巻頭エッセイ(『科学』2021年2月号)

「ゼロコロナ」を目指せ

徳田安春 (とくだ やすはる 群星沖縄臨床研修センター長(臨床疫学))



 新型コロナ・パンデミックでは,各国政府の感染対策の違いが感染状況に大きく影響している。最も決定的な違いは目標設定であり,「ゼロコロナ」を目指すのか,「ウィズコロナ」とするのかである。

 ゼロコロナとは市中感染をなくすことであり,必ずしも陽性者ゼロを維持する必要はない。パンデミックでは,空港などでの水際で多少の陽性者は出るのが常であり,そこで捕捉できればよい。捕捉できなくても,集団感染が起きた地域で大規模検査を迅速に行い,感染源を保護隔離すればよいのだ。
一方,ウィズコロナ政策は,すでに経験してきたように副作用が大きい。個人の感染対策を強調するこの政策の下では,感染が個人の責任だという印象が植え付けられ,自業自得・誹謗中傷・自粛警察といった集団心理を生む。感染を隠す心理が働いて検査を受ける気がなくなり,一層の感染拡大を招いてしまう。必然的に経済はストップさせられる。

 コロナ対策が経済対策と相反するのではなく,ウィズコロナ政策が経済を止めてしまうのだ。ゼロコロナを目指した国々では,市中感染が収束し,社会活動は正常化しており,人々はコロナを忘れて生活を楽しんでいる。ゼロコロナの中国,台湾,オーストラリア,ニュージーランドなどの国にこそ注目すべきだ。学術論文でも,コロナをコントロールするための最も効果的で最も費用のかからない対策は,大規模検査と保護隔離であるとしている。出費が減るのは,一度ゼロコロナを達成すれば,水際作戦と市中でのサーベイランス検査を継続するだけでよくなるからだ。

 検査回数を増やした欧米で感染拡大したことをもって,検査拡充に効果なしとする論調があるが,こうした国々の目標はゼロコロナではなかった。検査・追跡・保護隔離の徹底の度合いが不足していた。検査拡充は,感染封じ込めのための必要条件であり,十分条件ではない。逆命題は必ずしも真ではないのだ。欧米を例に検査拡充に効果なしとするのは,この論理を取り違えている。

 中国はゼロコロナを目指し,ロックダウンと,徹底した大規模PCR検査による保護隔離,水際作戦の三大介入により,数週間でゼロコロナを達成した。西太平洋諸国の多くはこのシンプルな介入方法を迅速に習得し実行した。実は2020年3月の時点でWHOは,封じ込めは可能だと言っていた。それを取り入れなかった欧米や日本の戦略は破綻した。

 ウィズコロナのような緩和策というのは,もともと新型インフルエンザに対してシミュレーションされていた戦略だった。インフルエンザは実効再生産数が高く,封じ込めができないからだ。コロナを封じ込めた国では,人々はマスクから解放され,社会経済活動は通常に回り,学校も開いている。日本は,世界の成功モデルから学ぶべきだ。
(談。具体的な検査法の提案について述べる今号本文記事に続く)

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