こぼればなし(『図書』2017年4月号)

こぼればなし

 本号がお手許に届くころには、桜の便りが各地から聞こえていることでしょう。ことしの開花は、二月から三月にかけての高温傾向が弱まるとの予想から、西日本を中心に全国的には平年よりやや遅め、北日本では平年よりやや早めということのようです。
 三月上旬現在の、各地の開花日の予想をみますと、福岡の三月二四日を皮切りに、東京は二五日、名古屋は二八日。四月に入って大阪は一日、仙台は一一日、新潟は一二日。津軽海峡を越え、札幌でそのつぼみが開くのは、ゴールデンウイークを迎えた五月一日ということで、ほぼひと月をかけて桜の花はこの列島を縦断してゆくことになります。
 昨年は、三月一九日に全国のトップを切って福岡と名古屋で桜が開花しています。名古屋では平年より七日、福岡では四日早い開花でした。冬から春にかけて全国的に気温が記録的に高くなった影響で、各地とも平年より五日から一〇日ほど開花が早まり、東京でも平年より五日も早い三月二一日に開花しました。
 ことしの満開日は、東京の四月三日がいちばん早く、いずれの地域も四月に入ってからという予想になっていますから、その美しい姿に出会える日は、いつもより少し遅めということになりそうです。(ウェザーマップ「さくら開花予想2017」)
 東京電力福島第一原発事故に伴って避難指示区域に指定されていた飯館村は三月三一日に、富岡町は四月一日に、帰還困難区域を除いて、その避難指示解除が決定しました。浪江町でも、三月三一日での解除方針について住民懇談会が開催されているとのことです。いずれの地域も大きな被害を受けたところですが、その地での開花は、四月五日から一〇日が予想されています。春の訪れを告げる桜とともに、この解除の日を待ちわびていらっしゃったみなさんのお気持は、いかばかりだったでしょうか。
 しかし、これですべての困難が解消されたわけではありません。たとえば、おなじ富岡町でも、全長約二・二キロメートルに及ぶ桜並木として有名な、「桜のトンネル」のある夜の森地区は帰還困難区域に指定されており、今回の避難指示解除の対象とはなっていません。桜の花々が美しく咲き誇るその場所に、残存する放射線量の影響から、かつてのように立ち入ることはできないのです。あの原発事故によって失われてしまったものの大きさを、改めて考えなければならない春を迎えているといえるでしょう。
 本号で柄谷行人さんの連載「思想の散策」が終了になります。これまでのご愛読、ありがとうございました。
 代わって、ふたつの連載がスタートします。ひとつは、昨年六月に小社から刊行され評判を呼んでいる『ヨーロッパ・コーリング』の著者、ブレイディみかこさんによる「女たちのテロル」。もうひとつは、ご自身の癌との闘病体験を綴る高橋三千綱さんの「作家がガンになって試みたこと」です。どうぞ新連載にご期待ください。

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