「意味」や「価値」は誰のもの?

『新版 アフォーダンス』』

(佐々木正人 著)

 視覚の幾何光学的な説明をもとに作り出された認識理論は,特化したチャンネルである諸受容器からの刺激を中枢器官としての脳が処理し外界の像を作り出し,それをもとに行動の指令を出すという人間像を作り出しました.しかしそのモデルでは,中枢器官が処理すべきデータが少なすぎたり多すぎたりして,たとえば座頭市の居合 抜きやイチローのスーパーキャッチで起こっている知覚と行為のありようを説明できないどころか,簡単なロボットを動かすこともできないと著者は指摘します.私たちに起こっていることは,脳が意味と行為の指示が与えるのではなく,体に備わったいくつかの知覚システムが環境から情報すなわち意味を受け取り,レベルに分かれて連結された諸システムが相互に制御しながらその意味に応じた行為を作り出すという事態だそうです.読み始めた最初のうちはとて も不思議な議論にみえますが,だんだんと「なぜそんなふうに考えるのか」,現実のロボット設計などの例も含めて,そうした考え方する必要性が見えてきます.環境は無数に多様な意味を私たちに向かって示しているのです.全体にわたって旧版を再点検して加筆しているので,旧版をお持ちの方が読んでも損をした気にはさせません.ギブソンの卓越したアイディアの核が背景をふくめてわかりやすく説明され,現実的な応用例なども示されています.

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