長谷川公一

私たちは、津波をくぐり抜けた多数の生命、劇的に再生した砂浜、そして貴重な湿地が、復旧の名のもとに次々と消える場面に立ち会ってきました。それは、震災後に始まった大きな喪失でした。
 (仙台湾の水鳥を守る会シンポジウム2013
『仙台湾沿岸での災害復旧工事を考える!』アピール文)
*  *
東日本大震災は大きな喪失をもたらしたが、復旧・復興の名のもとに、震災後に始まった大きな喪失もある。震災から6年を経て、今始まろうとしている喪失もある。
「自然破壊」という点では、津波以上に、復旧工事の影響がはるかに大きい。
東松島市・石巻市・女川町・南三陸町・気仙沼市などでは、高台移転地の確保のために、環境アセスメントも実施されることなく、森が次々と剥ぎ取られ、土が剥き出しにされ、痛々しい光景が広がっている。
三陸海岸の「自然」を壊したのは、津波ではない。「復旧」「国土強靱化」の名のもとに人間が壊したのだ、ということを後世に正確に語り伝えねばならない。
三陸海岸の南の仙台湾でも、巨大防潮堤の建設と保安林植栽のための盛り土工事によって、自然破壊が進行している。仙台平野から、海岸林の自然植生が完全に消滅させられようとしている。仙台市域の海岸環境では、自然環境の面積は、1940年と比較して、震災前は83%だったが、震災1年後の2012年でも47%だった。復旧事業完了後には、それが1割以下になると推計されている。
仙台港の南に蒲生干潟がある。潟湖とその周囲を含めて、保全対象区域は約58ヘクタールだが、国内で観察される鳥類633種類のうち、3分の1以上がここで観察できる「水鳥の楽園」だ。津波で流出したが、奇跡的に回復した。蒲生干潟で観察される鳥の種類は、震災直後には、震災前の55%に減少したが、2013年4月にはほぼ回復した。
しかしこの蒲生干潟も新たな脅威に直面している。周辺が準工業地域から工業地域に用途変更され、800メートル北では、関西電力と伊藤忠エネクスの子会社による石炭火力発電所の建設工事が進んでいる(拙稿「津波被災地に続々、石炭火力発電所」『環境と公害』第46巻第2号 https://www.iwanami.co.jp/book/b275020.html )。環境アセスの対象に満たない「小規模」施設のため、本来アセスが実施されていれば評価されるはずの干潟の生態系への影響は何も考慮されていない。地元への説明会は再三の要求の末、試運転開始目前の2017年3月8日にようやく開催されることになった。公害防止協定は締結されたものの、PM2.5も水銀も、二酸化炭素も規制の対象から外されている。2007年以降、宮城県内では石炭火力発電所は姿を消していた。電力小売り自由化の鬼子のような、被災地での石炭火力の復活だ。
被災地がいま直面しているのは、こうした人為によって加速される大きな喪失という脅威である。
(はせがわ こういち・環境社会学者)

カテゴリ別お知らせ

ページトップへ戻る