原発賠償を問う

曖昧な責任,翻弄される避難者

原発事故で避難を強いられている人たちの実態を追いながら,賠償の仕組みと問題点,あるべき補償のかたちを問う.

原発賠償を問う
著者 除本 理史
通し番号 866
ジャンル 書籍 > 岩波ブックレット
日本十進分類 > 社会科学
刊行日 2013/03/06
ISBN 9784002708669
Cコード 0336
体裁 A5 ・ 並製 ・ 64頁
定価 550円
在庫 在庫あり
福島原発事故を引き起こした東京電力はなぜ破産しないのか.国策として原発を推進してきた政府の責任とは.故郷や仕事を奪われ,苦悩する避難者たちの実態を追いながら,現在進められている賠償の仕組み,その問題点をわかりやすく解説.水俣問題など,過去の公害事件の教訓を生かし,あるべき補償のかたちを具体的に提言する.

■編集部からのメッセージ

 原発事故による深刻な放射能汚染を引き起こした東京電力は,当然,原発事故の被災者らに賠償を支払わなければなりません.巨額の損害を負った東電は,実質的に経営破綻の状態にあります.にもかかわらず,賠償を支払うにあたり東電が自らの資産を全部吐き出すような破綻処理は行われませんでした.
 それどころか,東電を支えてきた株主,債権者も応分の負担を免れ,国による資本注入と電気料金の値上げによって補償が進められています.しかも,被災者に対する補償の範囲を,加害者である東電自らが決定するという理不尽なことまで行われています.
 一方,国策として原発政策を進めてきた政府は,自らの責任の所在を曖昧にしたままです.そのことが,国の原発やエネルギー政策の方針の曖昧さにもつながっています.
 なぜ,このような歪んだ賠償システムが構築されてしまったのでしょうか.このブックレットでは,現在進められている原発事故の賠償の仕組み,その問題点などを,わかりやすく解説.水俣病など過去の公害事件の教訓を活かしつつ,東電や国の責任とは何か,補償はどうあるべきか,について具体的に提言しています.
 著者の除本理史さんは,震災後,被災地の現地調査,避難者たちの聞きとりなどを熱心に続けています.このブックレットでは,ふるさとや仕事を奪われ,将来の見通しも立たたず苦悩する避難者たちの実態などについても,詳しく報告しています.こうした避難者たちの生活を追い詰めているのが,東電・国による理不尽な補償システムといえるでしょう.
 担当編集者である私も,これまで何度となく,福島や東京で,原発事故の避難者の方々の声を聞く機会をもちました.東京に電力を送るための原発が爆発し,過酷な現実を強いられている彼らの真剣な言葉に向き合うことこそが,自分も含めたこの国が抱える問題の深層に触れることではないかと,話を聞くたびに感じます.
 原発事故は何をもたらしたのか.そして,今後のエネルギー政策はどうあるべきか.そうしたことを考えるうえでも,ぜひ多くの方に読んでいただきたい一冊です.
(編集部・田中宏幸)
除本理史(よけもと・まさふみ)
大阪市立大学大学院経営学研究科准教授.1971年,神奈川県生まれ.一橋大学大学院経済学研究科博士課程単位取得.一橋大学博士(経済学).環境政策論,環境経済学を専攻.著書に『環境被害の責任と費用負担』(有斐閣,2007年),『環境再生のまちづくり――四日市から考える政策提言』(共編著,ミネルヴァ書房,2008年),『環境の政治経済学』(共著,ミネルヴァ書房,2010年),『原発事故の被害と補償――フクシマと「人間の復興」』(共著,大月書店,2012年),『西淀川公害の40年――維持可能な環境都市をめざして』(共編著,ミネルヴァ書房,2013年)など.

書評情報

全国商工新聞 2013年6月17日号
しんぶん赤旗 2013年4月20日
聖教新聞 2013年4月16日
週刊金曜日 2013年4月12日号
ページトップへ戻る