試験なんて思い出したくもない、っていう人も

ナンシー・フォーブス,ベイジル・メイホン/米沢富美子,米沢恵美訳
『物理学を変えた二人の男――ファラデー,マクスウェル,場の発見』

 

 「トライポス」というのをご存知でしょうか。英国ケンブリッジ大学の数学卒業試験のことです。優に300年の歴史があるといいます。その後、数学科以外の卒業試験も、◯◯トライポスと呼ばれるようになりました。中でも経済学者ケインズを悩ませた「経済学トライポス」は有名です。経済学トライポスのほうは、ケインズの師マーシャルが、ケンブリッジ大学の教授職に就任後、それまでは道徳科学の一部であった経済学を独立させたことに由来します。1905年が最初の試験ですから、数学に比べてきわめて新しいです。(経済学トライポスを巡る歴史はそれだけで1冊の本になるほど重要です。)
 さて、本家本元の数学トライポスですが、電磁気学を確立させたといってもよいマクスウェルは、歴史に残るほどの好成績を修めたことでも知られています。試験の成績がトップクラスの合格者には、「ラングラー」という称号が授与され、その称号があるかないかで、天と地ほど、その後の人生が変わったと言われています。
 はたして、マクスウェルと数学トライポスとの関係はどのようなものだったでしょうか。そのことも本書の読みどころです。(マクスウェル自身はラングラーの称号を得ていますが、彼自身はその称号にも、それによって得る栄誉にももともと無関心でした。ファラデーのように、大学など出なくても一般の人が科学を学ぶ権利があるのだと彼は感じていたからです。その結果が物理学の歴史に残る発見でした。)

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