自由の平等

簡単で別な姿の世界

そう無理せずぼちぼちやっていこう.世界の別の顔はそこにみえているかもしれない.

自由の平等
著者 立岩 真也
ジャンル 書籍 > 単行本 > 哲学
刊行日 2004/01/14
ISBN 9784000233873
Cコード 0012
体裁 四六 ・ 上製 ・ カバー ・ 404頁
在庫 品切れ
働ける人が働き,必要な人がとる.頑張った人におまけはしても,必要な人を妨げることはしない.一人一人が生きていくこと,そのための自由を守ることこそ,なにより大切なことだから.「自由の平等な分配」から始まるオルタナティブな世界への道筋を,気鋭の社会学者が広範にそして克明に検証した意欲作.


■著者からのメッセージ
 「もう一つの世界は可能だ」という言葉を時々耳にする.私はその通りに思っている.ただ,まったく別の世界としてそれは現われるのでなく,むしろ多くの人々においては既にそれは存在しているのだと思う.私のする仕事は,その姿を私なりに明確にする仕事だと考えている.(「あとがき」より
 その仕事の全体については,まだ見えていないところも多々あるのだが,序章の第3節で予告した.次のような構成になっている.分配する最小国家?/不足・枯渇という虚言/生産の政治の拒否/労働の分割/生産・生産財の分配/持続させ拒んでいるもの/国境が制約する/分配されないもののための分配.
 さてこの本は全体の始まりの部分に位置する.人の存在とその自由のための分配を主張する.つまり「働ける人が働き,必要な人がとる」というまったく単純な主張を行なう.
 まずそのようには言わない主張を検討する.自由を尊重すると言い,国家による税の徴収とそれを用いた再分配を不当な介入だと批判する人たちがいる.しかしその批判は自らを堀り崩す.同じ根拠から彼らの主張を否定することができる(第1章).
 次に羨望や嫉妬やルサンチマンといった語を使ってなされる社会的分配に対する非難がある.他の人の不幸を望み喜ぶことが望ましくないことに同意しよう.自らが得られないものの価値を引き下げるのも暗い行いではあろう.しかし社会的分配についてはその批判は当たらない.むしろ怨恨を持ち出して分配を批判する側の方が怨恨の圏域に内属している(第2章).
 そして,私がただ私であるというだけで存在していられることを望むなら,また,人が人であるだけで存在していることはよいことだと思うなら,その双方が存在と存在の自由のための分配の規則を支持する(第3章).
 第4章から第6章は自らの論をより明確なものにする試みであるとともに,社会改良派のリベラリズムの考察にあてられる.その立場は,一人一人がよいとするものを尊重しゆえにそれに立ち入らず,自らは無色だと言う.しかしそれは望ましいことでなく,不可能なことでもある.このように言うことと,私たちもまた人々の多様性を尊重すべきだと考えることとは矛盾しない.むしろ私たちの考えでは,存在の多様性を尊重しようとすれば,特定の立場に加担せざるをえないのである.
 人は欲し,生産し,そして取得する.まず第一のもの,人の欲求・価値がどのように捉えられるのかを検討し,批判し,自らの立場を対置する(第4章).次に,リベラリズムは,私たちのように単純に生産と取得とを別に考えようとは言わない.生産する能力を等しくすることによって平等の側へ行こうとする.しかしこれはうまくいかないことを説明する(第5章).そして,世界にあるものの何がその人のもとに置かれるかについて,つまり所有権の付与のあり方について,リベラリズムが間違ってしまうことを言い,別の基準があることを確認する(第6章).
序章 世界の別の顔
 1 書かれていること1
 2 書かれていること2
 3 この本では述べないこと
第1章 自由による自由の剥奪―批判の批判1
 1 「自由主義」による自由の剥奪
 2 ゲームから答はでない
 3 迷惑をかけない限り勝手であるという説の検討
 4 もっともっともな論
第2章 嫉妬という非難の暗さ―批判の批判2
 1 つまり羨ましいのだと言われる
 2 批判の批判2―羨ましいについて
 3 さらに言われうることについて
第3章 「根拠」について
 1 「根拠」という問い
 2 私の存在と他者の存在
 3 普遍/権利/強制
第4章 価値を迂回しない
 1 回避
 2 回避しない
第5章 機会の平等のリベラリズムの限界
 1 限界
 2 代わりに
第6章 世界にあるものの配置
 1 それが留まってしまう場所
 2 もっと普通の答

 注/あとがき/文献/索引
立岩真也(たていわ しんや)
1960年生まれ.
東京大学大学院社会学研究科博士課程修了.信州大学医療技術短期大学部等を経て,現在立命館大学大学院先端総合学術研究科助教授.専攻,社会学.
著書に,『私的所有論』(勁草書房),『弱くある自由へ』(青土社),『増補 生の技法』(共著,藤原書店)などがある. ホームページはhttp://www.arsvi.com

書評情報

図書新聞 2004年6月19日号
週刊東洋経済 2004年4月10日号
読売新聞(朝刊) 2004年3月21日
京都新聞(朝刊) 2004年2月8日
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