生命の政治学

福祉国家・エコロジー・生命倫理

社会保障,環境政策,生命科学での生命観を社会システムの観点から統合的に考察.人間理解への新視点.

生命の政治学
著者 広井 良典
ジャンル 書籍 > 単行本 > 社会
刊行日 2003/07/24
ISBN 9784000236362
Cコード 0036
体裁 四六 ・ 上製 ・ カバー ・ 290頁
在庫 品切れ
人間の「生命」とは何か.従来,個々バラバラに論じられてきた,福祉国家・社会保障,環境政策・政治,生命科学・倫理における生命観を社会システムという観点から統合的に考察.サイエンスとケアを媒介する臨床的視点に裏打ちされつつ,人間理解の新しいぺースぺクティブを提示する.国際比較を交えながら知られざる様々な事実を紹介し,今後目指すべき社会のあり方を構想する.

■著者からのメッセージ

医療や福祉など社会保障政策あるいは福祉国家をめぐる課題,環境政策/環境政治やエコロジーに関する話題,そして生命倫理や生命科学のあり方に関するテーマ群.これからの社会の姿を考えるにあたって本質的な重要性をもつと思われるこれら3つの領域は,本当は互いに深く関連し合っているはずのものでありながら,アカデミズムの縦割り性や専門分化も手伝って,ひとつのパースペクティブの中で論じられ構想されることがほぼ全くありませんでした.端的にいえば,この本はそれをやってみようという試みです.一方で各国における政策展開や現実的な動きなど「事実」の把握に十分な注意を払う一方,そこから展開,飛躍してひとつの一貫した座標軸や新しい価値選択の枠組みを「構想」することを目指しています.ただしそれが成功しているといえるか否かは,ひとえに読んでくださった方の評価にかかっています.
 この本は,私のここ10年余りの仕事のひとつの決算でもあり,また2001年春から1年間の海外研究の経験やそこで得られた知見とも密接な関わりがあります.そういう意味では,テーマの性格上硬質な記述がある程度含まれてはいるものの,自分としては比較的論旨が明瞭な,それなりに面白く読めるものになっているのではないかと期待しています.
 ともあれ,今の日本に何より必要なのは,社会のあり方についての基本的な「価値の選択」を問う場としての(すなわち本来の意味の)「政治」であり,それが「生命の政治学」ということに重なってくると思っています.

■編集部からのメッセージ

本書は,「著者からのメッセージ」にもあるように,社会保障の分野を中心に過去十年間精力的に問題提起をしつづけ,各方面から高い評価を獲得してこられた広井先生のこれまでのすべての仕事を結節する重要な著作です.
 持続可能な福祉社会をどうやって構築していくか,またそもそも「豊かさ」とは何か.「定常型社会」という批判的かつ大胆な構想をさらに深化させたまさに刺激的な労作です.
 事実をして語らしめる具体的記述,社会保障/福祉,エコロジー/環境,生命倫理/生命科学の3つの領域にまたがる日本とアメリカ・ヨーロッパ間の政策選択の比較,社会システムの背後にあってそれらを規定している人間的・臨床的関係や人間存在そのものにかかわる洞察は,いずれも新鮮で読むものを惹きつけずにはおかないでしょう.またそれらの知見を総合し今後めざすべき社会ヴィジョンを提示する構想力は,壁に突き当たった感のある諸ジャンルの議論をブレイクスルーさせる喚起力をもつものです.
 広く一読をお奨めしたい,意欲的な書下ろしの論考です.
はじめに
第I部 社会システム
1 生命科学の政治学――「生命倫理」を超えて
    [インターミッション・1]「安全保障」より「社会保障」を――同時多発テロ事件直後のアメリカにて
2 エコロジーと福祉国家――比較福祉・環境政策のために
    [インターミッション・2]宗教と社会福祉国家
3 福祉国家の接近と多様化――「持続可能な福祉国家/福祉社会」へ
    [インターミッション・3]宗教と社会福祉国家
第II部 ケア/生命
4 ケアをめぐるクロス・オーバー――サイエンスとケアの接点
    [インターミッション・4]フィンランドの「サイレンス」
5 自然のスピリチュアリティ――エコロジーの再定義
    [インターミッション・5]アメリカとヨーロッパ
第III部 生命の政治学
6 生命の政治学のために
    [インターミッション・6]「日米同盟」を問い直すとき
7 定常型社会へ
参考文献
広井良典(ひろい よしのり)
千葉大学法経学部教授.専攻=医療経済・社会保障論,科学哲学.
1961年生まれ.東京大学教養学部卒業(科学史科学哲学専攻).同大学院総合文化研究科修士課程修了.1986年から96年にかけて厚生省勤務.この間,米国MIT大学院留学.1996年千葉大学法経学部助教授.2003年より現職.
著書に,『日本の社会保障』(エコノミスト賞受賞)『定常型社会――新しい「豊かさ」の構想』(いずれも岩波新書)『エイプリルシャワーの街で:MITで見たアメリカ』『アメリカの医療政策と日本』(吉村賞受賞)『医療の経済学』『生命と時間』『医療保険改革の構想』『遺伝子の技術,遺伝子の思想――医療の変容と高齢化社会』『ケアを問いなおす――〈深層の時間〉と高齢化社会』『ケア学』『死生観を問いなおす』など.

書評情報

図書新聞 2003年11月15日号
毎日新聞(朝刊) 2003年11月2日
ページトップへ戻る