編集後記(『世界』2018年3月号)


 本誌が店頭に並ぶ頃には,今年最初の最重要政治決戦と言われる名護市長選の結果は出ている.しかし,結果がどうであれ自明なことがある.それは「辺野古に新基地はつくれない」ということだ.

 本号の北上田論文をお読みいただきたい.政府は,当初の工程を大幅に変更し,簡単に作業ができる浅い場所での工事を推し進めることで「工事は着々と進行中」と,「実績」をアピールしているが,それは抵抗する県民の諦めを誘うためのフェイクであり,実際は,数々の困難にぶつかって八方塞がりの状況だという.元土木技術者で公共土木事業を知り尽くしている北上田氏の冷静な分析は,専門家としての説得力に満ちている.

 たとえ基地完成が限りなく遅れても,工事が進めばそれだけ環境は汚染され,破壊されていく.重要なのは諦めを拒み,阻止・監視活動をさらに強めることだと山城博治氏も言う(本号インタビュー).それが工事の頓挫へと追い込むことにつながる.そして何と言っても事業の帰趨を握るのは,様々な許認可権限をもつ首長,とりわけ県知事だ.一一月の沖縄県知事選が天王山である.

 さて,諦めなかった市民の闘いで政権交代を勝ち取った韓国では,昨年一二月二七日,政府が二年前に行われた日韓「慰安婦」合意の問題点を指摘した検証報告を発表,文在寅大統領も「この合意では問題は解決されない」と明言した.

 二〇一五年一二月二八日の「合意」は,女性の人権ではなく政治的・外交的妥結を優先させたもので,被害者を無視して進めたという点で致命的であった.国連の人権条約に基づく拷問禁止委員会も,合意の見直しを勧告していた.本号で川上詩朗氏が「客観的には,日韓合意により慰安婦『問題』を解決することはもはや困難であり,日韓合意はとん挫したと言わざるを得ない」と断じるのは当然だ.

 合意の当日,日韓両外相共同記者発表で岸田外相(当時)が口頭で発表した文(共同コミュニケではない)には,安倍総理が「心からおわびと反省の気持ちを表明」との表現があるが,年末気分漂う頃であり,当日も,翌日も,翌々日も,総理の記者会見はなかった(報道各社のインタビューはあったが).安倍氏自身の言葉で,肉声で,表情で,おわびの言葉が語られ,それが映像で伝えられたらどんなによかったか.せめてそれがあれば,二年後のこの事態には至らなかったかもしれない.

 今年一月九日付『ハンギョレ』の社説は「世界基準に合う慰安婦問題解決を日本に求める」というものだった.この間,世界の人権基準でこの問題を考えた時に何が起こるかを示す例がある.アメリカやカナダを始め海外で「慰安婦」の像や碑を建立する動きが高まっているのだ(一月号,山口智美論考参照).性暴力の被害者と連帯し,その記憶を語り継ぐという趣旨だが,「日本は女性の人権を顧みない国」というイメージも結果的に固定されていくだろう.被害者にも,私たちにも残された時間は少ない.

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▼一月二一日に開催された連続シンポジウム「ジャーナリズム考」(第二回)は,会場とのやり取りを含め充実した内容となりました.第三回目は六月の予定です.

▼小誌では,遅まきながら,ウェブ版を立ち上げます.近日公開予定で鋭意準備中.オリジナルの記事とともに,プリント版と連動した記事もアップして立体的な発信をめざします.イベントや講演会のお知らせも順次アップしていきます.

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