編集後記(『世界』2017年9月号)

 七月上旬に九州北部を襲った記録的豪雨は甚大な被害をもたらした。亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに、被災された方々に心よりのお見舞いを申し上げます。

 世界気象機関(WMO)は、今年三月の時点で、観測史上最も暑い年になった二〇一六年の影響は今年も続き、熱波や大雨などの異常気象が多発する恐れがあると発表していた。温室効果ガス濃度や海水面温度の上昇など地球温暖化の進行がやまないのが原因だとのことだ。単なる「気温の上昇」だけではない、「気象の極端化」が明らかになってきている。その表れか日本では豪雨災害が多発、林業の衰退による山地斜面の荒廃が土砂災害をさらに起こりやすくしている。九州の被災地のむき出しの山肌は、かさぶたがはがれたようで痛々しい。

 海外でも、驚愕すべき現象が次々と起こっている。六月下旬にアメリカ南西部を記録的熱波が襲い(アリゾナ州フェニックスでは四八℃)、一部の空港で暑すぎて飛行機が飛び立てず、キャンセルが相次いだという。空気は温度が上昇すると膨張し、密度が低くなるため、離陸時に必要な空気抵抗やエンジンの推進力が低下、飛行機は重量を軽くするか離陸速度を上げて対応しなければならなくなる。

 単純な物理現象により飛行機が飛べない事態。温暖化はもはやティッピング・ポイントを超えたのではないかと思えるほどだ。アメリカのIT長者らが熱を上げる「地球工学」による小手先の解決方法など全く無理であることがよくわかる。

 一方南極では、「ラーセンC」と呼ばれる棚氷の亀裂の拡大が近年加速していたが、七月一〇日頃ついに南極から分離、総重量一兆トンという観測史上最大級の氷山が誕生した。この現象も地球環境の変化を表しているのだろう。

 さて、このような話を紹介したのは、小社から夏の終わりに、『ショック・ドクトリン』で世界を驚愕させたカナダ人ジャーナリスト、ナオミ・クラインによる『これがすべてを変える―資本主義 VS. 気候変動』が刊行されるからだ。著者はこの本で、温暖化・気候変動の根本原因は成長神話にがんじがらめになった資本主義のシステムにこそあり、解決するためには現行の経済システムとそれを支えるイデオロギーを根底から変えなければならない、という力強いメッセージを発し、その具体的戦略も示している。ぜひご期待いただきたい。

 今年の二月、ナオミ・クラインはアメリカの調査報道サイト「Intercept」にシニア特派員として加わった。二〇一四年にグレン・グリーンウォルドとジェレミー・スケイヒルが中心となって設立した独立系のメディアである。トランプ大統領の登場以後、アメリカではメインストリーム・メディアの対決姿勢が支持され息を吹き返した感があるが、独立系メディアはすでに大きな信頼を獲得し、民主主義を支えるインフラとなっている。

 特に〇八年の金融危機以降、世界的に現れてきたのが、調査報道ジャーナリズムをネット上で非営利の財源モデルで展開していく戦略である(今号、花田氏)。

 日本では、企業メディアの調査報道が腰砕けになる中、二月に新しい調査報道団体「ワセダ・クロニクル」が立ち上がり(今号、別府・渡辺対談)、第一弾の「買われた記事」が早くも注目を集めている。新たな試みに挑むジャーナリストたちがこれからどのような成果を出し、企業メディアにも影響を与えるか、注目したい。

カテゴリ別お知らせ

ページトップへ戻る