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桐野夏生
ついに文庫化

狂気か、正気か。

装丁 鈴木成一デザイン室 装画 大河原愛

ストーリー

story

小説家・マッツ夢井のもとに届いた一通の手紙。
それは「文化文芸倫理向上委員会」と名乗る政府組織からの召喚状だった。
出頭先に向かった彼女は、断崖に建つ海辺の療養所へと収容される。
「社会に適応した小説」を書けと命ずる所長。終わりの見えない軟禁の悪夢。
「更生」との孤独な闘いの行く末は――

小説家・マッツ夢井のもとに届いた一通の手紙。それは「文化文芸倫理向上委員会」と名乗る政府組織からの召喚状だった。出頭先に向かった彼女は、断崖に建つ海辺の療養所へと収容される。
「社会に適応した小説」を書けと命ずる所長。終わりの見えない軟禁の悪夢。「更生」との孤独な闘いの行く末は――

目次

contents

  • 第一章 召 喚
  • 第二章 生 活
  • 第三章 混 乱
  • 第四章 転 向

推薦のことば

recommendations

大友花恋さん

本の力ってすごい。
この小説を私は一生忘れないと思います。
「王様のブランチ」TBS系 毎週土曜あさ9時30分より生放送 にて

筒井康隆さん

これはただの不条理文学ではない。文学論や作家論や大衆社会論を内包した現代のリアリズム小説である。国家が正義を振りかざして蹂躙する表現の自由。その恐ろしさに、読むことを中断するのは絶対に不可能だ。

石内都さん

個人的な価値観、個人的な言葉、個人的な行動をもとにして作品を創る。それは自由への具体的な希求であり表現だ。その基本がいつの間にか奪われ拘束される。
『日没』は桐野夏生でさえ越えられない身のすくむ現実がすぐそこにあることを告げる。

荻上チキさん

息苦しいのに、読み進めずにはいられない。桐野作品の読後には、いつも鈍い目眩が残ると知っていても――。自粛によって表現を奪い、相互監視を強める隔離施設。絶巧の文章が、作中世界と現実とを架橋する。

武田砂鉄さん

絶望の中でも光を探すことができる、と教わってきた。だが、この物語にそういう常識は通用しない。読みながら思う。今、この社会は、常識が壊れている。
どこに向かっているのだろう。もしかして絶望だろうか。

著者プロフィール

profile

桐野夏生(きりの・なつお) ©Ishiuchi Miyako
桐野夏生(きりの・なつお)

1951年生まれ。 93年「顔に降りかかる雨」で江戸川乱歩賞受賞。 99年『柔らかな頬』(講談社)で直木賞、 2003年『グロテスク』(文藝春秋)で泉鏡花文学賞、 04年『残虐記』(新潮社)で柴田錬三郎賞、 05年『魂萌え!』(毎日新聞社)で婦人公論文芸賞、 08年『東京島』(新潮社)で谷崎潤一郎賞、 09年『女神記』(KADOKAWA)で紫式部文学賞、 『ナニカアル』(新潮社)で10年、 11年に島清恋愛文学賞と読売文学賞の二賞を受賞。 1998年に日本推理作家協会賞を受賞した『OUT』(講談社)で、 2004年エドガー賞(Mystery Writers of America主催)の候補となった。 15年に紫綬褒章を受章、21年に早稲田大学坪内逍遙大賞を受賞、23年には『燕は戻ってこない』で毎日芸術賞と吉川英治文学賞の二賞を受賞。『砂に埋もれる犬』『真珠とダイヤモンド』『もっと悪い妻』など著書多数。日本ペンクラブ会長を務める。

著者のことば

この作品の主人公は、小説家のマッツ夢井です。マッツは、エッチな小説をうまく書きたいと願ったり、才能ある同業者に嫉妬したりして、猫と暮らしています。

ところが、ある日突然、マッツはブンリンというところから召喚状をもらいます。そして、見知らぬ岬の療養所に行く羽目に。そのうち出られるだろうと高を括っているうちに、マッツは自分が幽閉されていることに気付くのです。

何かが変だ。何かが変わってきている。

違和感を覚えながらも日常に流されているうちに、いつの間にか、世の中の方がすっかり変わってしまっている。この小説は、そんな怖い話です。

フィクションとして楽しんで頂けたら嬉しいですが、世界にはこんな話はいくらでも転がっています。フィクションが現実にならないことを、心から祈ります。

書店員さんの声

voices

とにかく、怖い、怖い、まじで怖い。
そこらへんのホラー小説よりも背筋が凍るし、フィクションだけれど、妙にリアリティがあるし、主人公の絶体絶命感がハンパなく、単純に面白いとも言い難く、それでも一気読みしてしまう。
なんなんでしょうか、この物語のパワーというか、魅力というか、一筋縄では行かない感じ。
まさに絶望小説の金字塔ですね。

(丸善日本橋店文芸担当 稲田健司さん)

面白い。面白かったです。夢中で読んでしまいました。
エンターテイメントなんだけど、のど越しがざわざわするものを飲まされてるような、始終消えない不気味さがありました。現実にこんなことは起きないだろうけど、「いや起きないって……たぶん」となるような歯切れの悪さがずっとありました。
皆それぞれ考えている「最善」や「正義」が違っていて、こちらから俯瞰して見てる分には「残酷」に映る行為も彼らにとってみるとそのことは「最善」であったり「正義」であったりするのだろうな……と考えました。
だいたいにおいて暴力の一番のガソリンは「正義」であったりします。
ちょっとした反社会的な表現がすぐSNSで切り取られて炎上する今の時代だから、傷口にしみるように伝わる作品だと思います。
いやーでも残る。気持ち悪い作品でした(誉め言葉)。やばいっすねこれは。令和の問題作品です。

(伊野尾書店 伊野尾宏之さん)

桐野夏生さんの小説が好きです。
頑張る女性の描き方も、その時代の背景を色濃く描く小説も、踏ん張れなくて落ちてく女性の姿も、色んな桐野さんの文章と筆力が好きだと思っていました。
でも、この本の圧倒的な世界観に、今までの好きだ! は通用しないなと思いました。
不条理小説と言われる本は、きっと数多くあるのでしょうが、この本の不条理感と、息が詰まるのに、手が止まらない恐ろしさは一級品でした。
ラストは確実に、衝撃が胸に刺さります。
今年一番! 心してかかって欲しい1冊です。

(三省堂書店名古屋本店 本間菜月さん)

暗澹たる読後感をもたらす『日没』。
それでもこのデストピアはユートピアへと開かれている。
彼方のユートピア、その蜃気楼への開かれ、それを希望という。
ユートピアは、世界を因果に落とし込みなぞるだけでは生まれない。『日没』は世界を閉じることなく物語られる。
だからこそ、『日没』は単なるリアリズムを越えていく。ここに私達の現実の世界が、『日没』の世界に溶け込んでゆく。
桐野夏生の書いた『日没』は小説です。
「あなたの書いたものは、良い小説ですか、悪い小説ですか?」
この問いには、そう答えよう。

(京大ブックセンタールネ 山下貴史さん)

読んでいる間中、得体のしれない薄気味悪さと同時に言いようのない恐怖につきまとわれていた。
読み終わってその正体にようやく気付いた。
書く側の表現の自由を国家が操作したとしたら、結果的に読む側も間接的に操作されていることになるのだ。
それは最早、国家による国民の洗脳だ。
この小説が読み手にもたらすもののあまりの大きさに驚愕した。

(幕張 蔦屋書店 後藤美由紀さん)

読めば、まず違和感を覚える。次第に不愉快になる。イライラがつのってくる。希望はないのか。著者は、主人公マッツだけでなく、読者を怒りの渦に巻き込ませる。怒りを伝える批判精神こそ、文学だ。

(教文館 伊藤豊さん)

もう「表現の自由」なる言葉はとうに死んだのかもしれません。
本書がこんな時代に出版されることに、まだ希望はあるのか? 猶予を与えられているに過ぎないのか? とにかくこの書、そして著者に敬意を表したいです。この本が禁忌として焚書される未来は、このままのこの国の在り方では、そう遠くないでしょう。

(BookDepot書楽 長谷川雅樹さん)

先を読むのが恐ろしく、なのに途中で中断することすらできず、一気に読み進めました。読み終えた今も鳥肌が立っています。
本当に恐ろしく、面白く、すごい小説を読んでしまった…!という気持ちでいっぱいです。
作中の言葉をお借りするなら、まちがいなく本作は良い小説です。

(SerenDip明屋書店アエル店 武方美佐紀さん)

桐野さん初読みでした。
こんな世界になるとすれば怖くて仕方ないと思いつつ、本当はこんな世界になっているのかもしれないという錯覚におちいってしまう、そんな不思議な感覚でした。
実際、「自由」という事柄に対して考えさせられることが増えている現代に欠かすことができない小説ではないでしょうか。「自由」って、「正しい」って、何なんでしょうか。私にはわかる気がしません……。

(紀伊國屋書店梅田本店 辻本彩さん)

後味悪ーっ!
それにしても恐ろしい話です。現在の日本の状況の遠い先にあるかもしれない物語ではなくて、すぐそこに、もしかしたらもうすでに今ここにあって進行中の物語なのではないかと、感じました。
表現の自由や多様性の確保は、たやすく失われてしまうということを、わたしたちは思い出さなくてはいけません。当然それは与えられるものではなく、常にせめぎあい、戦いの中にあって、やっと維持できるものなのだと思います。
あと、まずそうな食べ物の描写がこれでもかと出てきて、堪えました……。

(往来堂書店 笈入建志さん)

桐野先生! やるなあ! と思いました。面白い。
そして、マッツがもしかしたら桐野先生? なんて思うほど。
表現の自由をしばりあげる、コントロールする、思想を弾圧するというのは、このようなことなのかと思いました。
しかし、食事を貧しくすると、人の心はコントロールしやすくなるのですね。
書くことというのは、こんなにも影響力があり、小説家というのは、ある意味、存在そのものが孤独な闘いそのものなのだろうなあと思います。(思わずコカ・コーラゼロを買いにいきました!)

(有隣堂藤沢店 佐伯敦子さん)

マッツさんがどうなっていくのか怖いのにページをめくる手が止められませんでした。
ラストも意外な人が出てきたり、そうなってしまうのか……と、とても衝撃的でした。
未来の日本がこんな風になっていなければいいなと思います。

(紀伊國屋書店福岡本店 富田智佳子さん)

桐野さんが描き出した、荒唐無稽に見える未来=『日没』はおそらく、私達が思っているより、ずっと近いのかもしれない。
最近のニュースやSNSを見ていると、特にそう思います。
良い小説、悪い小説とは何なのか、私たちは本当に良い読み手なのか――。
慄然とさせられる読書体験でした。

(梅田 蔦屋書店 永山裕美さん)

最後のシーンを恐怖なのか救いなのか混乱しながら読みました。
望まぬ状況にいつの間にかどっぷりつかっている。混乱しながら高をくくっていると取り返しがつかなくなるという恐怖が身に沁みました。一番怖かったのは、最後まで、この状況は誰が動かしているのかわからなかったこと。よくありそうな言語統制に見えて、誰がどう動かすのかわからない、面従腹背のつもりが逃れられない泥沼にからめとられていくそのじわじわとした恐怖が最後にぞわっと襲いかかってきました。
これは今読むべき小説です。ぜひこの感覚を肌で感じてほしいです。
個人的には星野智幸さんの『呪文』と併せて読んでもいいのかなと思います。

(ジュンク堂書店池袋本店 小海裕美さん)

『日没』拝読いたしました。久しぶりに一気読みしました。
おかげでその日の夢見は悪かったです。
ありえないような設定ですが、そのありえなそうもない日常を、徹底的に書くことで、段々と現実に近づいていく感じが、心底気味が悪かったです。
たしかにこれは文学の仕事だなと思いました。
桐野夏生はソルジェニーツィンなのかもしれない、と思いました。
ちょっとした小ネタで笑わせるところとか。

(BOOKS青いカバ 小国貴司さん)

『日没』に関するお知らせ

information

2023/8/10

【刊行情報】『日没』(岩波現代文庫)を10月13日に刊行いたします

2023/1/8

【寄稿】「世界」2023年2月号(1月8日発売)に、桐野夏生さんの寄稿「大衆的検閲について」が掲載されました

2022/10/22

【書評】季刊アスタVOL.1(10/22発売)の連載「本の森には…」欄に、大島真寿美さんによる書評が掲載されました

2022/2/5

NHK R1 「高橋源一郎の飛ぶ教室」のコーナー「ヒミツの本棚」で紹介されました

2021/5/1

【エッセイ】「図書」5月号(5月1日発売)の「読む人・書く人・作る人」の欄に、大河原愛さんによるエッセイ〈雲と空のはざまで〉が掲載されました

2021/2/8

【書評】「世界」3月号(2月8日発売)の「読書の要諦」の欄に藤沢周さんによる書評が掲載されました

2021/1/30

【著者インタビュー】「現代ビジネス」(ウェブマガジン・2021年1月30日掲載)に、桐野夏生さんのインタビュー 〈正しくないものを絶対許さない人々と国家…これは「日本の近未来」なのか〉 が掲載されました

2021/1/19

【書評】「週刊朝日」1月29日号(1月19日発売)の「話題の新刊」の欄に朝山実さんによる書評が掲載されました

2020/12/25

【書店様関連】 「キノベス!!2021」(〈紀伊國屋書店スタッフが全力でおすすめするベスト30〉2020年12月25日発表)にて『日没』が第9位に選出されました

2020/12/24

【著者インタビュー】「毎日新聞」(2020年12月24日・東京夕刊)とWEB版に、桐野夏生さんのインタビュー 〈桐野夏生さん、新著「日没」を語る 現実が小説越える不穏さ 国家による表現の弾圧に声を〉 が掲載されました

2020/12/22

【著者インタビュー】「東洋経済オンライン」(12月22日)に桐野夏生さんのインタビュー 〈桐野夏生が「日没」に記す、社会に充ち満ちる怪異〉 が掲載されました

2020/12/19

【著者インタビュー】「東京新聞」(2020年12月19日)の「書く人欄」と、WEB版の「TOKYO web」(2020年12月20日)に桐野夏生さんのインタビュー 〈起きうる「弾圧」リアルに 『日没』 小説家・桐野夏生さん〉 が掲載されました

2020/12/17

【書評】「週刊文春」12月24日号(12月17日発売)の「文春図書館」「今週の必読」欄にて鴻巣友季子さんによる書評が掲載されました

2020/12/15

【寄稿】「朝日新聞」(2020年12月15日・朝刊)とWEBの「朝日新聞デジタル」に桐野夏生さんの寄稿が掲載されました

2020/12/12

【書評】「毎日新聞」(2020年12月12日・東京朝刊)の「2020年「この3冊」/上」欄にて、沼野充義さんによる書評が掲載されました
【書評】「図書新聞」2020年12月19日号・第3476号(12月12日発売)の「20年下半期読書アンケート(1)」欄に、金平茂紀さんによる書評が掲載されました

2020/12/8

【書評】「日本経済新聞」(2020年12月8日・朝刊)とWEBの「日経電子版」の「〈回顧2020〉文学」欄にて、編集委員・中野稔さんによる書評が掲載されました

2020/12/5

【対談】「図書新聞」2020年12月12日号・第3475号(12月5日発売)に、中川成美さんとの対談 " 桐野夏生×中川成美 桐野夏生著『日没』をめぐって 「現実に抗する文学の力」" が掲載されました
【書評】「読売新聞」(2020年12月5日・夕刊)の「文芸季評2020」欄にて、武田将明さんによる書評が掲載されました

2020/11/29

【書評】「京都新聞」(2020年11月29日)に、横尾和博さんによる書評が掲載されました
【書評】「東京新聞」(2020年11月28日・朝刊)と、WEBの「TOKYO Web」(2020年11月29日)に、井口時男さんによる書評が掲載されました

2020/11/26

【記事】「朝日新聞」(2020年11月26日・朝刊)とWEBの「朝日新聞デジタル」に桐野夏生さんのインタビューが掲載されました

2020/11/21

【書評】「日本経済新聞」(2020年11月21日・朝刊)とWEBの「日経電子版」に、大澤聡さんによる書評が掲載されました

2020/11/9

【書評】「週刊現代」2020年11/14・21号(11月9日発売)の「ブックレビュー2」欄にて、小島慶子さんによる書評が掲載されました
【書評】「文學界」12月号(11月7日発売)の「文學界図書室」欄にて、中島京子さんによる書評が掲載されました
【書評】「すばる」12月号(11月6日発売)の「プレイヤード 本」欄にて、鴻巣友季子さんによる書評が掲載されました
【書評】「文藝」2020年冬季号(10月7日発売)「BOOK REVIEW」欄にて、星野智幸さんによる書評が掲載されました
【書評】「新潮」2020年11月号(10月7日発売)「本」欄にて、中俣暁生さんによる書評が掲載されました

2020/11/6

【記事】「女性セブン」11月19日号(11月6日発売)とWEBの「NEWSポストセブン」に桐野夏生さんのインタビューが掲載されました

2020/10/31

【記事】「毎日新聞」(2020年10月31日・東京朝刊)の「今週の本棚・著者に聞く」欄に桐野夏生さんのインタビューが掲載されました

2020/10/22

【記事】「オール讀物」11月号(10月22日発売)の「ブックトーク」欄とWEBの「文藝春秋BOOKS」に桐野夏生さんのインタビューが掲載されました

2020/10/15

【特集】「思想」11月号(10月23日発売)は特集「桐野夏生の小説世界」。巻頭言「思想の言葉」は、沼野充義さん「夜明けはいつ来るのか?――『日没』の問いかけること」です

2020/10/10

【出演】10月10日TBS「王様のブランチ」の「BOOK」コーナーにて、桐野夏生さんのインタビューが放映されました

2020/10/2

【対談】「週刊読書人」10月2日発売号に、星野智幸さん×桐野夏生さんの対談が掲載されました

2020/10/1

【対談】「図書」10月号(10月1日発売)に、武田砂鉄さん×桐野夏生さんの対談“「日没」を迎えて”が掲載されました。WEBマガジン「たねをまく」にてお読みになれます

2020/9/29

【発売】『日没』発売日(小社出庫日)


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桐野夏生『日没』

『日没』

単行本版
2020年9月29日刊
定価1,980円
ISBN 978-4-00-061440-5

『日没』

岩波現代文庫版
2023年10月13日刊
定価990円
ISBN 978-4-00-602352-2