編集後記(『世界』2018年6月号)


 森友・加計・日報・財務次官セクハラ問題などで国会が騒然とする中,野党六党は四月一九日,今年度から廃止された「主要農作物種子法」を復活させる法案を衆院に共同で提出した.

 「国会崩壊」が言われる中,このような地道な立法活動が行われていることは評価できる.法案提出の背景には,「都道府県による種子生産が後退するとの不安が現場で大きい」ことがあるという.種子法廃止に対して,各自治体レベルの公共種子事業を守るために,県独自の条例や要綱で対応する動きや請願書を採択するところもすでに出始めていた.

 種子法廃止の問題点と影響については,印鑰論考(五月号)を参照していただきたいが,種子法のもとで支えられてきた種子の多様性が危うくなるのは大問題だ.

 本号小坂論考には,地域の再生をかけ,土地に適した酒米の作付けに挑戦する秋田県の中高年の取組みが紹介されている.これからの日本酒ブームでは杜氏や蔵元だけでなく「酒を生む土地そのもの」がフォーカスされる,そして「農業なくして日本酒は成り立たない」という認識,日本酒を愛するすべての人が共有できたらと心から願う.その根幹である「種子の権利」を守ることは大事な闘いである.

 なぜこのことを字数を費やして紹介したかというと,安倍政権下,私たちの社会や暮らしの基本である公共的領域の基盤が一つひとつ切り崩されているからだ.水道民営化への道を開くと言われる水道法改正案も去る三月に閣議決定していた.

 アメリカの運動家・思想家のジェイン・ジェイコブズは,亡くなる直前の二〇〇六年,「アメリカにおける公共領域の劣化が,この国を『暗黒時代』に導く」,そしてその暗黒化はもう始まっていると警告した(本号,吉見氏.なお,森まゆみ氏によるジェイコブズに関するドキュメンタリー映画評〔「WEB世界」〕も参照).

 安倍政権はいま,「政権末期的な総崩れ現象」の中にある(本号,神保氏).嘘に嘘の上塗りのつじつま合わせがついに破綻し決壊したかのようだ.強調しなければならないのは,嘘の上塗りの元凶はもっぱら安倍首相とその周辺であることだ.公的資源の究極の私物化を進めるために必要な嘘と忖度,それが官僚を含む周囲を巻き込み,国会の議論も吹っ飛ばす劣化の暴風となった.

 内閣支持率が急下降する中,九月の自民党総裁選での三選が危うくなってきたという声も一部に聞かれる.もしそうなった場合も,安倍政治の「暗黒の五(あるいは六)年」がやっと終わるとただ安堵しているわけにはいかない.「負の遺産」からの脱却,法律や経済はじめ色々な領域で不可逆的とも思えるほどに変えられてしまったものを回復するには,時間と努力が必要だと思うからだ.「暗黒化」としてジェイコブズが挙げた高等教育,科学,政府,専門倫理の劣化なども,こわいほどあてはまる.

 もともとヘイトと「外敵の脅威」を煽り,分断した社会を足場に成り立ってきた政権である.社会の亀裂を直し,公共的領域を立て直すための長い闘いが待っているとみなければならない.

 今月の特集は,このところ活気づいているメディアへの咤激励企画でもある.忖度から脱する,事実を掘り起し報道する,当たり前のことの強さを再認識した.

 これら大手メディアはほとんど報じなかったが,公共的領域を取り戻す小さな,しかし大事な一歩として,「種子法」復活に向けた動きを位置づけたい.

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