〈1冊でわかる〉シリーズ

知能

知能テストについて知っておくべき新常識.加齢の影響,遺伝や環境の影響などについて読み解く.

知能
著者 イアン・ディアリ , 繁桝 算男 , 松原 達哉 解説
ジャンル 書籍 > 単行本 > 〈1冊でわかる〉シリーズ
シリーズ 〈1冊でわかる〉シリーズ
刊行日 2004/12/10
ISBN 9784000268769
Cコード 0311
体裁 B6 ・ 並製 ・ カバー ・ 184頁
在庫 品切れ
知的な脳の働きをどうすれば捉えられるだろうか.知能テストの結果から見えてくることとは?知能には種類があるのか?年をとるとどう変化するのか?遺伝や環境の影響は?世に多数あるデータを孫引きして解釈に問題のある書とは異なり,研究を世界的に網羅し,原論文の資料をもとにした信頼できる読み解き.

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頭が良いとか悪いと言うその心の奥には,他人の頭脳との違いを知りたいとの思いがあるはず.知能テストは知能テストでしかなく,人間の知的な営みの一部しか捉えてはいない――そのとおり.でも知能テストの結果から言えることとは? 確かな情報にもとづいて一流の研究者が解説します.知能には種類があるのか? 年をとるとどう変化するのか? 遺伝や環境の影響は? じつは研究の世界ではほぼ共通の認識となっていることがあるのです.ただし,研究は集団を対象として行われており,個人について何か決定的なことが言えるわけではありません.創造性や実現に向けた意志の力が大切です.

■ちょっと立ち読み

本書は,実際に研究で得られたデータを中心に,知能についての心理学の成果を一般の人にわかりやすいように紹介する.これまでのところ,知能の個人差に関する理論の確証性は,物理学や化学のレベルには達していない.私たちは,なぜある人の頭脳が他の人の頭脳よりも優れているかを説明できるほど,脳の働きについての知識をもってはいないのである.とはいえ,知能の個人差について確立された事実は存在する.
(中略)
示したデータは,知能についてのきわめて興味深い疑問に答えるものである.その疑問とは,「知能にはどのような種類があるのか」「年齢を重ねると知能はどう変わるのか」「知能の個人差の由来は遺伝子にあるのか,それとも環境の影響によるのか」「知能は生きていくために本当に重要か」「知能はなぜ世代ごとに高くなっているのか」「心理学者の知能の捉え方は一致しているのか」などである.
(本書「はじめに」より)

 加齢にともなう知能の変化について,ここまでみてきた研究をまとめて,一般的な結論を導くことができる.年齢によって得点が変化しない知能テストと,年齢とともに低下する知能テストには,それぞれに共通の特徴がある.老年になっても良い成績をとることができるテストは,知識や教育経験に関連し,蓄積した知識から答えることのできるテストである.これは「結晶性」知能とよばれる知能であり,「結晶」の比喩は脳内に形成された知識の固い構造を表わすのに用いられている.これらのテストの代表例としては語彙テストがある.
 30代ですでに成績のピークを過ぎてしまうテストとしては,新しい刺激材料を用いて,制限時間内に柔軟な思考能力が試されるテストがある.これらの能力は「流動性」知能とよばれるが,これは現在の「脳力」を意味していると言える.
(本書第2章より)

 奇妙に思えるかもしれないが,年をとるにつれて,知能に対する遺伝の影響は強くなるようである.知能への遺伝要因の影響は,乳児から幼児においては20%から40%であるが,70代や80代では60%か,あるいはそれ以上の高い値になる.これを知ったときには,私の直感的理解に反すると感じた.長い人生において,教育や知識を蓄積し,また,外的な要因による脳の損傷などがあり,遺伝の影響はだんだん少なくなると思うのがふつうだろう.しかし,事実はそうではない.老年期において,知能に対する遺伝要因が非常に高いことを示した最初の研究は,驚くほどのニュース性をもっており,有名な科学雑誌『サイエンス』の巻頭論文となり,表紙に写真つきで目立つようにとりあげられた.
(本書第4章より)

 これらの例から,ホンツィクらは,次の2点が重要であると強調している.
・ 子どもの心理的機能の発達は,年齢によってかなり変化する.
・ 将来の地位の予測は,子どもの特殊な機能の発達(知能・学力・人格・その他の能力)を継続的に研究したとき,信頼性をもつ.
 図2は約200名の知能指数の変化の分布である.これをみると,2歳から18歳の間にIQは平均15~19も変化し,50以上変化している者さえ,少数だが存在する.ホンツィクは,このようなIQの変動について,その人の生活環境との関係を重視し,知能の測定値の変化は,両親の学歴や社会性経済性などによる家庭の知的水準によって方向づけられていく傾向があると指摘している.
(本書「知能の考え方の多様性と見方」より)



図2 2~18歳までの間のIQの変化の分布(松原達哉:0才からの知的教育.産心社,1995).


目次

はじめに
相関についてのごく簡単な説明
1 知能にはいくつの種類があるのだろうか
  ――“g”を見るべきか,見ざるべきか
2 加齢とともに知能はどう変化するか
3 脳力,能力?
  ――なぜ,ある人は他の人よりも賢いのだろうか
4 こうなったのも親のせいか
  ――知能の個人差を決めるのは環境か,遺伝か,あるいはその両方か
5 仕事への適性――知能は関与するか
6 IQの昇る国
  ――世代が進むにつれて知能は高くなっているのだろうか
7 知能の個人差は実在する
  ――11人の(12人はいない)怒れる(ほどでもない)男たち(と女たち)
今後の学習のための文献案内
知能の考え方の多様性と見方(松原達哉)
知能や創造性についての書籍紹介(松原達哉)
訳者あとがき



著者・訳者・解説者紹介

イアン・ディアリ(Ian J.Deary)
エディンバラ大学差異心理学教授.個人差を研究する国際的な研究団体の会長を務める.著書として,Looking down on Human Intelligence,Personality Traits(共著).

繁桝算男(しげます かずお)
1946年生.東京大学大学院総合文化研究科教授.専門は,心理測定,多変量解析,ベイズ統計学.著書として,『心理測定法』『意思決定の認知統計学』『ベイズ統計入門』ほか.

松原達哉(まつばら たつや)
1930年生.立正大学大学院心理学研究科教授.日本学術会議会員.専門は,臨床心理学,心理測定.編著書として,『知能の診断』『心理テスト法入門第4版』『臨床心理アセスメント』ほか.



11歳のときに受けたのと同じ知能調査を受けるために66年後に集ってきた,スコットランド知的能力検査1932の参加者.場所はアバディーンにあるミュージックホールで,時は1998年6月1日.(Courtesy of Aberdeen Press and Journal)



シアトル研究において得られた2つのテストの例.帰納推論(個別の事例から一般的規則を構成する)は30代から年齢とともに低下する.言語能力は加齢とともにあまり変化しない.ただし,他の知的能力のすべてが同様な年齢変化のパターンを示すわけではない.



ミネソタ研究に参加した双生児のうちの1組.(Photo: Tom K. Wanstall, Fire house magazine)



1997年6月6日号の科学雑誌『サイエンス』の表紙.ここでは老年期における双生児の知能に対する遺伝要因の強さが報告されている.((C)1997 American Association for the Advancement of Science)
イアン・ディアリ(Ian J.Deary)
エディンバラ大学差異心理学教授.個人差を研究する国際的な研究団体の会長を務める.著書として,Looking down on Human Intelligence,Personality Traits(共著).
繁桝算男(しげます かずお)
1946年生.東京大学大学院総合文化研究科教授.専門は,心理測定,多変量解析,ベイズ統計学.著書として,『心理測定法』『意思決定の認知統計学』『ベイズ統計入門』ほか.
松原達哉(まつばら たつや)
1930年生.立正大学大学院心理学研究科教授.日本学術会議会員.専門は,臨床心理学,心理測定.編著書として,『知能の診断』『心理テスト法入門第4版』『臨床心理アセスメント』ほか.
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