賀川豊彦

労働運動,平和運動の先駆者にして特異なキリスト者の賀川豊彦を近代思想史上に位置付けた画期的評伝.(解説=小林正弥)

賀川豊彦
著者 隅谷 三喜男
通し番号 社会230
ジャンル 書籍 > 岩波現代文庫 > 社会
日本十進分類 > 歴史/地理
刊行日 2011/10/14
ISBN 9784006032302
Cコード 0123
体裁 A6 ・ 260頁
在庫 品切れ
特異なキリスト者にして大ベストセラー『死線を越えて』の著者として知られる賀川豊彦(1888-1960)は,献身的な社会活動家として労働運動,農民運動,生協運動,平和運動の先駆者でもあった.きわめて多面におよぶが今や忘れられつつある彼の思想と行動を狭い枠から解放し,近代思想史上に位置付けた画期的評伝.(解説=小林正弥)

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近年,格差・貧困問題がクローズアップされるなか,賀川豊彦への注目が高まりつつあります.
 賀川は1888年神戸市生まれ.1903年賀川家破産,04年宣教師マヤスから洗礼を受ける.09年から米国留学の14年まで神戸のスラムで献身的な奉仕と伝道.19年鈴木文治らと友愛会関西労働同盟会を結成.20年『死線を越えて』が大ベストセラーとなり,印税を社会運動に寄付.同年,神戸購買組合(現・コープこうべ)を設立し,生協運動にも取り組む.21年川崎造船所・三菱造船所で大争議を指導するが敗北.急進的なサンディカリストに取って代わられたため,農民運動に転身.22年日本農民組合を結成.26年労働農民党結成に関わるが左右分裂に際して脱退.以後は伝道活動に重点をおく.――

かれが貧民窟で考え,行なったこと,労働運動のなかで主張し実行したこと,農民運動や協同組合運動のなかで展開したことは,それなりに時代的な意味をもっていたが,同時に時代的な制約を負っていた.それゆえに,後人によって乗り越されなければならなかったし,かれの主張はいつか敗れざるをえなかった.だが,今日冷静に考えてみるならば,賀川の主張のなかには時代をこえたより本質的なものも存在する.かれが叫んで止まなかった人間解放も,人間疎外の現代のなかにあって,改めて見直されて然るべきではなかろうか.
(本書「むすび」より)

 本書は戦後が扱われていないという難点があるものの,いまでも信頼できる賀川の評伝として価値が高いものです.このたびの文庫化によって,本書が広く読まれ,あらためて賀川が再評価されることを願います.
※本書は1966年日本基督教団出版部より,1995年岩波書店(同時代ライブラリー)より刊行された.
I 貧民の人格喪失とその回復
1 死線を越えて
2 「宇宙悪」の問題
3 社会悪との闘い
4 貧民心理の研究
5 貧民と労働者
6 人間性喪失と人間建築

II 労働者の抑圧とその解放
1 防貧策としての労働組合
2 労働運動の第一線へ
3 関西労働運動の指導者として
4 労働者解放の叫び

III 労働運動の展開とその分極化
1 議会主義をかかげて
2 関西労働者の先頭に立って
3 神戸川崎・三菱の大争議
4 労働運動との決別

IV 下層農民の窮迫とその解放
1 日本農民組合の結成
2 農民解放論
3 無産政党の分裂と協同組合への傾斜

V 日本社会の退廃と神の国運動
1 「神の国」運動への転進
2 「神の国」の実現
3 「宇宙の目的」

むすび
参考文献
略年譜
あとがき
あとがき 追記

解説     小林正弥
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