第Ⅲ巻
ISBN 978-4-00-092853-3
定価5,280円第Ⅴ巻
ISBN 978-4-00-092855-7
定価4,620円第Ⅰ巻
ISBN 978-4-00-092851-9
定価5,170円第Ⅳ巻
予定より遅れておりますが、2024年春の刊行に向けて鋭意準備中です。
※以降、原則として3カ月毎に刊行予定。A5判・上製函入・平均400ページ・予定平均定価6,000円
オランダの哲学者。ポルトガルからの亡命ユダヤ人の家庭に生まれる。1656年異端を疑われてユダヤ教団を破門され、光学レンズの作製を生業の一つとし、友人たちに囲まれつつ、思索と執筆に専念する。思惟実体と延長実体は同じ一つの絶対的に無限な神的実体であり、万物はそれを表現する様態であるとする形而上学を展開。匿名で公刊した『神学政治論』、没後刊行された『遺稿集』ともオランダ政府から禁書処分を受けた。アカデミズムの傍流にありながら、ヨーロッパの哲学・思想史においてつねに重要な位置を占め、独自の魅力を放ち続けている。
スピノザには際立った特徴がある。まず、デカルトやヘーゲルのような学派の形成というものがない。「スピノザ主義」という名称も、プラトン主義やカント主義と違って、何か途方もない逸脱を知らせる危険標識に見える。スピノザは学統の中にはいない。むしろ彗星のように、彼方にあって外から接近してくるのである。
17世紀中葉、スピノザはヨーロッパ世界に「一個の不気味な塊」として出現した。現実存在は神そのものであって、人間を含めすべての事物はその無限の力能の一部として存在する。こうした『エチカ』の思想、始原も目的も持たぬ神の全面化は、近代の啓蒙にとって得体のしれない異物であり続けた。その後、哲学は二度にわたってスピノザの大接近を経験している。一度目は18世紀末から19世紀にかけて。フィヒテ、シェリング、ヘーゲルらのドイツ観念論の勃興はその強い作用域にあったことが知られている。そして二度目は20世紀のフランス。アルチュセールやドゥルーズを始めとする1960年代の熱気の中、スピノザの名は非人間主義のひとつの符牒であった。
そして21世紀、〈Humanite=人類〉という長い夢が追い立てられるように覚めようとしている今、またスピノザ再接近の気配がある。スピノザは自由と至福、救済を、そして神学‐政治論的迷信からの解放を、「人間」からもっとも遠いところから考えた。人間は、人間ならざるものからできているのかもしれない――。スピノザを読むこと、それは、人間の真理をそこから考えなおすひとつの可能性にほかならない。本全集の刊行がその一助とならんことを切に願って。
編者 上野 修・鈴木 泉
長く待ち望まれた完全版のスピノザ全集を日本語で読める日が訪れた。ここに言祝ぎたい。スピノザは、真っ当さと異様さが、あるいは穏やかさとラディカルさが、一つになっている不思議な哲学者である。編者の一人である上野修氏の肉声を通して、私は(主に山口大学在職時代に)日常的にスピノザ哲学に親しむ機会に恵まれた。彼の精神の眼を通してスピノザに接するとき、その魅力はいっそう強力になって、私の思考にも感染した。スピノザ特有の様相としての必然性、外のない現実としての神の働きについて、私もまた考え続けることになった。この全集の味読を通して、何度でもスピノザ哲学と向き合えることは、大きな希望である。
ときおりスピノザの著作を開く「素人のスピノザ読み」といったカテゴリに属する自分にも、今回のスピノザ全集が日本の哲学研究の底力と読者層の厚さを証しする快挙であるのはわかる。そのことがうれしい。そして、誇らしい。トーヴェ・ヤンソンがまだ存命だったら勇んで報告したのに――。スナフキンのモデルとされるアトス・ヴィルタネンの肩書は政治家、新聞記者、詩人とさまざま。でもヤンソンは彼を「哲学者」と呼んでいた。だから愛称は「フィロソフォス」由来の「ソフェン」。彼自身はニーチェ風の警句を得手としたが、ヤンソンは後期の短篇「植物園」に登場する偏屈な老人にスピノザへの敬意を語らせた。スピノザの網羅的な全集が日本語で刊行されたと聞いたら、ふっと笑って答えたにちがいない。さすがですね、日本の読者も、と。
1951年生。大阪大学名誉教授。『スピノザと十九世紀フランス』(共編、岩波書店、2021年)、『スピノザ『神学政治論』を読む』(筑摩書房、2014年)ほか。
1963年生。東京大学大学院人文社会系研究科教授。『西洋哲学史』全4冊(共編、講談社選書メチエ、2011-12年)、『ドゥルーズ/ガタリの現在』(共編、平凡社、2008年)ほか。
日本では畠中尚志(1899-1980)による翻訳が岩波文庫に収録され、個人訳“全集”として定着してきたが、この間、読者の世代と関心は大きく変遷した。こうした状況を踏まえ、時代に合った読みやすい新訳でお届けする。
各国語の翻訳の底本となってきたゲプハルト版スピノザ全集も、研究の進展により、いまや自明のスタンダードとは言えなくなっている。『遺稿集』をはじめとする一次資料の文献学的な研究の進捗、『エチカ』のヴァチカン写本の発見、フランスでの新全集の刊行(1999年?)など、世界の最新の研究成果を踏まえ、それらとの照合を経た最良のテクストを提供するとともに、精細な訳注を付す。
スピノザによるヘブライ語文法の研究書『ヘブライ語文法綱要』を、日本で初めて翻訳・収録する。
各巻に詳細な解説を付すとともに、別巻には充実した資料集と総索引を収録。これからのスピノザ研究に必備。
1663年公刊。デカルト哲学に関する個人授業を契機に生まれた、スピノザの名を冠して生前に公刊された唯一の著作。『デカルトの哲学原理』はデカルト哲学の再構成、その付録である『形而上学的思想』は近世スコラ学の形式におけるデカルト形而上学の展開を、それぞれ試みる。本著作によってスピノザは言わば哲学研究者としてデビューし、デカルト主義を自らの固有の哲学を打ち出すための堡塁とした。
1670年匿名で公刊。近代的な批判的聖書解釈の嚆矢として知られる。哲学と神学の対立を「理性」と「信仰」、ないし真理の探究と敬虔の実践の対立ととらえ、両者は対立するのではなく、無関係ゆえに両立可能であると説く。無神論の書として激しい批判にさらされ、1674年発禁処分。激烈な宗教論争の世紀において知的営為の自由の意義を根底から問うた作品である。
1677年公刊。スピノザの主著。生前の出版はかなわず、没後に友人たちが編纂した『遺稿集』で初めて公にされた。幾何学的証明のスタイルによって、定義と公理から諸定理の証明を展開する本著作は、至福の認識をめざす倫理学(エチカ)の書でありながら、その全体がひとつの哲学体系を提示している。翻訳においては、2010年にヴァチカン図書館の異端審問資料庫で発見された写本を可能な限り尊重した。
いずれも1677年に友人たちが編纂した『遺稿集』で初めて公刊。スピノザの方法を提示し、「私(=スピノザ)の哲学」へと導入することを目論むが未刊に終わった『知性改善論』、統治権を群集の力能によって定義し、暴政に陥らない国家体制を構想する『政治論』に加えて、本邦初訳の『ヘブライ語文法綱要』を収録。
1862年公刊。スピノザ自身の哲学思想を友人たちのサークルのために講義したもの。もとのラテン語テクストは残っていない。のちに『エチカ』で展開される哲学体系の萌芽が見てとれる著作だが、スピノザは公刊を断念した。19世紀半ばにオランダ語訳をもとにした写本が発見されるまで、書簡と間接的な証言によってしかその存在は知られていなかった。
1661年から没年である1677年に至るまでにやり取りされた書簡を収録。1677年に友人たちが編纂した『遺稿集』で75通が公刊されたのち、今日までに発見された全書簡を収録。往復書簡の相手はもちろんのこと、当時の状況についての詳細な訳注と解説を付す。
資料集として、詳細年譜、1677年公刊の『遺稿集』に付された序文、スピノザの蔵書目録、文献案内などを収録予定。また、人名・事項を含む総索引を付す。
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