編集後記(『世界』2018年5月号)


 「安倍首相は自分が首相であり続けるために,いったい何本のトカゲの尻尾を切ったら気が済むのか」(本号,神保氏).森友学園を巡る国有地タダ同然売却問題と公文書改ざん問題が政権を直撃している.

 「刑事訴追の恐れがあるので答弁は控えたい」―思えばちょうど一年前の昨年三月下旬,今回の佐川前国税庁長官と同じ表現を多用した「籠池劇場」が国会で繰り広げられていた.

 安倍首相発言「私や妻が関係していたということになれば,まさにこれはもう私は,それはもう間違いなく総理大臣も国会議員もやめるということははっきりと申し上げておきたい」が飛び出したのはその少し前の二月一七日.これが公文書改ざんに直接?がったのは間違いない.

 それからの一年余は,意味不明の「国難突破解散」・総選挙(希望の党の出現と民進党の分裂で野党が混迷したその選挙の内実は,本号・井戸まさえ氏の「候補者の誕生」に活写されている)をはさんで,安倍首相が森友・加計問題の追及から逃れたいがための国会軽視,国会崩壊とも言うべき日々が続いた.財務省職員の自殺という痛ましい事態をも引き起こした森友問題で,佐川氏喚問の茶番を目の当たりにして,ダーティな政権をこれ以上延命させてはならない,という大きなうねりが出来つつある.初めて安倍首相をコーナーに追い詰める機会が到来したのか.この期に及んで年内の改憲発議をあきらめていないようだが,「憲法崩壊」はなんとしても食い止めねばならない.

 「外交の安倍」も崩壊状態だ.平昌オリンピックを機に,南北・米朝とも大きく動いている.本誌校了作業中には北京でにっこり握手を交わす中朝首脳の映像が―.まさに「わが国を取り巻く安全保障環境の激変」だが,日本だけが蚊帳の外である.「日朝首脳会談,六月にも」と報道されており,実現したら画期的だが,安倍首相に国際情勢をキャッチアップする外交感覚があるだろうか.

 日本が独自で進める北朝鮮への経済制裁措置は,現実には国内に在住する市民である在日朝鮮人の権利を著しく侵害し,もはやそのこと自体が自己目的化している,と指摘するのは弁護士の李春煕氏だ(本号,なお田中宏論文も参照されたい).ヘイトの風もやまない中,「のりこえねっと」共同代表の辛淑玉氏はドイツに「亡命」,デュッセルドルフを拠点に活動中だ.

 その辛氏による「WEB世界」(三月開設,https://websekai.iwanami.co.jp/)オリジナル連載「デルクイ」への共感が広がっている.連載第二回には,ハンガリーの名指揮者で右派政権に抗議して故国を離れたアダム・フィッシャー氏が,デュッセルドルフ交響楽団の指揮者に就任したエピソードが紹介されている.年に一度「人権コンサート」を開くことを氏は就任の条件としたという.この話に,『ベルリン・フィルと子どもたち』のことを思い出した.ベルリンに住む二五の国籍からなる二五〇人の若者が,ラトル指揮ベルリン・フィルの演奏に合わせて「春の祭典」のダンスを踊るというプロジェクトを追ったドキュメンタリー映画だ.辛氏も言う,「人間は皆,移住者なのだ」.

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 別冊『再エネ革命―日本は変われるか?』を三月二四日に刊行しました.再エネの推進は,産業構造を変え,本当の持続可能性に向け私たちの社会,生活のあり方を変えるインパクトがあります.また地域再生の鍵を握るものでもあります.詳しくは二二五頁をご覧ください.

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