ボブ・ディラン 著、佐藤良明 訳『ソングの哲学』刊行のお知らせ

 ディランという人間は、有名な割に知られていないと思う。アメリカという国もだ。これは両者の内奥へ、読者を導く本である。

──佐藤良明

 >>佐藤良明氏による各曲解説はこちら


ボブ・ディラン 著,佐藤良明 訳『ソングの哲学』刊行のお知らせ|岩波書店
Courtesy of the author

 ディランが66の曲を選びポピュラー音楽の奥義を明かす。詞の世界にきみを導く抒情的散文、社会や制度に切り込む精緻な楽曲分析、150点余の豊富な図版──突っ走る詩人/世界的な文学者による音楽批評の到達点。神秘的にして闊達自在、辛辣にして深遠。アメリカの内奥に分け入り、うたのなかに存在の意味、時の超越を透かし見る。

■内容紹介
ボブ・ディラン 著,佐藤良明 訳『ソングの哲学』刊行のお知らせ|岩波書店 02
『ソングの哲学』
 ボブ・ディラン 著 , 佐藤良明 訳

 2023年4月13日発売
 A5変 上製 352ページ オールカラー
 定価:4,180円
 ISBN:978-4-00-023746-8

 『自伝』以来18年ぶりの、ノーベル賞受賞後初の著書。

 2010年から取り組んできた本書は、ポピュラー音楽に対するディランの飛び抜けた洞察力の賜物である。スティーヴン・フォスターからエルヴィス・コステロ、ハンク・ウィリアムズからニーナ・シモンに至る多種多彩な66曲を取り上げ、安易な押韻の罠について、余計な一音節がもたらす破滅について説き、ブルーグラスとヘビーメタルの類縁性まで明かしてくれる。文章は独特なディラン流。神秘的にして闊達自在、辛辣にして深遠、時に腹の皮がよじれるほど愉快だ。表面上は音楽の話であるのに、人間存在に関する深い考察を含んでいる。150点余の精選された図版が、本文から抜粋された夢のようなリフのシリーズと相まって、叙事詩にも似た超越性を醸し出す。

 2020年に傑作『ラフ&ロウディ・ウェイズ』を発表したディランは1960年代以降、すべての年代ディケ-ド)でヒットを飛ばす存在だが、ディランが長年のあいだ培った技術の粋が詰め込まれた本書は、その音楽活動にも比肩する、とてつもない芸術的達成だ。

■目次
  • デトロイト・シティ──ボビー・ベア
  • パンプ・イット・アップ──エルヴィス・コステロ
  • ウィズアウト・ア・ソング──ペリー・コモ
  • この悪の園から連れ出してくれテイク・ミー・フロム・ディス・ガーデン・オブ・イーヴル──ジミー・ウェイジズ
  • そこにグラスがあるゼア・スタンズ・ザ・グラス──ウェブ・ピアス
  • 放浪ジプシーのウィリーと俺ウィリー・ザ・ワンダリング・ジプシー・アンド・ミー──ビリー・ジョー・シェイヴァー
  • トゥッティ・フルッティ──リトル・リチャード
  • マネー・ハニー──エルヴィス・プレスリー
  • マイ・ジェネレーション──ザ・フー
  • ジェシー・ジェイムズ──ハリー・マクリントック
  • プア・リトル・フール──リッキー・ネルソン
  • パンチョとレフティ──ウィリー・ネルソン&マール・ハガード
  • ザ・プリテンダー──ジャクソン・ブラウン
  • マック・ザ・ナイフ──ボビー・ダーリン
  • ウィッフェンプーフ・ソング──ビング・クロスビー
  • ユー・ドント・ノウ・ミー──エディー・アーノルド
  • 膨れ上がる混乱ボール・オブ・コンフュージョン)──テンプテーションズ
  • ポイズン・ラヴ──ジョニーとジャック
  • ビヨンド・ザ・シー──ボビー・ダーリン
  • オン・ザ・ロード・アゲン──ウィリー・ネルソン
  • 二人の絆──ハロルド・メルヴィン&ザ・ブルー・ノーツ
  • 泣いた白いちぎれ雲ザ・リトル・ホワイト・クラウド・ザット・クライド)── ジョニー・レイ
  • エル・パソ──マーティ・ロビンズ
  • ネリー・ワズ・ア・レディー──アルヴィン・ヤングブラッド・ハート
  • 別れないのが安上がりチーパー・トゥ・キープ・ハー)──ジョニー・テイラー
  • アイ・ガット・ア・ウーマン──レイ・チャールズ
  • CIAマン──ザ・ファッグス
  • 君住む街角──ヴィック・ダモーン
  • トラッキン──グレイトフル・デッド
  • ルビー、怒ったのかアー・ユー・マッド)?──オズボーン・ブラザーズ
  • オールド・バイオリン──ジョニー・ペイチェック
  • ヴォラーレ──ドメニコ・モドゥーニョ
  • ロンドン・コーリング ──ザ・クラッシュ
  • ユア・チーティン・ハート──ハンク・ウィリアムズwithドリフティング・カウボーイズ
  • ブルー・バイユー──ロイ・オービソン
  • ミッドナイト・ライダー──オールマン・ブラザーズ・バンド
  • ブルー・スエード・シューズ──カール・パーキンス
  • マイ・プレイヤー──ザ・プラターズ
  • ダーティ・ライフ・アンド・タイムズ──ウォーレン・ジヴォン
  • もう痛まないダズント・ハート・エニーモア)──ジョン・トルーデル
  • キー・トゥ・ザ・ハイウェイ──リトル・ウォルター
  • みんな慈悲を叫び求めるエヴリバディ・クライン・マーシー)──モーズ・アリソン
  • 黒い戦争──エドウィン・スター
  • ビッグ・リバー──ジョニー・キャッシュ&ザ・テネシー・トゥー
  • フィール・ソー・グッド──ソニー・バージェス
  • ブルー・ムーン──ディーン・マーティン
  • 悲しきジプシー──シェール
  • 俺のフライパンはいつも料理と油だらけキープ・マイ・スキレット・グッダングリージー)

    ──アンクル・デイヴ・メイコン
  • 恋のゲーム──トミー・エドワーズ
  • ある女ア・サートゥン・ガール)──アーニー・ケイドー
  • 俺はいつもイカレていたアイヴ・オールウェイズ・ビン・クレイジー)──ウェイロン・ジェニングス
  • 魔女のささやき──イーグルス
  • ビッグ・ボス・マン──ジミー・リード
  • のっぽのサリー──リトル・リチャード
  • 老いて迷惑なばかりオールド・アンド・オンリー・イン・ザ・ウェイ)──チャーリー・プール
  • ブラック・マジック・ウーマン──サンタナ
  • フェニックスに着くころにバイ・ザ・タイム・アイ・ゲット・トゥ・フェニックス)──ジミー・ウェッブ
  • 家へおいでよカモンナ・マイ・ハウス)──ローズマリー・クルーニー
  • 銃は街に持っていかずにドント・テイク・ユア・ガンズ・トゥ・タウン)──ジョニー・キャッシュ
  • 降っても晴れても──ジュディ・ガーランド
  • 悲しき願い──ニーナ・シモン
  • 夜のストレンジャー──フランク・シナトラ
  • ラスヴェガス万才──エルヴィス・プレスリー
  • サタデイ・ナイト・アット・ザ・ムーヴィーズ──ザ・ドリフターズ
  • 腰まで泥まみれ──ピート・シーガー
  • どこなのか、いつなのかホェア・オア・ホェン)──ディオン
■訳者・佐藤良明氏による解説

ソングの大家が語るソング論。

 ここに開示されるのはディランの、長いうた人生の中で醸造された、独特なコクと香りを持つ哲学である。原題はThe Philosophy of Modern Song。songという英語は、古代中世の詩歌を含むので、本書で扱う「うた」を絞り込むのに、modernを付ける必要があった。が、日本語の「ソング」には、万葉の詩歌も中世の謡曲も含まれない。過去100年ほどの西洋の、あらゆるジャンルのうたを指すのに最適な語は何かと熟考した末、邦題を「ソングの哲学」とした。

 登場する最古参はスティーヴン・フォスターで、最若手が多分エルヴィス・コステロ。66の他人の楽曲を乗っ取って、それをディランが操縦する。詩人特有の誇張法によって、強引に膨らまし、うたの「はらわた」まで見せてしまう。フェアなやり方とは言えないが、手口は高級で、ディラン自身の声はしっかり伝わってくる。それがA面。B面(各章の後半)はカメラを引いて、背景の人生や文化が語られる。闊達自在、時に「政治的な正しさ」などお構いなしに突っ走る。さすがにこれはまずくないか、と思う発言もあるが、本書内でディランが述べるとおり、マネーが同意を求めるところに疑義を挟むのがアーティストの仕事であるなら、これでいいのだろう。

 健やかな毒気をもって、いまの時代を覆うきれい事(ポップソングを含む)の数々を斬る。依拠するところは、うたにこもる民衆のコモンセンスと、かつて偉大だったと著者が信じるアメリカ文化(特に映画)のありようだ。が、その語りは一筋縄ではいかない。

 たとえばカントリーの懐メロを取り上げて、その上にヴェトナムの悪夢を塗り重ねる。モータウンの〈黒い戦争〉に乗じて、自らの若き日の〈戦争の親玉〉の発展版ともいうべき、成熟した戦争論を語る。ピート・シーガーに敬礼しつつ、それに勝る共感と弔意を、先住民活動家ジョン・トルーデルに捧げる。

 レノン=マッカートニーは相手にせず、ブライアン・ウィルソンなどは名前も出ないソング論だが、グレイトフル・デッドに関する綿密な分析を読めば、排除の理由は明らかだろう。ディランの軸足はつねに、カントリーとブルースと、そのルーツにあった。ルーツから華を──プレスリーやジョニー・キャッシュやロイ・オービソンを──引き出したサム・フィリップスらの仕掛け人に、本書は最大の信頼を寄せている。そしてもちろん、ハンク・ウィリアムズ、ウィリー・ネルソン、ジミー・リード、ライ・クーダーら本物の業師たちに。人種もジャンルも、見てくれにすぎない。ソングの本質は、ハートと同じく、単純で簡素なところにあることを繰り返し知らしめる。

 一方で、少年時代のボブにラジオから歌いかけていたシナトラやディーン・マーティン、そして同世代に近いボビー・ダーリンやリッキー・ネルソンらにまつわる、時に苦み走ったエピソードも、本書に独特の読み応えを添えている。

 嘆きもあれば教訓もある、冗談も放談もある。いろいろあって、それらを十分に楽しむには、相当の知識が求められるが、版元にお願いして、補注をWebサイトに載せていただく(近日掲載予定)。ディランという人間は、有名な割に知られていないと思う。アメリカという国もだ。これは両者の内奥へ、読者を導く本である。

佐藤良明(フリーランス研究者)
主訳書:ボブ・ディラン『The Lyrics』(全2巻)、トマス・ピンチョン『重力の虹』(全2巻)、グレゴリー・ベイトソン『精神の生態学へ』(全3巻、近日刊行)。

(2023.3.15 更新)

 >>ボブ・ディラン『ソングの哲学』訳者・佐藤良明氏による各曲解説

■来日情報
ボブ・ディラン
"ROUGH AND ROWDY WAYS"
WORLD WIDE TOUR 2021 - 2024

 パンデミックを乗り越え、ボブ・ディラン緊急来日! 初来日から45周年……ノーベル文学賞受賞後初の日本ツアーが遂に決定!

詳細はこちら
https://www.livenation.co.jp/bobdylan2023

■来日記念盤
ボブ・ディラン『流行歌集』 The Essential Bob Dylan

ボブ・ディラン『流行歌集』
The Essential Bob Dylan

発売日|2023年4月5日
価格|3,000円(税込)
解説・歌詞・対訳付
Blu-spec CD2
2枚組(SICP-31623~4)

詳細はこちら
https://www.110107.com/s/oto/page/dylan_essential

<DISC 1>

  1. 風に吹かれて
  2. くよくよするなよ
  3. 時代は変る 
  4. 悲しきベイブ
  5. マギーズ・ファーム
  6. イッツ・オール・オーバー・ナウ、ベイビー・ブルー
  7. ミスター・タンブリン・マン
  8. サブタレニアン・ホームシック・ブルース
  9. ライク・ア・ローリング・ストーン
  10. 寂しき4番街
  11. アイ・ウォント・ユー
  12. 女の如く
  13. 雨の日の女
  14. 見張塔からずっと
  15. レイ・レディ・レイ
  16. イフ・ナット・フォー・ユー
  17. どこにも行けない
  18. アイ・シャル・ビー・リリースト
  19. 天国への扉
  20. ブルーにこんがらがって
  21. いつまでも若く

<DISC 2>

  1. 嵐からの隠れ場所
  2. ハリケーン
  3. ガッタ・サーヴ・サムバディ
  4. ザ・グルームズ・スティル・ウェイティング・アット・ザ・オルター
  5. ジョーカーマン
  6. エヴリシング・イズ・ブロークン
  7. ブラインド・ウィリー・マクテル
  8. ノット・ダーク・イェット
  9. メイク・ユー・フィール・マイ・ラヴ
  10. ディグニティ
  11. シングス・ハヴ・チェンジド
  12. ミシシッピ
  13. サンダー・オン・ザ・マウンテン
  14. ホエン・ザ・ディール・ゴーズ・ダウン
  15. ビヨンド・ヒア・ライズ・ナッシン

カテゴリ別お知らせ

ページトップへ戻る