編集後記(『世界』2017年5月号)

 それは、小さなドミノの一駒をパタンと倒したことから始まった―森友学園問題で、国有地不正取得疑惑発覚のきっかけをつくった地元・豊中の木村真市議はこう表現した(本号、座談会参照)。

 アクターは安倍首相と森友学園広告塔の昭恵夫人を頂点に、日本会議に関係の深い人ばかり。「皆さんのご意志で」(籠池泰典理事長)、森友学園に小学校を創らせようとあれこれ便宜も利益も供与する。そのために多方面からあらゆる知恵を集める。財務省はじめ自己保身が第一のエリート官僚も「神の声」に従って危ない橋を渡り―「忖度」したのか具体的な指示のもとに動いたのか―証拠を残さぬよう公文書をバンバン廃棄した、らしい。 

 公文書管理法成立前後の議論を思い出す。都合が悪いからと言って公文書を捨てるのでは、近代国家として完全に落第である。安倍政権は歴史修正主義にプラスして、未来の日本人に手渡すべき歴史をも抹殺しようとしている。背後でどういう大きな力が働いたのかという事件そのものの解明とともに、解明が進まないことの最終的責任も問うべきだ。木村草太氏が「報道ステーション」で、「公文書管理を見直し、財務大臣が辞任する覚悟で解明してほしい」と解説したことは、大きな共感を呼んだ。

 森友学園が運営する塚本幼稚園で子どもたちに暗唱させている「教育勅語」は、新憲法の理念に反するとして、一九四八年に衆議院で「排除決議」、参議院でも「失効決議」が採択された、憲法違反のアナクロ文書。これを教育理念に掲げる学校法人が政権と近い関係にある(あった)というのが憲法施行七〇年を迎えた日本の憲法状況かと思うと、情けなくなる。

 国会での議論は証人喚問をピークに森友問題一色だったが、共謀罪が三月二一日に閣議決定され、今国会での成立が謀られている。お得意の強行採決も視野に入っているだろう。秘密保護法、安保法制、共謀罪とくれば、改憲までの地ならしは済んだと言えるかもしれない。共謀罪の危険性を少しでもわかりやすく伝えたいという趣旨で今号「特集1」を組んだ。

 メディアが注目せず、森友学園問題の影でこっそりと成立しそうなものに農業改革関連八法案がある。規制改革推進会議での新自由主義的な議論をもとに拙速に法案化され、八本のうち「主要農産物種子法廃止法案」はすでに衆議院農林水産委員会で可決した(本号、細谷氏・尾原氏)。今国会では水道法改正案も閣議決定されている。生存の最も基本的インフラである水、種子(の保存・開発)などが次々に周回遅れの民営化に晒されている。 一方アメリカでは、トランプ大統領がオバマケア代替法案を撤回、公約の「一丁目一番地」が崩れたことで政権に暗雲がたち込めたかのようだ。

 注目のオランダ総選挙では、右派ポピュリズム政党「自由党」が予想に反して伸び悩み、欧米を蔽いつつあるポピュリズムの波に歯止めがかかったと受け止められている。「ありがとう、オランダの比例代表制!」と言いたいところだが、冷静な分析が必要なようだ(本号、水島氏)。

 焦りのトランプと安倍、欧米でも日本でも風向きが変わりつつあるとするなら、逆ギレからさらに強硬な政権運営、ファシズムへの流れにつながらないよう監視し、声を上げていかなければならない。

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 臨時増刊『トランプ・ショックに揺れる世界』を三月二四日に刊行しました。詳しくは271頁をご覧ください。

                  清宮美稚子(本誌編集長)

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