編集後記(『世界』2017年6月号)

 四月二二日、首都ワシントンをはじめ全米、さらには世界各地で、「地球温暖化はでっち上げだ」と公言し環境規制を緩和・撤廃中のトランプ政権に抗議する「科学のための行進」(March for Science)が行われた。直前の四月一八日には、大気中の二酸化炭素濃度が人類史上初めて四一〇ppm台を記録していた。

 「科学に基づく政策を!」と、世界一の超大国の指導者に向かって叫ばなければならないとは、どういう時代なのだろう。本誌二月号にご登場いただいたビル・マッキベン氏によれば、四月二九日には「未来のための行進」(March for the Future)が予定されている。トランプ政権一〇〇日を超えて、各種の抵抗の取組みがさらに広がっていくだろう。

 事実に基づく政策どころか、フェイクニュースを垂れ流して世論を操作し、ショック・ドクトリンばりの政策を強行、政治を私物化する(軍産複合体が支配する世界では、政治の私物化は戦争と直結する)。事実も真実も不要であれば、法も倫理も、歴史も成り立たない。人類が積み重ねてきた英知も、お払い箱になりかねない。早々に劣化したメディアの責任は大きいが、至るところで液状化が始まっている。

 米朝の危機も、米トランプ政権が挑発している側面が強い(本号、カミングス氏など)。それをさらに日本の安倍政権が煽っている。一方で、北朝鮮が核実験かミサイル発射をするかもしれないとメディアが警告していた四月一五日(アメリカではトランプ氏の苦手な納税の日)、その二日前からトランプ氏はフロリダの別荘で休暇に入っていた。安倍氏も一五日は新宿御苑で自ら主催する「桜を見る会」を楽しんでいた。北朝鮮の核・ミサイル開発が進み脅威が増していることは確かだが、米朝対立の激化を回避するためには何が必要か、浮足立たず、事実に基づいた正確かつ多角的な分析が求められる。

 日本でも、フェイクでぬり固められた「共謀罪」が四月一四日、審議入りした。審議すればするほど法案の問題点がバレるので、答弁能力のない担当大臣を隠すという手まで飛び出した。森友学園問題を乗り切ったと思っている今、何をやっても世論は付いてくると安倍氏は高を括っているのかもしれない。事実、内閣支持率は上昇に転じている。きなくさい四月のおかげもあるのだろうが、「国民全体が国の政治の舵をとるという精神が一貫して流れている」(金森徳次郎)日本国憲法の精神を生かしきれないまま、五月三日で施行七〇年を迎えた。

 通常国会が終わると、七月には都議選が待っている。「なにがなんでも与党」は都議選では小池知事とくっつくという(本号、中野氏)。連立が選挙協力の意味しか持たないのでは、政党政治そのものが溶解している。野党の存在意義が問われるという言い方も何かむなしい。
 一方、日本の連休が明けるころ、フランスでは新しい大統領が誕生しているはずだ。ここでも既存の政党の影は薄い。しかし第一回投票で大勢が見えてきたことで、英・米と続いた流れが一息ついたのではと、やや安堵感が広がっている。

 憎悪や対立、戦争の脅威を煽りたてて武器を売りさばくような非道から脱し、人類共通の危機に立ち向かわなければならない局面だ。世界の各地で、地球温暖化と気候変動により、旱魃とそれにともなう飢餓が広範囲に起こっている。自衛隊が撤退を決めたとたんに南スーダン関連の報道は減ったが、ここでも深刻な飢餓が広がっている事実に変わりはない。

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