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ボブ・ディラン 著、佐藤良明 訳『ソングの哲学』刊行のお知らせ
ディランという人間は、有名な割に知られていないと思う。アメリカという国もだ。これは両者の内奥へ、読者を導く本である。
──佐藤良明
ディランが66の曲を選びポピュラー音楽の奥義を明かす。詞の世界にきみを導く抒情的散文、社会や制度に切り込む精緻な楽曲分析、150点余の豊富な図版──突っ走る詩人/世界的な文学者による音楽批評の到達点。神秘的にして闊達自在、辛辣にして深遠。アメリカの内奥に分け入り、うたのなかに存在の意味、時の超越を透かし見る。
『ソングの哲学』 ボブ・ディラン 著 , 佐藤良明 訳 2023年4月13日発売 |
『自伝』以来18年ぶりの、ノーベル賞受賞後初の著書。
2010年から取り組んできた本書は、ポピュラー音楽に対するディランの飛び抜けた洞察力の賜物である。スティーヴン・フォスターからエルヴィス・コステロ、ハンク・ウィリアムズからニーナ・シモンに至る多種多彩な66曲を取り上げ、安易な押韻の罠について、余計な一音節がもたらす破滅について説き、ブルーグラスとヘビーメタルの類縁性まで明かしてくれる。文章は独特なディラン流。神秘的にして闊達自在、辛辣にして深遠、時に腹の皮がよじれるほど愉快だ。表面上は音楽の話であるのに、人間存在に関する深い考察を含んでいる。150点余の精選された図版が、本文から抜粋された夢のようなリフのシリーズと相まって、叙事詩にも似た超越性を醸し出す。
2020年に傑作『ラフ&ロウディ・ウェイズ』を発表したディランは1960年代以降、すべての年代でヒットを飛ばす存在だが、ディランが長年のあいだ培った技術の粋が詰め込まれた本書は、その音楽活動にも比肩する、とてつもない芸術的達成だ。
- デトロイト・シティ──ボビー・ベア
- パンプ・イット・アップ──エルヴィス・コステロ
- ウィズアウト・ア・ソング──ペリー・コモ
- この悪の園から連れ出してくれ──ジミー・ウェイジズ
- そこにグラスがある──ウェブ・ピアス
- 放浪ジプシーのウィリーと俺──ビリー・ジョー・シェイヴァー
- トゥッティ・フルッティ──リトル・リチャード
- マネー・ハニー──エルヴィス・プレスリー
- マイ・ジェネレーション──ザ・フー
- ジェシー・ジェイムズ──ハリー・マクリントック
- プア・リトル・フール──リッキー・ネルソン
- パンチョとレフティ──ウィリー・ネルソン&マール・ハガード
- ザ・プリテンダー──ジャクソン・ブラウン
- マック・ザ・ナイフ──ボビー・ダーリン
- ウィッフェンプーフ・ソング──ビング・クロスビー
- ユー・ドント・ノウ・ミー──エディー・アーノルド
- 膨れ上がる混乱──テンプテーションズ
- ポイズン・ラヴ──ジョニーとジャック
- ビヨンド・ザ・シー──ボビー・ダーリン
- オン・ザ・ロード・アゲン──ウィリー・ネルソン
- 二人の絆──ハロルド・メルヴィン&ザ・ブルー・ノーツ
- 泣いた白いちぎれ雲── ジョニー・レイ
- エル・パソ──マーティ・ロビンズ
- ネリー・ワズ・ア・レディー──アルヴィン・ヤングブラッド・ハート
- 別れないのが安上がり──ジョニー・テイラー
- アイ・ガット・ア・ウーマン──レイ・チャールズ
- CIAマン──ザ・ファッグス
- 君住む街角──ヴィック・ダモーン
- トラッキン──グレイトフル・デッド
- ルビー、怒ったのか?──オズボーン・ブラザーズ
- オールド・バイオリン──ジョニー・ペイチェック
- ヴォラーレ──ドメニコ・モドゥーニョ
- ロンドン・コーリング ──ザ・クラッシュ
- ユア・チーティン・ハート──ハンク・ウィリアムズwithドリフティング・カウボーイズ
- ブルー・バイユー──ロイ・オービソン
- ミッドナイト・ライダー──オールマン・ブラザーズ・バンド
- ブルー・スエード・シューズ──カール・パーキンス
- マイ・プレイヤー──ザ・プラターズ
- ダーティ・ライフ・アンド・タイムズ──ウォーレン・ジヴォン
- もう痛まない──ジョン・トルーデル
- キー・トゥ・ザ・ハイウェイ──リトル・ウォルター
- みんな慈悲を叫び求める──モーズ・アリソン
- 黒い戦争──エドウィン・スター
- ビッグ・リバー──ジョニー・キャッシュ&ザ・テネシー・トゥー
- フィール・ソー・グッド──ソニー・バージェス
- ブルー・ムーン──ディーン・マーティン
- 悲しきジプシー──シェール
- 俺のフライパンはいつも料理と油だらけ──アンクル・デイヴ・メイコン
- 恋のゲーム──トミー・エドワーズ
- ある女──アーニー・ケイドー
- 俺はいつもイカレていた──ウェイロン・ジェニングス
- 魔女のささやき──イーグルス
- ビッグ・ボス・マン──ジミー・リード
- のっぽのサリー──リトル・リチャード
- 老いて迷惑なばかり──チャーリー・プール
- ブラック・マジック・ウーマン──サンタナ
- フェニックスに着くころに──ジミー・ウェッブ
- 家へおいでよ──ローズマリー・クルーニー
- 銃は街に持っていかずに──ジョニー・キャッシュ
- 降っても晴れても──ジュディ・ガーランド
- 悲しき願い──ニーナ・シモン
- 夜のストレンジャー──フランク・シナトラ
- ラスヴェガス万才──エルヴィス・プレスリー
- サタデイ・ナイト・アット・ザ・ムーヴィーズ──ザ・ドリフターズ
- 腰まで泥まみれ──ピート・シーガー
- どこなのか、いつなのか──ディオン
ソングの大家が語るソング論。
ここに開示されるのはディランの、長いうた人生の中で醸造された、独特なコクと香りを持つ哲学である。原題はThe Philosophy of Modern Song。songという英語は、古代中世の詩歌を含むので、本書で扱う「うた」を絞り込むのに、modernを付ける必要があった。が、日本語の「ソング」には、万葉の詩歌も中世の謡曲も含まれない。過去100年ほどの西洋の、あらゆるジャンルのうたを指すのに最適な語は何かと熟考した末、邦題を「ソングの哲学」とした。
登場する最古参はスティーヴン・フォスターで、最若手が多分エルヴィス・コステロ。66の他人の楽曲を乗っ取って、それをディランが操縦する。詩人特有の誇張法によって、強引に膨らまし、うたの「はらわた」まで見せてしまう。フェアなやり方とは言えないが、手口は高級で、ディラン自身の声はしっかり伝わってくる。それがA面。B面(各章の後半)はカメラを引いて、背景の人生や文化が語られる。闊達自在、時に「政治的な正しさ」などお構いなしに突っ走る。さすがにこれはまずくないか、と思う発言もあるが、本書内でディランが述べるとおり、マネーが同意を求めるところに疑義を挟むのがアーティストの仕事であるなら、これでいいのだろう。
健やかな毒気をもって、いまの時代を覆うきれい事(ポップソングを含む)の数々を斬る。依拠するところは、うたにこもる民衆のコモンセンスと、かつて偉大だったと著者が信じるアメリカ文化(特に映画)のありようだ。が、その語りは一筋縄ではいかない。
たとえばカントリーの懐メロを取り上げて、その上にヴェトナムの悪夢を塗り重ねる。モータウンの〈黒い戦争〉に乗じて、自らの若き日の〈戦争の親玉〉の発展版ともいうべき、成熟した戦争論を語る。ピート・シーガーに敬礼しつつ、それに勝る共感と弔意を、先住民活動家ジョン・トルーデルに捧げる。
レノン=マッカートニーは相手にせず、ブライアン・ウィルソンなどは名前も出ないソング論だが、グレイトフル・デッドに関する綿密な分析を読めば、排除の理由は明らかだろう。ディランの軸足はつねに、カントリーとブルースと、そのルーツにあった。ルーツから華を──プレスリーやジョニー・キャッシュやロイ・オービソンを──引き出したサム・フィリップスらの仕掛け人に、本書は最大の信頼を寄せている。そしてもちろん、ハンク・ウィリアムズ、ウィリー・ネルソン、ジミー・リード、ライ・クーダーら本物の業師たちに。人種もジャンルも、見てくれにすぎない。ソングの本質は、ハートと同じく、単純で簡素なところにあることを繰り返し知らしめる。
一方で、少年時代のボブにラジオから歌いかけていたシナトラやディーン・マーティン、そして同世代に近いボビー・ダーリンやリッキー・ネルソンらにまつわる、時に苦み走ったエピソードも、本書に独特の読み応えを添えている。
嘆きもあれば教訓もある、冗談も放談もある。いろいろあって、それらを十分に楽しむには、相当の知識が求められるが、版元にお願いして、補注をWebサイトに載せていただく(近日掲載予定)。ディランという人間は、有名な割に知られていないと思う。アメリカという国もだ。これは両者の内奥へ、読者を導く本である。
佐藤良明(フリーランス研究者)
主訳書:ボブ・ディラン『The Lyrics』(全2巻)、トマス・ピンチョン『重力の虹』(全2巻)、グレゴリー・ベイトソン『精神の生態学へ』(全3巻、近日刊行)。
(2023.3.15 更新)
>>ボブ・ディラン『ソングの哲学』訳者・佐藤良明氏による各曲解説
ボブ・ディラン "ROUGH AND ROWDY WAYS" WORLD WIDE TOUR 2021 - 2024 |
パンデミックを乗り越え、ボブ・ディラン緊急来日! 初来日から45周年……ノーベル文学賞受賞後初の日本ツアーが遂に決定!
詳細はこちら
https://www.livenation.co.jp/bobdylan2023
ボブ・ディラン『流行歌集』 発売日|2023年4月5日 |
詳細はこちら
https://www.110107.com/s/oto/page/dylan_essential
<DISC 1>
- 風に吹かれて
- くよくよするなよ
- 時代は変る
- 悲しきベイブ
- マギーズ・ファーム
- イッツ・オール・オーバー・ナウ、ベイビー・ブルー
- ミスター・タンブリン・マン
- サブタレニアン・ホームシック・ブルース
- ライク・ア・ローリング・ストーン
- 寂しき4番街
- アイ・ウォント・ユー
- 女の如く
- 雨の日の女
- 見張塔からずっと
- レイ・レディ・レイ
- イフ・ナット・フォー・ユー
- どこにも行けない
- アイ・シャル・ビー・リリースト
- 天国への扉
- ブルーにこんがらがって
- いつまでも若く
<DISC 2>
- 嵐からの隠れ場所
- ハリケーン
- ガッタ・サーヴ・サムバディ
- ザ・グルームズ・スティル・ウェイティング・アット・ザ・オルター
- ジョーカーマン
- エヴリシング・イズ・ブロークン
- ブラインド・ウィリー・マクテル
- ノット・ダーク・イェット
- メイク・ユー・フィール・マイ・ラヴ
- ディグニティ
- シングス・ハヴ・チェンジド
- ミシシッピ
- サンダー・オン・ザ・マウンテン
- ホエン・ザ・ディール・ゴーズ・ダウン
- ビヨンド・ヒア・ライズ・ナッシン