こぼればなし(2018年1月号)

こぼればなし

 あけましておめでとうございます。年頭に当たり、読者のみなさまのご多幸をお祈り申し上げます。本年もよろしくお願いいたします。
 小社の創業は、一九一三年。当時、第一線に立つ流行作家だった夏目漱石の『こころ』をその翌年に刊行し、小社は出版活動を開始しました。二七年に古典の価値を世にあまねく広めることを志した岩波文庫を創刊、三八年には読者が直面する現代の課題を問う岩波新書を創刊し、文庫、新書という新しい書籍のかたち、ジャンルを確立したのも小社でした。戦時下での刊行の途絶はあったものの、その岩波文庫は昨年、創刊から九〇年を、そして岩波新書はことし八〇年を迎えることになりました。
 戦後は、戦争への反省から総合雑誌『世界』を創刊するとともに、学術の成果を広く届けるだけでなく、その成果にもとづいてこの社会や文化、生活のあり方を問い直す出版活動を行ってまいりました。未来を担う子供たちのための良書を提供することをめざした一九五〇年の岩波少年文庫の創刊も、その一環であり、五五年には「国民的辞書」として定着している『広辞苑』第一版が刊行されます。
 第一版の刊行から六三年、なぜ『広辞苑』は「国民的」とまで呼ばれるほどの絶大な信頼を得るに至ったのか。それは、確固とした学術的背景のもとで展開してきた、戦前からいまにつづく小社の活動に対する評価と無縁ではないでしょう。これまでの小社の出版活動とその歴史を象徴する『広辞苑』――出版事業を取り巻く状況やメディア環境が激変し、辞書のあり方そのものが問われている現在、その第七版が一〇年ぶりに刊行されることになったのは、ひとえにみなさんからのご支持によるものです。この第七版も是非ともお手許に備えていただき、ご愛用いただければ、それに勝る悦びはございません。
 学術色の強い出版活動の一方で、筒井康隆さんの『文学部唯野教授』に代表されるように、多くの読者のみなさんに親しまれる文芸作品も小社は刊行してまいりました。昨年、佐藤正午さんの『月の満ち欠け』が第一五七回直木賞を受賞したのは記憶に新しいところです。
 手前味噌をならべるようで恐縮ですが、昨年からことしにかけて予定されている小社の出版活動を眺めてみますと、永遠の叡知を集積し「人々の心の糧」を提供する岩波文庫の九〇年、「個人と社会を支える基盤」となる現代の「教養への道案内」、岩波新書の八〇年、そして信頼にたる、確かな学術的蓄積の最高峰たる『広辞苑』から、エンターテインメントの最高峰たる直木賞受賞作まで――時代の要請に応える、総合出版社としての小社の活動が新たなステージを迎えた、といったところでしょうか。
 『広辞苑』第七版の刊行と軌を一にして新連載がスタート――さだまさしさんによる「さだの辞書」です。さださんの歌に親しまれているみなさんも多いかと思います。本連載にもご期待ください。

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