〈1冊でわかる〉シリーズ

テロリズム

テロリズムとはなにか? テロリズム研究の重要ポイントをあますところなく伝え,冷静に解説する.

テロリズム
著者 チャールズ・タウンゼンド , 宮坂 直史 訳・解説
ジャンル 書籍 > 単行本 > 〈1冊でわかる〉シリーズ
シリーズ 〈1冊でわかる〉シリーズ
刊行日 2003/09/05
ISBN 9784000268646
Cコード 0331
体裁 B6 ・ 並製 ・ カバー ・ 212頁
在庫 品切れ
テロリズムとはなにか? 戦争や犯罪とどう違うのか? テロリズムの動機は? 目的は? 効果は? テロリストはどんな人間か? テロにはどんな種類があるのか? どう対処したらよいのか? テロリズム研究の重要ポイントを網羅し,詳細な事例を豊富に織り込みながら,過去の教訓を踏まえて冷静沈着にテロリズムを解説する.

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ともすれば無限定的に都合よく使われてしまう「テロリズム」の概念.著者はこれを政治的行為として戦争や叛乱・犯罪など他の暴力から峻別し,テロリズムの本質を見極めようとする.また,現代テロリズムの主な事例をもれなく紹介,テロのプロセスや脅威を冷静な目で分析してテロ対策の首尾を検証する.テロリズム研究の重要ポイントと過去の教訓を伝えるとともに,綿々と続くテロリズムのダイナミズムをあざやかに図式化する試み.


■ちょっと立ち読み

テロリズムは人々を動揺させる.しかも計画的に動揺させる.それが重要な点であり,だからこそテロリズムは,この21世紀初頭に,これほどまでわれわれの注意を奪ってきたのである.人々の不安感はさまざまな形態をとるが,テロリズムほどわれわれの脆弱感をかくも鋭く揺さぶるものはない.9.11テロ後,われわれは明らかに果てのない恒常的な緊急事態,「テロとの戦い」のただ中におかれている.テロとの戦いは,テロリズムそれ自体と同じくらいに見通しが立たない.テロリズムは簡単に理解できるものではないし,テロ攻撃の直後はとりわけそうだ.社会が脅威を受けていると皆が感じているときに,テロを合理的に分析しようものなら,テロリストを支援しているのか,あるいはなだめたり同情しているのかと,あからさまな反発を受ける.だが冷静な分析の伴わないテロとの戦いは,不明確な脅威の中を迷走することになってしまう.テロリズムはときには合理的にみえるとはいえ,たしかに「常識」から外れるようなことも非常に多い.――正当化できないだけでなく,残虐で狂っていて,「理性のかけらもない」ものとして.
(本書第1章より)

 テロ行為は,より大きな軍事戦略あるいはゲリラ戦略の一つの要素,補助でもある.その場合のテロの目的は,「限定的」(報復,広報,政治的声明,囚人の釈放,少数民族の自治)になるだろう.他方で,テロの体系的な行使のみで政治目的を達成しようとする「絶対的」なものもある.「テロリズム」というレッテルを貼るのであれば,それはテロ行為それ自体ではなくて,大きな軍事戦略の中に位置づけられないこの絶対的で,独立したテロ戦略に対してである.このようなテロには独自の論理があり,19世紀に遡ってみることができる.それがはじめに明確に描写されたのは1880年代のアナーキスト,ヨハン・モストの小冊子『爆弾の哲学』で,次のような相互に関連した命題を提示した.

  1 異常な暴力は人民の想像を掴む.
  2 そのとき人民を政治問題に目覚めさせることができる.
  3 暴力には固有の権限があり,それは「浄化する力」である(後に反植民地作家フランツ・ファノンが述べたように).
  4 体系的暴力は国家を脅かすことができ,国家に非正統的な対応を余儀なくさせる.
  5 暴力は社会秩序を不安定化し,社会的崩壊に追いこむ(「テロの連鎖」とテロ鎮圧).
  6 最後に人民は政府を否定し,「テロリスト」に頼るようになる.

 このようにみるとテロリズムと称するにふさわしいのは,単に政治目的のために暴力を行使することではない.異常な暴力でも,非武装の者に対する武装した者の暴力でもない.テロリズムとは,独立した,十分な,そして決定的な一つの政治的戦略とみなせる.
(本書第1章より)
著者
チャールズ・タウンゼンド(Charles Townshend)
現代イギリス史,アイルランド史.現在,キール大学歴史学部教授.著書 The British Campaign in Ireland 1919-1921(1975),Making the Peace: Public Order and Public Security in Modern Britain(1993)ほか.
訳・解説者
宮坂直史(みやさか なおふみ)
1963年生.国際政治.現在,防衛大学校国際関係学科助教授.著書『国際テロリズム論』ほか.最近の論文に“Bioterrorism and Japan”in Bioterrorism and Consequence Management(New York: Japan Society and NIRA,2003)など.

書評情報

週刊金曜日 2003年10月10日号
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