もっと知りたい!日本語(第II期)

ささやく恋人,りきむレポーター

口の中の文化

文字にならないような声の使い方が,文字にできることばと同じように,話し手のきもちと複雑に結びつく.

ささやく恋人,りきむレポーター
著者 定延 利之
ジャンル 書籍 > 単行本 > 言語
シリーズ もっと知りたい!日本語(第II期)
刊行日 2005/07/15
ISBN 9784000068369
Cコード 0381
体裁 B6 ・ 並製 ・ カバー ・ 246頁
在庫 品切れ
苦しそうに顔をゆがめてりきみ声で賞賛を表す日本人.このありふれた行動は,どこの言語文化でも通じるものではない.文字にならないような声の使い方が,文字にできることばと同じように話し手のきもちと複雑に結びつき,文法と関わっている.生の日本語を観察することではじめて見えてきた,言語と音声と文化の深い関係.


■著者からのメッセージ
 「だ,い,す,き」と耳元でささやく恋人の声が,最後の「き」でポンと高く上がるのはなぜか.「この部屋のカバンだけで1億ぐらいかなー」という金持ちの自慢に応じるレポーターの「はー」が,りきんで発せられるのはなぜか.「今後の展開が楽しみですね」とコメントしたニュースキャスターが「スシュー,では次のニュースです」と空気をすするのは単なる息継ぎか.日常なにげなくしゃべっている私たちの声には意外な文化差があり,また,予想もしないところに文化差を超えた類似性がある.そういえば,あれはストリート・プリーチャーと言うのだろうか.3年前の夏,ルーマニア,ブラショフの街角で「終末は近い.悔い改めよ」と説く若者を見かけた.通行人に無視されながら早口でまくしたてるその声は,日本で耳にする「めぐまれない子供たちのために…」という募金の呼びかけや,「はいダイコン安いよー」という八百屋の売り声を瞬時に思い出させるほど,高く,平らであった.
一 はじめに
電話でしゃべるサイボーグ
現実の日本語を教える
「パパ,おにいちゃんがパパカイする!」
子供はイントネーションをまちがわない

二 言いよどむ
フィラーを発してはいけない人たち
フィラーを発してよい人たち
儀式とコミュニケーション
日本人は偽善者か?
「サー運動」?
あからさまに儀礼的なフィラー
あからさまに儀礼的なフィラーは偽善ではない
何が丁寧か?
フィラーは情報のやりとりを妨げ,助ける
個人の心内世界へ
「えーと」と言えて「あのー」と言えない時
緑の三角をイメージする
教科書を読む
「あのー」と言えて「えーと」と言えない時
話す内容の検討と,話し方の検討
「えーと」も「あのー」も自然な時
コミュニケーションと心内行動
相手に聞かせるひとりごと

三 つっかえる
どくろ仮面
どくろ仮面・2
どくろ仮面・3
ベテラン店員の発言
内容語と機能語
語中の延伸型つっかえは中国語にはあまりない
続行方式のつっかえも中国語にはあまりない
律儀なエスキモー語
つっかえの基本
とぎれ延伸型のつっかえ
つっかえはまちがいか?

四 声を上げ下げする――イントネーションとアクセントの戦い
ラーソラ
高い平坦
アクセントの逆襲
じりじり上昇
イントネーションとアクセントのせめぎあい
「帰ろう?」
「からくない?」
イントネーションとアクセントの関係
進んで返事する「はい,はい」と,イヤイヤ返事する「はい,はい」
低い山,高い山

五 声を上げ下げする――文節と文のあいだ
恋人の耳元で
末尾上げと終了のきもち
文節末の末尾上げ
戻し付きの末尾上げ
誰が誰をバッシングしたいのか?
なぜしゃべるのがヘタなのか?
意識するからヘタになる
コミュニケーション行動としてのことば
話し手の意識が文節を文らしく育てる
文節と文のあいだ
キャラ助詞

六 りきむ
りきみ?
苦しみのりきみ
依頼発言のりきみ
依頼に丁寧に応対するには?
相手の目の前でやってみせるということ
相手の目の前で「さー」と考えてみせる
相手の前で恐縮してみせるというやり方
土下座エモティコン
相手の意見を否定・却下する際のりきみ
りきむ権利
りきむ権利の伸縮
体験を語るとはもう一度その体験を生きることである
「納豆パックなら,北京でありましたよ」
体験表現とりきみの違い
感心のりきみ
再び,りきむ権利と誠実性
苦しみと感心
うなる
低い山,高い山
フロイスの見た日本
「私はおやじではないからりきみなど知りません!」
強調のりきみ

七 空気をすする
空気すすりとは?
ニュースキャスターのスシュー
コミュニケーション行動としての空気すすり
シーの人
神主は空気をすすれるか?
空気をすする権利
空気すすりのバックコーラス?
式典で
「ま,キミ,一杯いこ」「スシューッ」
ビールのつぎ手の空気すすり
空気すすりの意味
考えをまとめるための一時退却
恐縮の退却
くだらないこと言っちゃったかな
あぶないこと言っちゃったかな

八 まとめと考察
きもちと音声の結びつきは,どんな言語文化でも同じなのか?
どんなデータを根拠に,そういうことを言うのか?
日本語の音声コミュニケーションは,日本語の文法と無関係か?
音声コミュニケーションとはどのようなものか?
個人と社会の間で
異なる位相,異なる文化との共生

あとがき
定延利之(さだのぶ としゆき)
1962年大阪生まれ.1998年京都大学大学院文学研究科博士後期課程修了.博士(文学).現在,神戸大学国際文化学部教授.
通常の言語研究では軽視・無視されがちな現象をことさらに考察し,それを通じて言語研究の前提に再検討を加えようとしている.最近のテーマは「人と環境との(あるいは人と人との)インタラクションが,ことばとどう関わっているか」.体験と知識,探索と体感などに関心を寄せる.
著書に『よくわかる言語学』(アルク,1999),『認知言語論』(大修館書店,2000),『日本語のとりたて』(共著,くろしお出版,2003),編著書に『「うん」と「そう」の言語学』(ひつじ書房,2002)などがある.

書評情報

関西英文学研究 第3号(2009年12月)
日本経済新聞(夕刊) 2008年2月12日
認知科学 Vol.14 No.2(2007年6月)
朝日新聞(夕刊)〔大阪〕 2006年6月22日
月刊言語 2006年1月号
星座 2006年初風号
日本語学 2005年10月号
日本経済新聞(朝刊) 2005年9月4日
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