路線に再編成し、法科大学院や裁判員制度の創設など、教育現場や社会の新たな動向にも対応してきました。

 この間に、六法を軸にして、法律専門書、教科書はもとより、法律学の講座や叢書など、市民と法律学を結ぶ活発な出版活動を展開し、この分野に少なからぬ貢献をなしえたことも、小社の深く喜びとするところです。

 しかし、今日、市民生活における法の重要性がいよいよ高まり、市民の法意識の向上が課題となる一方で、インターネットの普及等により条文や判例へのアクセスも多様化した結果、大学教育等の場において六法の需要は低迷し、その在り方が問われる状況が現出していることも事実です。

 このときに当たり小社は、これまで六法と一般書籍の両面において展開してきた法律書の刊行態勢をあらためることにいたしました。昨秋刊行した平成25年版をもって岩波版六法の刊行を終え、今後は法律学の講座やシリーズ、単行書籍等の刊行にこれまで以上に傾注して、市民と法とを結ぶ新たな法律書の展開を期す所存です。

 八十余年の伝統は、読者の皆様のかわらぬご支援と、編集委員ならびに関係する皆様のお力添えによって支えられてきたものです。ここに長年のご愛顧に心より感謝申しあげるとともに、かつて末川博士が法を大衆に開かんとして岩波版六法を創造した志を、旧来の形式の踏襲においてではなく、新たな時代の新たな形式の模索において受け継ごうとする小社の決意に、改めて厚いご支援をお願いする次第です。

 

 2013年7月

岩波書店

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