生命の政治学

福祉国家・エコロジー・生命倫理

社会保障,環境政策,生命倫理――従来は別個の課題を統合的に考察し,新たな人間理解と社会構想を示す.

生命の政治学
著者 広井 良典
通し番号 学術324
ジャンル 書籍 > 岩波現代文庫 > 学術
日本十進分類 > 社会科学
刊行日 2015/02/17
ISBN 9784006003241
Cコード 0136
体裁 A6 ・ 並製 ・ カバー ・ 328頁
在庫 品切れ
従来,別個に論じられてきた,福祉国家・社会保障,環境政策,生命科学・生命倫理上の諸課題を,社会システムという観点から統合的に考察することで,ライフ=生命/生活を貫く,新しい人間理解の視座を提示する.国際比較を交え,サイエンスとケアを媒介した臨床的次元も織り込んで,「定常型社会」の構想を確かに進める.


■本書の内容―「はじめに」の冒頭をご紹介します
 本書は,「生命」ということを中心的なコンセプトにすえて,これからの時代の社会構想あるいはそこで行われるべき基本的な価値選択について,その基礎となるような枠組みや考えの道筋を明らかにすることを目的とするものである.
 現代という時代において,あるいはこれからの時代の社会の構想において,特に本質的な意味をもつ三つの問題領域があると思われる.それは,
  (a)福祉国家あるいは(医療・福祉などを含む)社会保障に関わる分野
  (b)エコロジーあるいは環境政策/環境政治に関わる分野
  (c)生命倫理あるいは(生命)科学と人間との関係に関わる分野
という三つの領域だ.ところがこれらの領域は,日本のアカデミズムの強固な縦割り性も手伝って,それぞれが個別ばらばらに論じられており,それらが互いにどのような関係をもつのか,そしてまた,これらの領域の全体を視野に収めた上でのこれからの時代のトータルな社会構想や,そこでの価値判断の枠組みはどのようなものであるべきかといった(もっとも本質的な)問いが正面から問われないまま今日に至っている.本書で「問い」として浮かび上がらせ追求していきたいのは,こうしたテーマに他ならない.
 この場合,内容的な掘り下げに入っていく前に,上記の(a)から(c)の領域に通底するコンセプトがあるとすれば,それは(広義の)「生命」という概念ではないかと思われる.
 ここでいう「生命」とは,(「生命科学」といった用語に示されるような)狭義のものではなく,英語の「Life」という語がそうであるように,「生活」という意味を含んでのそれである.このようにとらえれば,上記三つの問題領域――福祉・環境・生命倫理――を横断するコンセプトとして「生命/生活」があるということは比較的容易に理解されるだろうし,さらに言えば,そもそも「生命」と「生活」という二つの概念は,本来は一体的なものとして考えられるべきものではないだろうか.社会との関わりを含んだ具体的な「生活」への視点なしに理念的に「生命」を論じるだけでは一面的であるし,逆に「生命」ということについての洞察ぬきに「生活」を論じても表層的なものに終わってしまうと思えるからである.こうしたところにも,「福祉国家」と「エコロジー」と「生命倫理」を統合的なパースペクティブの中で論じることの意味の一端があると筆者は考えている.
はじめに

第Ⅰ部 社会システム
第1章 生命科学の政治学――「生命倫理」を超えて
1 「科学国家」と「福祉国家」
2 生命科学研究と政治哲学
【インターミッション・1】「安全保障」より「社会保障」を
第2章 福祉国家の接近と多様化――「持続可能な福祉国家/福祉社会」へ
1 福祉国家モデルのダイナミクス
2 家族・雇用・時間
3 持続可能な福祉国家/福祉社会
【インターミッション・2】宗教と福祉国家

第Ⅱ部 ケア/生命
第3章 ケアをめぐるクロス・オーバー――サイエンスとケアの接点
1 医療における心理的・社会的サポート
2 自然との関わりを通じたケア
【インターミッション・3】フィンランドの「サイレンス」
第4章 自然のスピリチュアリティ――エコロジーの再定義
【インターミッション・4】アメリカとヨーロッパ

第Ⅲ部 生命の政治学
第5章 生命の政治学のために
1 新しい座標軸
2 福祉国家・エコロジー・生命倫理
【インターミッション・5】「日米同盟」を問いなおすとき
第6章 定常型社会へ
1 経済システムの進化
2 定常型社会における政治哲学
3 政策統合と科学の変容

参考文献
あとがき
広井良典(ひろい・よしのり)
1961年岡山県生まれ.東京大学教養学部卒(科学史・科学哲学専攻),同大学院総合文化研究科修士課程修了.現在千葉大学法政経学部教授.この間マサチューセッツ工科大学(MIT)客員研究員.専攻は公共政策及び科学哲学.
著書に『日本の社会保障』(岩波新書,エコノミスト賞受賞),『定常型社会』(岩波新書),『グローバル定常型社会』(岩波書店),『脱「成長」戦略 新しい福祉国家へ』(橘木俊詔との共著,岩波書店),『ケア学』(医学書院),『コミュニティを問いなおす』(ちくま新書,大佛次郎論壇賞受賞),『人口減少社会という希望』(朝日新聞出版)ほか多数.
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