執筆者からのメッセージ(『世界』2017年3月号)

終末に向かうシリア内戦――失われたシリアの当事者性

 

 「シリア内戦」と呼ばれる紛争がメディアで大きく報じられなくなってから随分経つ。

 「アラブの春」と呼ばれた中東の一大政治変動のなかで、デモ参加者への大弾圧を固唾を呑んで見守っていた人々は、シリアでの独裁の崩壊と民主化を願いつつも、際限のない暴力の応酬を前に感覚を麻痺させ、関心を失ってしまったかのようだ。化学兵器使用疑惑に乗じて部分的軍事介入を画策したオバマ米政権が、プーチン露政権の狡猾な外交戦術によってアサド政権存続を認めさせられてしまったという事実も、その後の混乱のなかでほとんど記憶に残ってはいない。

 そして、イスラーム国――。「国際社会最大の脅威」と目されたこの組織の台頭を機に、シリア内戦は、「テロの脅威」に怯える「我々自身の問題」となり、シリア人の苦悩は周縁に追いやられてしまった。しかし、シリア内戦が「我々自身の問題」と化したことで、それが当初希求されていたのとはまったく異なった「終わり」、ないしは「終わりの始まり」に向かっていることは決して見過ごされるべきではない。

 この「終わり」がシリア人自身にとっていかに過酷な未来の「始まり」を暗示しているのか。本稿が、このことを「我々自身の問題」として問い直すきっかけを与えることができれば幸いである。

青山弘之(東京外国語大学教授)

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