証明のマジック

『数学魔術師ベンジャミンの教室 レベル1・レベル2』

( アーサー・ベンジャミン 著/熊谷 玲美 訳)

 「証明」と聞いて真っ先に思い浮かぶのは何でしょうか.私の場合,中学生のときに教わった三角形の合同の証明が思い浮かびます.2つの三角形で,3辺がそれぞれ等しいから合同,あるいは2辺とその2辺に挟まれた角がそれぞれ等しいから合同,あるいは1辺と2つの角がそれぞれ等しいから合同,という問題をいくつもいくつも解いた記憶がよみがえります.
 このような証明問題は,探すべきポイントがはっきりしていて,証明の作法を学ぶにはよいのかもしれませんが,証明のありがたみがそれほど強く感じられるわけではありません.
 『数学魔術師ベンジャミンの教室』は中学から高校くらいまでに教わる数学を,ダジャレやや多めの楽しい語り口で紹介してくれる本です.その1冊目(レベル1)の第6章が「証明のマジック」で,最初に「不可能の証明」が取り上げられています.こんな問題です.

8×8のチェス盤の右下と左上の隅を除く62個のマス目全部をおおうように,1×2の長方形ブロック31個をすき間なく並べることはできるか?

 これは,できそうで,できません.答えは「不可能」なのですが,それを証明しなくては完全な答えになりません.この証明を思いつくと,きっと満ち足りた気分になると思うので,ここには書きませんが,ヒントはチェス盤の色に着目することです(チェス盤は黒と白の市松模様になっています).
 著者こう言います.

世間ではよく,「ないものは証明できない」という言い方をする.これは,「紫色の牛がいないことは証明できない.なぜなら,いつかそういう牛が現れるかもしれないから」ということだろう.ところが数学では「ない」ことを証明できる.

 中学校で出会う最初の証明問題が,上のような「不可能の証明」だったら,証明って凄い,数学っておもしろいと,もっと早くに気づいたかもしれません.

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